人形少女は夢を見る

詩のぶ

文字の大きさ
4 / 8

人形少女は歩を止める

しおりを挟む
夕飯と日用品の買い出しを済ませて、結局すっかり暗くなってしまった。
月明かりに照らされた道を歩き、店の前を流れる川の橋を渡ったところで、隼桐が歩を止める。

どうかしたのかと彼女の視線を追えば、明らかにガラの悪い付喪神が三人、こちらを見てにやにや笑っている。

「よう隼桐、景気はどうだ?」

三人のうちの一人、大きくひび割れた大皿を顔に持つ男が話しかけてくる。

「…良くはないわね。だからせめて、夜くらいのんびりさせてほしいわ。」

隼桐は淡々と答え、遠巻きに去ろうとするが、畳の体をした男と、頭部が香炉の男がその前に立ちはだかる。
畳はあちこちに染みがあり、香炉はどうやら足が折れているらしい。

「ご謙遜。随分と買い込んで、重そうじゃねぇか。持ってやるぜ?」
「結構よ。」

隼桐の棘のある態度は想定内なのか、大皿の男は鼻で笑った後、

「まぁ、そんな邪険にするなよ。用があるのはお前さんじゃないんだ。」

ふと視線を鷹華に向けてくる。

「おいお前、人間なんだろ?何で我が物顔でこの町で暮らしてんだ?」

ここは俺達付喪神のための町だ、と大皿の男が言い、畳の男と香炉の男がそうだそうだと便乗する。
突然の言及に鷹華は困惑し、代わりに隼桐が険しい顔で反論する。

「鷹華ちゃんは私が連れてきたの。これまでだってここに人間が迷い込むことは何度かあったし、何か問題でもある?」

それがまた男達の神経を逆撫でしたらしく、彼らのにやついた目から段々と笑みが消えていく。

「けっ。いいよなぁ、人間のお嬢様は。」

大皿の男が吐き捨てる。

「ちょっと壊したり気に入らなかったりしても、すぐに新しくて綺麗なものを買ってもらえるんだもんな。好きなだけ買って、要らなくなったらぽい。それだけだもんなぁ!」

彼が喋ると割れた部分からひゅうひゅうと物悲しい風鳴がして、その度に鷹華は胸が締め付けられた。

何故だろう。
胸が、痛い。

「あっちでいい子いい子されて。こっちでまたちやほやされて。何も出来ないくせに、全部与えてもらって、なぁんにも不自由しないで生きていけてよ。一体全体、何様なんだよ、お前は!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...