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8話『第一皇子を巡る人々』
5 奇妙な同居生活
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****♡Side・β(カイル)
「荷物はそれだけなの?」
レンがクライスの少ない荷物を見ながら問うのを、カイルは窓辺の近くの椅子に腰かけ眺めていた。
正直とても不思議な気分だ。憎しみの対象であるはずのα性の者が、自分の恋人であるΩ性の者と自宅で、まるで友人のように打ち解け会話している。
「うん。薬以外はあまり必要ないと思って。初めて来国したとき、ホテルにクリーニングの設備もあったし、シャンプーやタオルなどの日用品も部屋にあったから」
クライスはそう言って、ホテルの案内のパンフレットをレンに渡す。彼の荷物は驚くほど少なかった。下着などが数枚。ワイシャツが二枚。スーツにラット抑制剤。電源の入っていないスマホにスコープ。
こんな少ない荷物で長期滞在をしようとしていたのだろうかと、心配になってしまうほどに。
だがこの国では、αがその辺を用もなくうろつくことは出来ない。ほぼホテルに詰めている状態になることを予想していたならば、賢明な判断なのかもしれない。
「外に出るときは正装していたのだろうけど、寝るときとかどうしてたの?」
と、レン。
「え、パンツ一枚で」
クライスの返答に、レンとカイルが同時に吹いた。荷物を極力減らそうというのは分かるが、それはあんまりではないのか?
「ねえ、カイル。クライスの普段着を買いに行こうよ」
「そうだな」
流石にこの家でパンツ一丁は困るだろう。
恥ずかしさに頬を染めるクライスを眺めると、
「うーん、βの国にはαが履けるような長さのズボンはなさそうだ。上は何とでもなりそうだけれど」
と、カイルがレンのほうを見ると、
「ハーフパンツで良いじゃない。αは足は長いけど、太いわけじゃないんだし」
そう、スラリと長い手足を持ち筋肉質なのがαの特徴だ。運動をサボるとすぐに中年オヤジのような三段腹体系になるβとは違い、αは筋肉がつきやすく、筋肉が落ちにくい。その為、何もしなくても腹筋が割れていたりして、カイルにとっては忌々しい体系なのだ。羨ましいともいうが。
「いいよねえ。αは筋肉がつき易くて」
レンはペチペチとクライスの腹を掌で叩きながら。
その様子を見ていたカイルが
「レンの身長で筋肉なんかついたら、ダルマみたいになるぞ」
と言うと、
「うわっ! ひっど」
レンはハンカチを噛みしめるフリをした。そんな二人を見て、クライスがクスクスと笑っている。
「さて、買い物に行こうか」
カイルはニコッと微笑むと椅子から立ち上がり、先に部屋の入口に向かう。レンはパンフレットをサイドボードの上に置くと、クライスに手を差し出し、
「クライス、行こう」
と笑みを浮かべる。
こうして奇妙な同居生活が幕を開けた。
───俺たちはこの時、まだ知らない。
互いが、生涯かけがえのない存在になること。
すでに陰謀に巻き込まれていることを……。
「荷物はそれだけなの?」
レンがクライスの少ない荷物を見ながら問うのを、カイルは窓辺の近くの椅子に腰かけ眺めていた。
正直とても不思議な気分だ。憎しみの対象であるはずのα性の者が、自分の恋人であるΩ性の者と自宅で、まるで友人のように打ち解け会話している。
「うん。薬以外はあまり必要ないと思って。初めて来国したとき、ホテルにクリーニングの設備もあったし、シャンプーやタオルなどの日用品も部屋にあったから」
クライスはそう言って、ホテルの案内のパンフレットをレンに渡す。彼の荷物は驚くほど少なかった。下着などが数枚。ワイシャツが二枚。スーツにラット抑制剤。電源の入っていないスマホにスコープ。
こんな少ない荷物で長期滞在をしようとしていたのだろうかと、心配になってしまうほどに。
だがこの国では、αがその辺を用もなくうろつくことは出来ない。ほぼホテルに詰めている状態になることを予想していたならば、賢明な判断なのかもしれない。
「外に出るときは正装していたのだろうけど、寝るときとかどうしてたの?」
と、レン。
「え、パンツ一枚で」
クライスの返答に、レンとカイルが同時に吹いた。荷物を極力減らそうというのは分かるが、それはあんまりではないのか?
「ねえ、カイル。クライスの普段着を買いに行こうよ」
「そうだな」
流石にこの家でパンツ一丁は困るだろう。
恥ずかしさに頬を染めるクライスを眺めると、
「うーん、βの国にはαが履けるような長さのズボンはなさそうだ。上は何とでもなりそうだけれど」
と、カイルがレンのほうを見ると、
「ハーフパンツで良いじゃない。αは足は長いけど、太いわけじゃないんだし」
そう、スラリと長い手足を持ち筋肉質なのがαの特徴だ。運動をサボるとすぐに中年オヤジのような三段腹体系になるβとは違い、αは筋肉がつきやすく、筋肉が落ちにくい。その為、何もしなくても腹筋が割れていたりして、カイルにとっては忌々しい体系なのだ。羨ましいともいうが。
「いいよねえ。αは筋肉がつき易くて」
レンはペチペチとクライスの腹を掌で叩きながら。
その様子を見ていたカイルが
「レンの身長で筋肉なんかついたら、ダルマみたいになるぞ」
と言うと、
「うわっ! ひっど」
レンはハンカチを噛みしめるフリをした。そんな二人を見て、クライスがクスクスと笑っている。
「さて、買い物に行こうか」
カイルはニコッと微笑むと椅子から立ち上がり、先に部屋の入口に向かう。レンはパンフレットをサイドボードの上に置くと、クライスに手を差し出し、
「クライス、行こう」
と笑みを浮かべる。
こうして奇妙な同居生活が幕を開けた。
───俺たちはこの時、まだ知らない。
互いが、生涯かけがえのない存在になること。
すでに陰謀に巻き込まれていることを……。
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