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1 それぞれの事情

5・【圭一】

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 ****♡side:海斗

「バカじゃないのか?」
「お前には言われたくない」
「ふーん」
 海斗はバカと言われ少しムッとしたが、この男に言い返したところで無駄だと諦めた。
 この男こと【大崎圭一】は、大崎本家の長男の息子で大崎グループの時期副社長である。つまりK学園理事長を父に持つ海斗の親戚。
 容姿端麗、文武両道で非の打ち所の無いイケメンである。腹がたつことこの上ない。彼の幼馴染みである大里グループの令嬢から【美の女神に愛されし男】などというあだ名を付けられるほどに。
 同じ血筋であるにも関わらず、自分は努力の上に成り立っている。ゆえに『なんでも持ってるやつはいいよな!』と海斗は心の中で悪態をついた。

 かといって仲が悪いわけではないと自分では思っている。仲が良くなるほど会話をしたこともないが。
 とにかく何を考えているのかわからない男だ。しかも同じ歳で、同じ学園の大学部一年。何かと比べられてイラつく。
「欲しけりゃとっとと手に入れろよ」
「お前がいうのか?」
 ふっと笑った圭一に更にイラつく。今まで浮いた話の一つも無かった彼は高校の時、突然大里グループの次女と付き合いだした。そして高校と同時に破局。ほんとに恋人だったのかも怪しい。かと思えば、先日姫川の人間と婚約した。左手の薬指に痛いほど光る婚約の証。

 ──正直羨ましい。

 海斗は大崎一族と姫川一族の伝承を思いだす。
 『代々、大崎一族と姫川一族の男児は惹かれ合いながらも結ばれない運命】だというものを。一族のものたちは惹かれ合う互いの相手のことを皮肉を込め『運命の恋人』と呼んでいた。
 そんな環境であるから大崎一族のなかには姫川の者と付き合うことに反対する者はいない。時は同性婚可能な時代。
 身内にはなんの障害も起こらないと言うことだ。それなのに……。
「何が問題なんだよ」
 海斗の様子を見て圭一は呆れた表情を浮かべた。

 ──お前だけにはそんな顔されたくないんだけど!?

「個人的な問題」
「相手は姫川利久だろ? 一途そうないい子じゃないか。何が問題」
 海斗は『誰と比べてるんだよ!』と言いそうになり黙る。
「何かあったのか?」
 勘が良すぎるのも考えものだ。しかしこの男の力を借りたくて、むかっ腹を立てながらもあえて話しかけている。否定すれば振り出しに戻ってしまう。
「海斗さ、プライド高すぎじゃね?」
「お前には言われたくないんだよ!」
 言い返したら、彼は大笑いしている。腹を抱え口元をおさえて。

 ──くそ! 腹たつやっちゃな。

   **■**

 海斗は仕方なく現在の状況を圭一に話す。本当は恋人との性交の悩みなんて他人には話したくは無いのだが、相談できる相手を他に知らなかった。
「それは……あれか?」
「なんだよ、あれって。俺は別にれなくてもいいとは思ってる」
 圭一が言い淀むので自分の気持ちを伝える。
 リクが怖がりながらも挿れて欲しがるのは、海斗のためだ。正直そんなことさせたくない。挿れるべきところではないところに受け入れるのが、どれほど勇気の要ることなのか分かっているつもりだし。

 ──そりゃ……挿れたいけど。

「痛いのが怖いとかじゃないんだろ?」
「それは……」
 こうなった理由まではどうしても言えなかった。脅されて恋人をレイプしたなどと言えば、圭一のことだ誰に脅されたのかと言う追求は免れない。自分の手で制裁は下したが、きっと黙ってなんていない。圭一とはそういう人だ。
「何か、隠してる?」

 ──こういうことは鋭いんだよな。
  自分に対しての好意なんてまったく気付かないくせに。

 それは海斗も同様である。圭一は海斗から目を背けると髪を掻きあげ、ため息をつく。
「言いたくないなら、いいけど……」
 引いたのかと思ってホッとしていたらそうではなかった。
「勝手に調べるし」
「ちょっ!」
 圭一は止めるのも聞かずに歩き出す。スマホを操作しどこかに連絡をしながら。
「ああ……頼む」

 止めに入ったが遅かった。
 電話を切ると圭一は真面目な顔をして、
「ちゃんと解決してやるよ」
 と言った。
「頼んでねえし!」
「強情だな」
 と肩を竦められる。

 ──だから、お前には言われたくないんだよっ!

「解決できないから俺のとこ来たんだろ?」
「……っ」
 分かりきったことを、と言う表情をされ、海斗は唇を噛み締めた。唯一自分のプライドを打ちのめすこの男には、どうやったって適わない。だからこそ、悔しい。
「たまには可愛くおねだりできないのか?」
「誰が!」
 声を荒げると、圭一にくくくと笑われる。

 ──腹たつやっちゃな! ほんと。
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