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人形少女にさよならを
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げほ、と咳込んで、鷹華は目を覚ます。
息をする度に熱い空気が喉を焦がし、何度も何度もむせ返りながら、変わり果てた自室の中を見回す。
炎の壁が、焼け落ちたドアの代わりとでも言うように廊下への道を塞いでいる。
ベッド脇の窓が割れていて、そこから吹き込む風のおかげで自分の周囲はかろうじて焼け残っているようだったが、それも時間の問題だと分かる。
窓の外から下を覗き込む。
消火にあたっている消防士、それを遠巻きに見ている野次馬とマスコミ。
そのさらに外側に延々と広がる、それぞれの人が暮らす家。
ずっと眺めるだけだったその世界が、何故かやけに近く感じられる。
大丈夫、と拳を握り、窓から身を乗り出す。
最後に一度、部屋の方を振り返る。
「――さよなら。私の大切な『お人形』。」
呟いたそれに答える優しいあの声はもう聞こえない。
鷹華はひとつ息を吸い、震える両足を叱りつけ、空へ向かって踏み出した。
「――また、あの放火魔の仕業でしょうか。本日未明、〇〇県××市の住宅街で火災が発生し、3階建ての家が全焼しました。火災の後、この家に住む△△さん夫婦と連絡が取れなくなっており、焼け跡から見つかった二人分の遺体はこの夫婦のものとみて、警察が身元の確認を急いでいます。」
「また放火ですか。一刻も早く犯人が捕まることを祈るばかりですね。」
「そうですね。なお、近隣の住民の話では、火災があった夜はこの夫婦の一人娘である鷹華さんも自宅にいたとのことであり、彼女の消息についても警察は調査を続けるとのことです。では、次のニュースです――。」
息をする度に熱い空気が喉を焦がし、何度も何度もむせ返りながら、変わり果てた自室の中を見回す。
炎の壁が、焼け落ちたドアの代わりとでも言うように廊下への道を塞いでいる。
ベッド脇の窓が割れていて、そこから吹き込む風のおかげで自分の周囲はかろうじて焼け残っているようだったが、それも時間の問題だと分かる。
窓の外から下を覗き込む。
消火にあたっている消防士、それを遠巻きに見ている野次馬とマスコミ。
そのさらに外側に延々と広がる、それぞれの人が暮らす家。
ずっと眺めるだけだったその世界が、何故かやけに近く感じられる。
大丈夫、と拳を握り、窓から身を乗り出す。
最後に一度、部屋の方を振り返る。
「――さよなら。私の大切な『お人形』。」
呟いたそれに答える優しいあの声はもう聞こえない。
鷹華はひとつ息を吸い、震える両足を叱りつけ、空へ向かって踏み出した。
「――また、あの放火魔の仕業でしょうか。本日未明、〇〇県××市の住宅街で火災が発生し、3階建ての家が全焼しました。火災の後、この家に住む△△さん夫婦と連絡が取れなくなっており、焼け跡から見つかった二人分の遺体はこの夫婦のものとみて、警察が身元の確認を急いでいます。」
「また放火ですか。一刻も早く犯人が捕まることを祈るばかりですね。」
「そうですね。なお、近隣の住民の話では、火災があった夜はこの夫婦の一人娘である鷹華さんも自宅にいたとのことであり、彼女の消息についても警察は調査を続けるとのことです。では、次のニュースです――。」
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