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人形少女は熱を知る
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「ちょっと、いい加減にしてもらえるかしら?」
激高し始めた三人に代わり、今度は隼桐が鼻で笑う。
「自分達が大事にされなかったからって、鷹華ちゃんに八つ当たりしないでくれる?それ以上無駄口叩くなら――」
「お?叩くなら、何だ?」
下品な笑いが隼桐を取り囲む。
「その細っこい体で、俺達とやりあおうってのか?」
大皿の男がぽきりと指を鳴らす。
「お人形風情が、調子に乗ってんじゃねェぞ!」
「隼桐……!」
「鷹華ちゃん、下がってて!」
男達が一斉に殴りかかる。
その瞬間、隼桐はすっと重心を落として身構え――あとはもう、鷹華の目には追えなかった。
何度か鈍い音がした後、気がついたら男達は地面にだらしなく伸び、呆然と立つ鷹華をよそに、隼桐は優雅な仕草で着物の土埃を払っていた。
「あなた達じゃ、束になっても敵いっこない。」
勿忘草色の袂がゆらゆら揺れて、その色に鷹華は目を奪われる。
「ここでは『どれだけ愛されたか』が、そのまま『強さ』になるんだから。」
男達にそう静かに告げて、そして何事もなかったかのように、隼桐は鷹華ににっこりと笑いかけた。
「帰りましょうか。おなか、空いたでしょう?」
「えっ……、………うん。……隼桐、凄いね。」
鷹華が呟いた賛辞に、隼桐はきょとんとして小首を傾げる。
「あら?凄いって、何が?」
「何って、……全部。隼桐は綺麗で、自分で何でも出来る。隼桐は、凄いよ。みんなから好かれてるし、私も、隼桐のことが好き。好きで、とても――とても、羨ましい。」
鷹華がそう言うと、隼桐は嬉しそうな、けれどどこか悲しそうな顔をして、
「私も。私も鷹華ちゃんのことが好きよ。…これからは私がずっと、ずーーーっと。」
「ずっと?」
「ずっと、私が鷹華ちゃんを好きでいてあげる。」
そう言って微笑んだ隼桐の後ろに、いつの間にか大皿の男が立っていた。
懐から割れた皿の欠片を取り出して、隼桐に向かって振り上げる。
「危ない!」
鷹華が叫ぶのと、男が奇声をあげて飛びかかるのとがほぼ同時にあって、また鈍い音と、ぼちゃんという水音。
自分の手に痛みと熱を感じながらそちらを見れば、大皿の男が川まで吹っ飛び、ぶくぶくと沈んでいくところだった。
「――鷹華ちゃん!怪我は!?」
隼桐に言われて、鷹華は自分の手を見る。
固く握りしめられた拳はまだ熱く、確かに何かを思い切り殴った痛みがあった。
目を覚ました畳の男と香炉の男が怯えた目で鷹華を見ながら、橋を渡って逃げてゆく。
「う、ん。大丈夫。だけど、…ちょっとびっくりした。」
「それはこっちの台詞よ!」
隼桐の手が鷹華の拳を包み、開く。
魔法のようなその冷たさをもってしてもなお、鷹華の手はまだ熱く、震えている。
「ねぇ、隼桐。」
「…なあに?」
「私も、誰かに愛されていたのかな?」
その問いに隼桐は答えずに、ただ静かに微笑んだ。
「……帰りましょう。」
「……そうだね。」
熱を帯びたままの自分の手を、鷹華はそっと握り直した。
激高し始めた三人に代わり、今度は隼桐が鼻で笑う。
「自分達が大事にされなかったからって、鷹華ちゃんに八つ当たりしないでくれる?それ以上無駄口叩くなら――」
「お?叩くなら、何だ?」
下品な笑いが隼桐を取り囲む。
「その細っこい体で、俺達とやりあおうってのか?」
大皿の男がぽきりと指を鳴らす。
「お人形風情が、調子に乗ってんじゃねェぞ!」
「隼桐……!」
「鷹華ちゃん、下がってて!」
男達が一斉に殴りかかる。
その瞬間、隼桐はすっと重心を落として身構え――あとはもう、鷹華の目には追えなかった。
何度か鈍い音がした後、気がついたら男達は地面にだらしなく伸び、呆然と立つ鷹華をよそに、隼桐は優雅な仕草で着物の土埃を払っていた。
「あなた達じゃ、束になっても敵いっこない。」
勿忘草色の袂がゆらゆら揺れて、その色に鷹華は目を奪われる。
「ここでは『どれだけ愛されたか』が、そのまま『強さ』になるんだから。」
男達にそう静かに告げて、そして何事もなかったかのように、隼桐は鷹華ににっこりと笑いかけた。
「帰りましょうか。おなか、空いたでしょう?」
「えっ……、………うん。……隼桐、凄いね。」
鷹華が呟いた賛辞に、隼桐はきょとんとして小首を傾げる。
「あら?凄いって、何が?」
「何って、……全部。隼桐は綺麗で、自分で何でも出来る。隼桐は、凄いよ。みんなから好かれてるし、私も、隼桐のことが好き。好きで、とても――とても、羨ましい。」
鷹華がそう言うと、隼桐は嬉しそうな、けれどどこか悲しそうな顔をして、
「私も。私も鷹華ちゃんのことが好きよ。…これからは私がずっと、ずーーーっと。」
「ずっと?」
「ずっと、私が鷹華ちゃんを好きでいてあげる。」
そう言って微笑んだ隼桐の後ろに、いつの間にか大皿の男が立っていた。
懐から割れた皿の欠片を取り出して、隼桐に向かって振り上げる。
「危ない!」
鷹華が叫ぶのと、男が奇声をあげて飛びかかるのとがほぼ同時にあって、また鈍い音と、ぼちゃんという水音。
自分の手に痛みと熱を感じながらそちらを見れば、大皿の男が川まで吹っ飛び、ぶくぶくと沈んでいくところだった。
「――鷹華ちゃん!怪我は!?」
隼桐に言われて、鷹華は自分の手を見る。
固く握りしめられた拳はまだ熱く、確かに何かを思い切り殴った痛みがあった。
目を覚ました畳の男と香炉の男が怯えた目で鷹華を見ながら、橋を渡って逃げてゆく。
「う、ん。大丈夫。だけど、…ちょっとびっくりした。」
「それはこっちの台詞よ!」
隼桐の手が鷹華の拳を包み、開く。
魔法のようなその冷たさをもってしてもなお、鷹華の手はまだ熱く、震えている。
「ねぇ、隼桐。」
「…なあに?」
「私も、誰かに愛されていたのかな?」
その問いに隼桐は答えずに、ただ静かに微笑んだ。
「……帰りましょう。」
「……そうだね。」
熱を帯びたままの自分の手を、鷹華はそっと握り直した。
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