82 / 97
7章 魔導学園 1年生編
81話 悪技
しおりを挟む魔物はゆっくり俺に近づき確実仕留めるためかこちらに近づいてくる。
ま、だからといって何も出来ることなんて無いがな!
手足は痺れ動きそうも無いし、口も傷だらけで使えない……これなら最後に特大の魔法を打ち込みたかったものだ。
——クソッタレ!
と悪態はついたものの戦況は全く変わらない。
これだけのダメージを負わせてなお魔物は一切の警戒心を解かないしバルトへの注意も外さない。その姿はまさに戦士そのものでそこらの冒険者とは比べ物にならない程洗礼されている。
魔法やスキルに頼るだけでなく己の体を使った攻撃にも長け、そこを磨き続けている……完敗だ。
俺は魔物との距離が残り20m付近になった頃諦め目を瞑る。これ以上抵抗は出来ないししたところでどうにかなることはない。
ここで死ぬのだ——
人間死を覚悟するまでには時間がかかるものだが死を覚悟してからはすぐに受け止め受け入れられる。
そう今身をもって実感する。
出血多量で意識も朦朧とし始めもうこのまま放置でも死ぬんでは無いかという感覚にまで陥るが、結局多量出血で死のうと首はねられて死のうと変わらない。
耳から聞こえる足音で魔物の大体の位置を把握し未だにあのゆっくりとしたペースで近づいているのを確認する。
はぁーどうせなら勿体ぶらずとっととやってほしいものだ……この時間が命取りにならなきゃいいけど。
そんなどうでもいいことを考えながらその時を待つ。
その時——
「に……い………ちゃ……ん……」
もう殆ど動かない体に言い聞かせ何とか首だけをバルトの方へ向ける。するとバルトは何か言いたげに口を動かしていたが後の言葉を聞き取ることは出来なかった。
ハッ!バルトがまだ諦めてねぇのに俺が諦めてるんじゃぁ兄としての威厳がねぇ!!
あんな魔物に遅れをとるようじゃまだまだ特訓不足、これからまだ強くなれる証拠よ!
表情筋がピクピク動き自然と笑顔になる。顔がぐちゃぐちゃなのでもうどんな表情かもよくわからないが……生きたい目標ができた。
あとは活路を探すだけ。人間舐めんなよ!
バルトは半目を開けそのまま気絶したように白目を向いていた。最後の最後振り絞り、抽出した意識をこちらに向けたのだろう。
俺は首の位置を再び上に戻し空を見る。日は落ちる寸前。光と闇が入れ替わる間近、赤黒く染まる空は何とも幻想的でさらには俺へ活路を与えてくれるものとなる。
赤黒くって何だよもうとっくの昔に日は落ちた。じゃあ今はある”陽”は何だってんだよ!!
俺は目を見開き空を見据え魔物も異変に気付いたのか空を見上げている。
だが、もう遅い!
上空にあるそれはもう既に落下して来ている最中であと5秒といったところか……
恐らくバルトが放ったその魔法は空の半分以上を覆う程の大きさで太陽のような火属性が固まった球体だ。
所々で爆発が常時起こっていて辺りの温度は魔法が近くなるほど上昇していく。
ふと……魔物の様子が気になったので首を捻り見てみると、魔物は上を見ながらさっきまでの警戒心は皆無……ただバルトの魔法を見てどこか笑っているようなそう思える表情を見せていた。
すると落下するバルトの魔法に目掛け、魔物は4足歩行に戻りさっき俺達に放った魔法を放つ。あの威力に加えてさらに闇属性を衝撃波に混ぜる。
真っ黒に染まった衝撃波はバルトの魔法とぶつかり合う。
しかし……
放つまでの轟音が搔き消えるように辺りは静まり音もなく魔物が放った衝撃波は食べ物を咀嚼するように胎動しゆっくりと飲み込まれる。
バルトの魔法はさらに面積が増加する。
だが、俺達が諦めないように魔物も微塵も諦めていなかった。魔物は本能的に自分よりも弱者としか相対しない。なので逆転されるというのが稀で魔物は大概対応出来ずそのまま駆逐されることが多い。
しかしだ、この魔物は負けを知っている即ち!
俺は体の一部を何とか動かしありったけの身体強化系魔法を自分に付与する。
俺の身体強化系魔法は持続時間が短い、なので実践で強者との戦闘時使い物にならないことが多い。
だが、この瞬間は別!
刹那——
魔物は地を思い切り踏み込み一瞬でバルトの元へ移動し肘を引き爪でバルトの喉元を狙う。
しまった!
