R18【同性恋愛】リーマン物語if5『塩田と板井と苦情係』

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5『電車と塩田』

1 泣かないでよ

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****side■塩田

「へえ。上手くいってるんだ?」
 塩田はいつものように、板井と十時休憩を過ごしていた。いつからだろうか、こんな風になったのは。
 板井は唯野と同居することになったと、嬉しそうな顔をする。やはり板井は唯野に気があったのだなと感じていた。
「じゃあ、お付き合いは終わりだな」
と塩田が言うと、彼はごめんと頭を下げる。
 フラれたような形になり、複雑な表情をする塩田。

「そっちは?」
 フェンスに腕を乗せ屋上からの景色を見ていた塩田を、しゃがんだ姿勢から見上げる板井。
「そっちは……って。どうもこうもないだろ。そもそも電車でんまには彼女がいるじゃないかよ」

──なんで板井は俺と電車をくっつけたがるんだ。
 二股なんて冗談じゃないぞ。

 いつもはカフェオレだが、今日の塩田はオレンジジュースを飲んでいた。爽やかな酸味が喉を駆け抜ける。しかし心は曇り空だ。

──板井が変なことを言うから、変なこと口走っちゃうし。

 お前のせいだぞと思いながら、座り込んでいる板井を見下ろすと神妙な顔をしていた。いつも真面目な彼だが、いつもにも増して真面目な顔をしていたのだ。
「そのことなんだけどさ、塩田」
 まさか二股を勧めてくる気じゃないだろうなと思っていると、屋上と屋内を繋ぐドアが乱暴に開けられた。思わずそちらに視線を向ける塩田と板井。

「板井! どういうことか説明しろっ」
 それは今まさに、話にのぼっている電車でんまだった。
「まずい、面倒なことになった」
と、板井。
 塩田は、いつもニコニコ温厚な電車が怒っていることに驚く。一体何があったのだろうか。板井はすでに把握しているようで、立ち上がると自ら彼に近づいていく。

──なんだ? なんであんなに怒って……?

 呆然と彼を見つめていた塩田だったが、
「なんでだよ!」
と板井に掴みかかる電車を見て、それを止めようと一歩踏み出した。
 しかし板井は”大丈夫だ”というように、塩田に向かって片手をかざし、それを制する。
「電車、落ち着け」
と板井は極めて冷静に彼へと話しかけた。
「落ち着けだと? どの口がそんなこと言ってるんだよ」

──修羅場か? 
 まさか板井のやつ、三股かけてたんじゃ……?

 不穏な空気、主語がなくても伝わる二人の会話。塩田は全く会話の意味が分からず、そんなことを思う。
「塩田と付き合ってるって、なんで?!」
 電車の言葉に、”やはり三股か、最低だな板井”と思いつつ、じっと二人の様子を伺う塩田。
 だがどうやらそうではないようで……?
「俺が塩田のこと好きなこと知ってるじゃんか! 協力してくれるって言ったくせに。俺を騙したのかよ!」
「待て、電車。塩田がそこに……」
 電車には板井しか目に入っていないらしく、
「信じてたのに!」
 その上、話も聞く気がないらしい。

──なんだって?
 電車が俺を好き?

「電車、泣くなよ……」
 どうやら電車は泣き出してしまったようだ。
「ちょっと、待てよ!」
 耐えきれなくなった塩田が、二人に割り込む。
「塩田?」
 顔を上げる電車のまつげが濡れている。その可愛さに思わず、悶絶しそうになるが。

──いつ来たの、みたいな顔すんなよ。ずっと居たし!

「お前、彼女いるんだろ」
と、塩田。
「いつの話し? そんなのとっくに別れたし! 板井は知ってたでしょ?」
と矛先を板井に向ける電車。
 板井の行動に合点がてんのいった塩田はジトっと板井に視線を向けた。板井が気まずそうにしている。
「いや、塩田が知らないなんて思わなかったし、聞かなかっただろ?」
 そこで板井の胸ポケットに入っていたスマホがぶるっと震えた。
「悪い、電話だ」
 塩田は電話を受ける板井を尻目に、電車のカーディガンのポケットに手を伸ばす。ハンカチを抜き取ると、彼の目元へ。

「泣くなよ」
「塩田あ」
 むぎゅっと抱き着いてくる彼の背中を優しく撫でる。愛しい体温。
「悪い、課長に呼ばれたから先に戻る。トラブルらしい」
 通話を切った板井が、塩田にそう告げた。
 そして、
「お前ら両想いなんだから、さっさと付き合えよ!」
と言い残し、急ぎ足で屋上から出て行く。
 塩田はため息をつくと、電車を抱きしめたのだった。
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