天使たちの水浴びシーン

５２）女の子たちが自らの身体を供して

　僕は素人だ。イメージビデオへの愛ならば誰にも負けないという自負はあれども、これまでそれを自分で制作したことはない。
　ましてや監督として現場を仕切るなんて！　

　それなのにカメラを動かして、細かい指示を出して、僕はこの作品の責任者として自分の望み通りのイメージを収めることに成功しているのである。

　僕には才能と呼んでもいい特別な能力があったようだ・・・。

　それはまあ、全て自分の力ではなくて、美咲ちゃんやゆかりちゃんに助けられ、素晴らしいスタッフさんたちに協力されて。
　その共同作業が上手くいっている結果。

　そう、だからこの共同作業を続けていけばいい。

　「かなり時間が押しているよね」

　しかしだった。ちょっとばかし自分の才能に酔って、最高に良い気分の状態にある僕に対して、担当者さんが懸念を示してきたのである。

　「全然、スケジュール通りに進んでいないよね」

　「はい、ですが何も問題はありませんよ」

　僕は担当者さんに健やかな返事を返す。

　「撮影自体は順調です。とても上手くいっているんです。何もかもが軌道に乗り始めたっていう手ごたえを、僕はバシバシと感じています」

　「うん、それはわかるんだけどね、しかし肝心の時間がさ、無くなっているんだ」

　「何とかなりますよ！」

　僕は至って楽観的である。
　時間なんて実際のところ無限にあるじゃないかなんて考えている。
　だって明日明後日、一年後であっても、美咲ちゃんもゆかりちゃんも、ほとんど今の美咲ちゃんとゆかりちゃんなわけで、急激な変化など訪れることはなく、だとすれば撮影は可能であり。
　もちろん予算やスケジュールなどの関係で、そんな融通は利かないのだけど。それはわかっているのだけど。
　しかし素晴らしい作品を作るためには、それくらいの気概があってもいんじゃないの。
　もっとスケールでかく生きて下さいよ、と担当者さんに言い放ちそうになるが、さすがにそれは失礼だろう。

　「良い作品になりそうです。二人のフィーリングがとても良い感じになっています」

　「まあ、そうだろうけど」

　これまで密室で培ってきた妄想。僕の頭の中だけで、キノコのようにニョキニョキと繁茂していたイマジネーション。
　あるときはそれに悩まされ、あるときはそれに生きる喜びを覚えたりしながら、僕は長い時間をその妄想と共に生きてきたのである。
　決して日の目を見ることはないと思っていた。湿った暗室の中で、誰に知られることもなく永遠に眠りつづるはずだったもの。
　しかし今、それはリアルの世界で、リアルの女の子たちが自らの身体を供して、形になっている。

　こんなことが実現されるなんて。それはもう、僕は自分がスティーブン・スピルバーグとかデビッド・フィンチャーとかになったようなもの。

　「ありがとうございますね、担当者さん。僕にこのようなチャンスを与えて下さって」

　僕は言った。

　「何だい、突然」

　「いえ、本当に感謝しているんです」

　「感謝してもらえるのは有り難いけれどね。しかし本当に時間がないのさ。この作品、大丈夫かなあ」