どんな強大な魔法やスキルでも使用者が死んでしまえば全て水の泡となる。永続系の魔法やスキルもあり全てに適応するわけでは無いが、それでもこっちの確率に賭けた方が断然有利だ。
魔物は目一杯に肘を引きそのままの勢いでバルトの喉元を引き裂こうと腕を伸ばし爪が当たる瞬間——
バルトの体が一瞬で燃え広がり体全体を火が覆う。それはまるで火の服でも着用しているかのようでその火の衣に爪が触れた瞬間魔物の爪が溶け始める。
これには予想外のことで魔物は一瞬躊躇い一旦距離をとるが——もう遅い。
バルトの放った魔法は既に目と鼻の先にある。そのままゆっくりと飛来し魔物や草木、地面さえも焼き尽くしながら着地する。俺とバルトは火属性なので火傷や温度差を感じずダメージはあるがこの魔法は火傷、燃焼させることに特化しており感じる痛みは日焼けした背中を思いっきり叩かれる程度だ。
そして、魔物を焼きながら辺りは真っ赤に染まり地面は焼け溶け、木々は一瞬で蒸発してしまう。
「グガァアアアアアア!!!」
魔物は悲鳴を上げ焼けていく体を抑えながら悶える。皮膚が溶け落ち中の筋肉を焼いていく光景は見るも無残でとてもじゃ無いが直視出来ない。
刹那
さっきまでこの一帯を覆っていた温度が突然通常の温度まで一気に下がり、燃えていた火が全て消え去ってしまう。
あまりにも一瞬の出来事で俺は目を疑ったが、その中で一番初めに動き出したのはあの魔物である。
焼けただれた体など気にもせずバルトを確実に殺すため一瞬で移動する。そして、両腕を振り上げ爪には全ての魔法を凝縮した禍々しい闇属性のオーラを纏いバルトのさっきまで纏っていた火の衣は消え去っていた。
恐らくさっきまで意識があったバルトもこの自分の魔法の少量のダメージで気絶し、意識が断たれ魔法が消えてしまったのだ。
そこを一瞬で判断した魔物には賞賛を送りたいな……
だが!
「これで終わりだぁああああああ!!!」
ありったけの付与スキルを使用した斧を振りかざし俺は振り上げられた隙だらけの魔物の両腕を切り落とす。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
異世界では地味な俺が、なぜか神々に最愛されて無双してる件
fuwamofu
ファンタジー
平凡な高校生・桐生ユウは、女神の手違いで異世界に転生した。
チートもスキルも貰えず、冒険者登録すらままならない落ちこぼれ……のはずだった。
しかし周囲の異常な好感度、意味不明な強運、そして隠された神格スキルによって、ユウは「無自覚に全能」な存在へと覚醒していく。
気づけば女神も姫騎士も魔王娘も彼に夢中。誤解と崇拝が加速する中、ユウの“地味な日常”は世界を揺るがす伝説になっていく。
笑いあり、胸キュンあり、ざまぁありの最強(なのに本人だけ気づいてない)異世界ファンタジー開幕!
借金5億で異世界転移、よりによって金本位制の世界だった
夜明け一葉
ファンタジー
32歳の個人トレーダー・佐藤慧は、5年間の雪辱を賭けたトレードで5億円の借金を抱え、意識を失った。目覚めると、そこは剣と魔法が存在する見知らぬ世界だった。常識が通じない異世界で、金貨を見るだけで嘔吐する「金アレルギー」を抱えながら、若き冒険者リナと出会い、生き延びる術を探し始める。諦めることだけができなかった男が、新たな世界で再び立ち上がる異世界サバイバル譚。
辺境で静かに暮らしていた俺、実は竜王の末裔だったらしく気づけば国ができていた
平木明日香
ファンタジー
はるか五億四千万年前、この星は六柱の竜王によって治められていた。火・水・風・土・闇・光――それぞれの力が均衡を保ち、世界は一つの大きな生命のように静かに巡っていた。だが星の異変をきっかけに竜の力は揺らぎ、その欠片は“魂”となって新たな生命に宿る。やがて誕生した人類は文明を築き、竜の力を利用し、ついには六大陸そのものを巨大な封印装置へと変えて竜王を眠りにつかせた。
それから幾千年。
現代では六つの大国がそれぞれ封印を管理し、かろうじて世界の均衡を保っている。しかし各地で異常な魔獣が出現し、封印の揺らぎが噂されはじめていた。
そんな世界を気ままに旅する青年がいる。名はブラック・ドラグニル。三年前からハンターとして魔獣を討伐し、その肉を味わいながら各地を渡り歩く放浪者だ。規格外の実力を持ちながら名誉や地位には興味がなく、ただ「世界のうまいものを食べ尽くす」ことを楽しみに生きている。
ある日、光の王国ルミナリア近郊で王女ユリアナが大型魔獣に襲われる事件が起きる。死を覚悟した騎士団の前に現れたブラックは、その怪物をわずか数十秒で討ち倒す。彼にとっては雑魚同然だったが、その圧倒的な強さは王国中に知れ渡る。王女は自由に生きる彼の姿に心を奪われるが、ブラックは次の目的地へ向かう計画を練るばかり。
だが彼自身はまだ知らない。
自らが竜族の末裔であり、世界を再び“統合”へ導く鍵となる存在であることを。
竜の封印が揺らぐとき、自由を愛する青年は世界の命運を左右する選択を迫られる。
これは、竜の記憶と人の魂が交錯する壮大なファンタジー叙事譚である。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる