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2 動き出した時間
6・【兄弟】
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****♡Side・瀬戸
瀬戸は出された珈琲のカップに口をつけながらぼんやりと考えごとをしていた。神楽と馨の二人は相変わらずAG内のシステムの話をしている。
自分がこの時間に呼ばれたのは一時閉店の時間だからだ。
瀬戸と失踪した兄はかなり年の離れた兄弟だった。四年前に失踪するまで仲の良い兄弟だと思っていたが、何も告げずにいなくなってしまうということは自分だけがそう思っていただけのだろうかと思ってしまう。
それとも自分にも言えないくらい急を要する何かがあったのだろうか?
現在、高等部三年に所属する瀬戸。当時は中学生。
まだ子供の自分には話辛かった内容だった可能性もある。
──このまま一生コンタクトを取らないつもりなのか?
日本の法律も変わり以前は二十歳で成人だったが現在は十八歳で成人。それというのも少子化が加速し、財源の確保が大変になったからだとは言うが表向きの理由に感じる。日本では高校生からアルバイトが出来るのだ。もちろん未成年だが所得税は取られる。
いつだってなんだって理由をつけては税金を取ろうと虎視眈々と狙っているくせにそんな理由で成人の年齢が下げられたとは考え辛い。
国のシステムについて考えていた瀬戸はため息をつくと、今はそんなことどうだっていいという結論に至る。
『遥、愛している』
耳に残る兄の言葉。日本人は兄弟間などで愛情表現をしないのかもしれないが、家族愛と考えれば不思議ではない。仲の良かった弟を残していずこかへ去ろうとしていた兄の最後の言葉としては。
だが兄のそれは欲情だったように感じている。
実の弟にただならぬ想いを抱いてしまったから自分の元を去ったというのだろうか。それでも不審な点は残る。
──【霧島美桜】の存在だ。
仮に無関係だったとしてもあんなに兄にそっくりなアバターを使うことには何か理由がるように感じてしまうのだ。せめてどのように生成したのか知りたい。それはもしかしたら単なる好みの男子かも知れないが。
イラストは自分の顔に似るという。日常的に鏡を見ているせいだとは言うが。毎日見ている己の顔は、好みというよりはバランスの基準の気もする。見慣れているからこその。
となれば、何かしら美桜本人にも兄と似ているものが存在するのではないだろうか。
「そういえば瀬戸は人捜しをしているんだったな」
突然神楽から話を振られ、瀬戸は”ああ”と頷く。
「もうAGの話は良いのか?」
二人にそう問えば、
「話に夢中になってしまってごめんなさいね」
と薫に謝罪される。
「音羽さんは……」
「薫でいいわ。気軽に呼び捨てで」
「セトを口説くのはやめろ」
薫の言葉に神楽は何故か不機嫌だ。
──つきあっちゃえばいいのに。
瀬戸は呆れ顔で頬杖をつくと肩を竦める。どちらも気づいてはいないのだ。神楽は恐らく薫に好意を抱いているのに。薫の鈍感具合いは筋金入り。
瀬戸は片腕で頬杖をついたまま薫の長い髪を一つまみすると口元に持っていき、ちゅっと口づける。神楽がその様子を見て固まった。
「薫は、さ」
「な、何かしら」
瀬戸を見て狼狽えているようだ。
「何か欲しいモノあるの。俺が買ってやろうか?」
それはもちろんAG内での話。
「セト。薫を口説くのはやめろ」
男も女も魅了するほどの容姿の持ち主だということくらい瀬戸自身も自覚はしている。整った容姿を与えてくれた遺伝子に感謝しているくらいには。
そして薫もまたその辺の女子には負けないくらいの美女。肉体性別は男だが。
「パートナーいないって言ってたよな」
「え、ええ」
もちろんそれもAG内での話だ。チームに属さないソロプレイヤーの多いゲームでもあるが、ボス戦で苦戦を強いられることも多いためパートナーを作る人も多い。
以前は固定の協力関係であり互いの約束のみで成り立っていたが運営がそこに目をつけ、公認のパートナーシステムを導入した。そのことから恋愛的な意味でパートナー申請をする輩も増えたのである。
「俺、立候補しようかな」
瀬戸の言葉に薫が息を呑むのが分かる。
もちろん神楽を煽るための発言だ。
──さあ、どうする? 神楽。
瀬戸は出された珈琲のカップに口をつけながらぼんやりと考えごとをしていた。神楽と馨の二人は相変わらずAG内のシステムの話をしている。
自分がこの時間に呼ばれたのは一時閉店の時間だからだ。
瀬戸と失踪した兄はかなり年の離れた兄弟だった。四年前に失踪するまで仲の良い兄弟だと思っていたが、何も告げずにいなくなってしまうということは自分だけがそう思っていただけのだろうかと思ってしまう。
それとも自分にも言えないくらい急を要する何かがあったのだろうか?
現在、高等部三年に所属する瀬戸。当時は中学生。
まだ子供の自分には話辛かった内容だった可能性もある。
──このまま一生コンタクトを取らないつもりなのか?
日本の法律も変わり以前は二十歳で成人だったが現在は十八歳で成人。それというのも少子化が加速し、財源の確保が大変になったからだとは言うが表向きの理由に感じる。日本では高校生からアルバイトが出来るのだ。もちろん未成年だが所得税は取られる。
いつだってなんだって理由をつけては税金を取ろうと虎視眈々と狙っているくせにそんな理由で成人の年齢が下げられたとは考え辛い。
国のシステムについて考えていた瀬戸はため息をつくと、今はそんなことどうだっていいという結論に至る。
『遥、愛している』
耳に残る兄の言葉。日本人は兄弟間などで愛情表現をしないのかもしれないが、家族愛と考えれば不思議ではない。仲の良かった弟を残していずこかへ去ろうとしていた兄の最後の言葉としては。
だが兄のそれは欲情だったように感じている。
実の弟にただならぬ想いを抱いてしまったから自分の元を去ったというのだろうか。それでも不審な点は残る。
──【霧島美桜】の存在だ。
仮に無関係だったとしてもあんなに兄にそっくりなアバターを使うことには何か理由がるように感じてしまうのだ。せめてどのように生成したのか知りたい。それはもしかしたら単なる好みの男子かも知れないが。
イラストは自分の顔に似るという。日常的に鏡を見ているせいだとは言うが。毎日見ている己の顔は、好みというよりはバランスの基準の気もする。見慣れているからこその。
となれば、何かしら美桜本人にも兄と似ているものが存在するのではないだろうか。
「そういえば瀬戸は人捜しをしているんだったな」
突然神楽から話を振られ、瀬戸は”ああ”と頷く。
「もうAGの話は良いのか?」
二人にそう問えば、
「話に夢中になってしまってごめんなさいね」
と薫に謝罪される。
「音羽さんは……」
「薫でいいわ。気軽に呼び捨てで」
「セトを口説くのはやめろ」
薫の言葉に神楽は何故か不機嫌だ。
──つきあっちゃえばいいのに。
瀬戸は呆れ顔で頬杖をつくと肩を竦める。どちらも気づいてはいないのだ。神楽は恐らく薫に好意を抱いているのに。薫の鈍感具合いは筋金入り。
瀬戸は片腕で頬杖をついたまま薫の長い髪を一つまみすると口元に持っていき、ちゅっと口づける。神楽がその様子を見て固まった。
「薫は、さ」
「な、何かしら」
瀬戸を見て狼狽えているようだ。
「何か欲しいモノあるの。俺が買ってやろうか?」
それはもちろんAG内での話。
「セト。薫を口説くのはやめろ」
男も女も魅了するほどの容姿の持ち主だということくらい瀬戸自身も自覚はしている。整った容姿を与えてくれた遺伝子に感謝しているくらいには。
そして薫もまたその辺の女子には負けないくらいの美女。肉体性別は男だが。
「パートナーいないって言ってたよな」
「え、ええ」
もちろんそれもAG内での話だ。チームに属さないソロプレイヤーの多いゲームでもあるが、ボス戦で苦戦を強いられることも多いためパートナーを作る人も多い。
以前は固定の協力関係であり互いの約束のみで成り立っていたが運営がそこに目をつけ、公認のパートナーシステムを導入した。そのことから恋愛的な意味でパートナー申請をする輩も増えたのである。
「俺、立候補しようかな」
瀬戸の言葉に薫が息を呑むのが分かる。
もちろん神楽を煽るための発言だ。
──さあ、どうする? 神楽。
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