五天王〜地下街の暗殺者

第5話

ー1年後ー
力斗、18歳。一、19歳。輝人、瞳、18歳。恋華、17歳。

　地下街にはさらに人が増え、本当に街のようになっていた。天井には電灯がつき、街中に街灯がある。ちなみに、この街灯はずっと点灯しているわけではなく、夜にはいくつかの街灯を残して消灯している。何が観光名所になったのか、地上から観光客が増えた事で地下街に宿泊施設もできるようになった。

「はぁ、見つからない。力斗…いったい、どこにいるんだ？」

　ある日の夜。力斗の実兄で20歳になった知生は嘆いていた。知生は家を出た日から能力を使って国内から国外まで、力斗を探しまわっていた。
　知生がいるのはアパートの一室。傍には1人の女性が座っている。

「力斗くん、なかなか見つからないね。私も探してるんだけど、情報があまりなくて…ごめんね」
「いや、レナには感謝してる。俺なんかより、確実な探し方をしているしな」

　知生と共にいる女性の名前はレナ、21歳。
　大学生でありながら、情報屋を営んでいる。
　情報屋とは、あらゆる情報網を駆使し、情報を売る仕事。しかしレナは悪事に使われそうな情報を売る事はしない。
　現在は力斗を探す知生を手伝っている。

「この恩は必ず返す」
「まだ力斗くんは見つかってないでしょ？お礼なら力斗くんが見つかってからで良いよ」

　微笑みながら言うレナに知生は心から感謝した。
　ちなみに知生はレナと暮らしているが、恋愛関係ではない。

ー1週間後ー

「知生！見つけたわよ！」

　ある日の夕方。家に帰ってくるなり、レナは部屋の中にいた知生に声をかけた。

「見つけたって…力斗をか！？」
「うん！どうやら地下街で守護者として活動しているみたい」
「地下街…ってなんだ？」
「知らない？この辺りにあるんだけど…」

　レナは地下街ができた状況を知生に説明した。

「そういうわけで、今は本当に地下街として活動しているの」
「そんな場所があったのか。それで、そこに力斗がいるのか？」
「うん。会いに行く？」
「ああ！会いに行く！」

　笑顔で応える知生にレナは微笑んだ。
　翌朝。知生はレナと共に地上にある地下街の出入口に来ていた。

「ふぅ…緊張するな」
「ふふふっ！」
「…よし！入るか！」

　そう言って知生はレナと共に地下街への階段を下りて行く。

「ここが地下街…広いな」
「すごい…」

　地下街に着いた2人は、その光景に驚いた。そこは完全に街として完成していたからだ。

「こんな所に力斗はいるんだな」
「すいません。ここに力斗くんという少年がいると聞いてきたんですけど」

　知生が感心している横で、レナは近くを通りかかった男性に声をかけた。

「力斗さんですか？今なら、広場にいるんじゃないかな。ここを真っ直ぐ進んだ場所に広場がありますよ」
「ありがとうございます」

　レナは男性にお礼を言うと、知生を連れて広場に向かった。
　広場には5人の少年と少女が集まって椅子に座っている。

「すみません。ここに力斗くんはいますか？」

　レナが5人に声をかけると、1人の少年が立ち上がった。

「俺が力斗ですけど、あなたは？」

　立ち上がった少年、力斗は聞いた。他の4人は一、輝人、瞳、恋華だ。

「私はレナ。実はこの人がきみに会いたいって」

　そう言ってレナは知生を前に優しく押し出す。力斗の前に来た知生の目からは涙が流れていた。

「…力斗…よかった…無事だったんだな」
「…兄さん？」

　知生の言葉に力斗は聞く。

「ああ。久し振りだな、力斗」
「兄さん！」

　そう言って2人は抱き合う。力斗も泣いていた。

「ど、どういう事？！」

　輝人の言葉に力斗と知生は離れる。

「紹介しよう。この人は俺の兄だ」
「えー！」

　力斗の言葉に輝人たちは驚く。しかし一は驚いていない。

「なんで一は驚いてないん？」
「拙者は昔、力斗に兄がいることは聞いていたからな。それからはあまり話さなくなったが」
「話すと思い出して辛くなったからな。だから、なるべく話さないようにしていたんだ」
「改めて自己紹介をしよう。力斗の兄で知生だ」

