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51)撮影現場に吹き込んできた春風
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僕は大きな勘違いをしていた気がする。美咲ちゃんを怒らせて、拗ねさせてしまったと思い込んでいたのだ。
っていうか、監督の僕が彼女に嫌われた。だからもう、美咲ちゃんはもう適当な仕事しかしないだろうなって思いこんでしまっていた。
僕は全然彼女のことを信頼していなかった。わかっていなかった。
別に彼女は自分が機嫌が良ければ頑張ってやる気を出すとか、そんなモチベーションで仕事をしていない。
多分、そんな性格の女子なんだ。
じゃあ、何を根拠に頑張っているのだろうかって疑問に思うのだけど、それはよくわからない。
それが美咲ちゃんという大いなる謎の魅力か。
とにかく美咲ちゃんの制服から水着に脱ぐシーンは凄いものが撮影出来た。それは歴史に残る1ページに違いない。
どんなふうに凄かったのかっていう説明は難しい。こればかりは観てもらうしかない。
別に何か新しい制服の脱ぎ方をこのシーンで発明したわけではない。
露出度も大したことはない。それはもう全然、普通。
オーソドックスだったと思う。しかし「制服を脱ぐ女子」のあらゆるポイントを押さえていたと思う。
つまり僕が観たかった美咲ちゃんの姿が完全網羅されていた。
もしかしたら僕だけがすげえって興奮しているだけかもしれないな。
いや、そんなことない。スタッフさんたちも手応えを感じているに違いない。それを証拠に、何となくどんよりと沈み込んでいた現場の雰囲気が、さっきのシーンが終わって一変したんだ。
「さあ、次のシーンも頑張りましょう」
カメラさんが僕に声を掛けてくれる。これまでそんなことはなかったことだよ。
「次のシーンって、保健室でしたね?」
美咲ちゃんも僕とカメラマンさんの遣り取りの中に自然と入って来る。
「ゆかりちゃんとのシーンですよね?」
しかも美咲ちゃんは、ゆかりちゃんの名前を口にしたのだ。ぎこちなかった二人の関係に、春風が吹き込んできた気配。
「そう。次のシーンはこちらの指示に従ってもらうからね」
僕は冗談めかして言う。美咲ちゃんも「はい。でもそれは指示次第ですね」と微笑みながら返す。
更に驚くべきことが起きた。ゆかりちゃんが美咲ちゃんを出迎えたのだ。
彼女は教室の外に立ち、美咲ちゃんが出てくるのを待っていた様子。
美咲ちゃんに送る視線は熱く、それはまるでファンがスターに向ける眼差しだ。
「凄い感動しました。私、上手く言えないですけど、カメラの前の美咲先輩は本当に素敵で」
「ありがとうね」
クールな声で美咲ちゃんは返事する。その姿はバッチリと決まっていて、このまま颯爽とゆかりちゃんの前から立ち去るほうが格好良かっただろうけど、美咲ちゃんはゆかりちゃんの前に立ち止まる。ゆかりちゃんに何かを訴えたいことがあるようだったからだ。
「引き込まれたんです、美咲先輩の瞳に! 私もあんなふうになりたいって思いました」
はっきり言ってこの仕事、私はそんなにやる気なんてないです。
ゆかりちゃんは聞き捨てならないことも言い始めた。
「さっさとこの現場から帰りたいくらいなんです。でも、さっきの先輩を見たら、そんな考えが馬鹿らしくなって。私も天使になりたいんです!」
「え?」っと美咲ちゃんは首を傾げる。「私が天使なんて!」
天使になる。そのフレーズに私は心当たりがありまくりだ。最初に僕がゆかりちゃんにアドバイスした言葉ではないか。
ゆかりちゃんがそれを覚えてくれて感無量だ。
しかしゆかりちゃんは、それを目指しているけれど、実際のところ具体的にどうやったら天使になれるのかわからなかったのかもしれない。
僕の最初のアドバイスは無駄に抽象的過ぎて、逆に彼女を困らせているのかもしれない。
「アドバイスに従ったからって、簡単にいかないことはわかってます。それに私にアドバイスして得になることなんて、先輩にはないのも理解してます。私は先輩にとって敵というかライバルで。私が駄目なほうが、先輩の引き立て役になるわけだし」
「そんなことないよ。私たちは・・・」
二人の会話に割り込んではいけない。猫会議の猫の会議に割り込んではいけないように、幼い子供たち同士のおままごと遊びに入り込んではいけないのと同じで、美咲ちゃんとゆかりちゃんのこの会話は神聖なる二人だけの空間だ。
二人の前で立ち聞きするわけにもいかない。
立ち去るしかないと思う。
しかしどんな会話が繰り広げられるのか気になって仕方なくて、僕は前に向かって歩いてはいくのだけど、1ミリずつしか進まないくらいゆっくりの歩調。