　それから皆も自己紹介をした。

「私はレナ。情報屋をしているわ」
「今回、力斗を見つけられたのはレナのおかげなんだ」
「そうだったのか。ありがとう、レナさん。おかげで兄さんと会うことができたよ」
「ううん、いいのよ」
「この恩は必ず返す」

　知生の言葉にレナは笑った。

「本当にいいのよ？知生とも会えたし、来たいと思ってなかなか来れなかった地下街にも来る事ができたし」
「俺と会えた事が礼になるのは不思議だけどな」
「そ、それは！…気にしないで」

　レナが少し顔を赤くした理由が知生には分からなかった。

（レナさんは知生さんのことが好きなのね！）

　恋華はそう予想した。そして、その予想は当たっている。

「兄さん、父さんと母さんは元気？」
「いや、知らないな。力斗が捨てられたと知って、すぐに探しに家を出て、帰ってないからな」

　知生は力斗と再会しても、両親にした事を話さないと決めていた。

「そんな！それじゃあ、兄さんはずっと俺を探していたのか？」
「まあな。でも、俺も遅かれ早かれ捨てられてたと思うぞ？」
「どうして？」
「力斗が捨てられた理由は特殊な能力があったからだ。そして俺にも特殊な能力がある。ということは俺も捨てられる可能性があるだろ？」
「その能力があったから、今まで生きてこれたの？」
「まあな」
「兄さん、苦労したんだね」

　力斗は、知生が自分を探し出すために苦労していた事を知って申し訳なく思った。

「ハハハッ！まあな。でもお前も苦労しただろ？」
「うん。でも良い友達がいてくれたから」
「良い友達というのは、ここにいる4人か？」

　知生は一達を見ながら言う。

「うん！最高の友達だ」
「そうか。よかったな」

　力斗の言葉に知生は安心した。
　一方で最高の友達だと言われた一たちは照れていた。

「それで、今日は泊まっていくの？それとも、ここで住むのか？」
「そうだな…どうしようかな」
「え？…そうよね。知生も力斗くんといたほうが楽しいわよね」

　レナは寂しそうに言う。

「どうした？」
「ううん、知生が力斗くんと再会できたのは私も嬉しいんだけど、もう一緒に暮らせないって思うと寂しくて…」
「2人は一緒に住んでるんですか！？」
「ああ、そうだけど」
「大人ですね」

　輝人が驚きの声をあげ、瞳は大人だと感心する。

「驚く事か？皆も一緒に暮らしてるだろ？」
「確かに地下街で一緒に暮らしてるけど、部屋は別々ですよ？」
「そうなのか。…力斗、悪いけど、俺はここでは住めない。レナが寂しがるからな」
「うん、それか良いと思う」

　知生の言葉に力斗も同意した。

「知生、良いの？」
「ああ。もう少し厄介になる」
「うん！」

　レナは知生の言葉を聞いて喜ぶ。恋華も知生の言葉にホッとした。初対面だが、恋華はレナの恋を応援しようと決めたからだ。

「力斗、あの日から今日までの事を話してくれないか？何があったか知りたいんだ」
「うん、良いよ」
「それでは拙者たちは席を外すか」
「一、用事があるのか？」
「いや、そういうわけでもないが…折角の家族水入らずを邪魔する事はしないさ」

　一は笑って立ち上がる。同時に輝人、瞳、恋華も立ち上がった。

「みんな、悪いな」

　力斗はみんなの心遣いに感謝した。

「じゃあ私は地下街を周ってるわね」
「ああ、レナもありがとう」

　そうしてレナもその場を立ち去り、広場は力斗と知生の2人きりになった。
　それから2人は、力斗が親に捨てられた日からの事を話した。

「お互いに大変だったな」
「そうだね」

　話し終えた2人はそう言って笑い合った。
　それからしばらくして、広場に一たちがやって来た。

「話は終わったのか？」
「ああ、ありがとう」
「それじゃあ、俺たちは帰る」
「もう行くのか？」
「とりあえず話は終わったし、またいつでも会えるからな」
「じゃあね、力斗くん、皆。またね」

　そうして知生とレナは帰っていった。

「良かったな、力斗。知生さんと再会できて」
「ああ！」