しかも精一杯に聞き耳を立てながら。
しかし現場はガヤガヤと騒がしい。美咲ちゃんの声は抑え気味で聞こえない。
「カメラの前に立っているとき、どんなことを考えているのか教えて欲しいです!」
ゆかりちゃんの声は叫ぶくらいにハキハキと喋っているから、それは聞こえるのだけど、美咲ちゃんの返事が聞こえなかった。
僕は思い切って振り向く。美咲ちゃんはけっこう真剣な表情で何かを語っている。それを聞いて、ゆかりちゃんの表情はパッと明るくなっている。
声は聞こえない。いったいどんなアドバイスをしてあげたのか気になるが、しかしゆかりちゃんの表情から察するに、何やら良い感じのアドバイスだったようである。
っていうか、監督の僕が彼女に嫌われた。だからもう、美咲ちゃんはもう適当な仕事しかしないだろうなって思いこんでしまっていた。
僕は全然彼女のことを信頼していなかった。わかっていなかった。
別に彼女は自分が機嫌が良ければ頑張ってやる気を出すとか、そんなモチベーションで仕事をしていない。
多分、そんな性格の女子なんだ。
じゃあ、何を根拠に頑張っているのだろうかって疑問に思うのだけど、それはよくわからない。
それが美咲ちゃんという大いなる謎の魅力か。
とにかく美咲ちゃんの制服から水着に脱ぐシーンは凄いものが撮影出来た。それは歴史に残る1ページに違いない。
どんなふうに凄かったのかっていう説明は難しい。こればかりは観てもらうしかない。
別に何か新しい制服の脱ぎ方をこのシーンで発明したわけではない。
露出度も大したことはない。それはもう全然、普通。
オーソドックスだったと思う。しかし「制服を脱ぐ女子」のあらゆるポイントを押さえていたと思う。
つまり僕が観たかった美咲ちゃんの姿が完全網羅されていた。
もしかしたら僕だけがすげえって興奮しているだけかもしれないな。
いや、そんなことない。スタッフさんたちも手応えを感じているに違いない。それを証拠に、何となくどんよりと沈み込んでいた現場の雰囲気が、さっきのシーンが終わって一変したんだ。
「さあ、次のシーンも頑張りましょう」
カメラさんが僕に声を掛けてくれる。これまでそんなことはなかったことだよ。
「次のシーンって、保健室でしたね?」
美咲ちゃんも僕とカメラマンさんの遣り取りの中に自然と入って来る。
「ゆかりちゃんとのシーンですよね?」
しかも美咲ちゃんは、ゆかりちゃんの名前を口にしたのだ。ぎこちなかった二人の関係に、春風が吹き込んできた気配。
「そう。次のシーンはこちらの指示に従ってもらうからね」
僕は冗談めかして言う。美咲ちゃんも「はい。でもそれは指示次第ですね」と微笑みながら返す。
更に驚くべきことが起きた。ゆかりちゃんが美咲ちゃんを出迎えたのだ。
彼女は教室の外に立ち、美咲ちゃんが出てくるのを待っていた様子。
美咲ちゃんに送る視線は熱く、それはまるでファンがスターに向ける眼差しだ。
「凄い感動しました。私、上手く言えないですけど、カメラの前の美咲先輩は本当に素敵で」
「ありがとうね」
クールな声で美咲ちゃんは返事する。その姿はバッチリと決まっていて、このまま颯爽とゆかりちゃんの前から立ち去るほうが格好良かっただろうけど、美咲ちゃんはゆかりちゃんの前に立ち止まる。ゆかりちゃんに何かを訴えたいことがあるようだったからだ。
「引き込まれたんです、美咲先輩の瞳に! 私もあんなふうになりたいって思いました」
はっきり言ってこの仕事、私はそんなにやる気なんてないです。
ゆかりちゃんは聞き捨てならないことも言い始めた。
「さっさとこの現場から帰りたいくらいなんです。でも、さっきの先輩を見たら、そんな考えが馬鹿らしくなって。私も天使になりたいんです!」
「え?」っと美咲ちゃんは首を傾げる。「私が天使なんて!」
天使になる。そのフレーズに私は心当たりがありまくりだ。最初に僕がゆかりちゃんにアドバイスした言葉ではないか。
ゆかりちゃんがそれを覚えてくれて感無量だ。
しかしゆかりちゃんは、それを目指しているけれど、実際のところ具体的にどうやったら天使になれるのかわからなかったのかもしれない。
僕の最初のアドバイスは無駄に抽象的過ぎて、逆に彼女を困らせているのかもしれない。
「アドバイスに従ったからって、簡単にいかないことはわかってます。それに私にアドバイスして得になることなんて、先輩にはないのも理解してます。私は先輩にとって敵というかライバルで。私が駄目なほうが、先輩の引き立て役になるわけだし」
「そんなことないよ。私たちは・・・」
二人の会話に割り込んではいけない。猫会議の猫の会議に割り込んではいけないように、幼い子供たち同士のおままごと遊びに入り込んではいけないのと同じで、美咲ちゃんとゆかりちゃんのこの会話は神聖なる二人だけの空間だ。
二人の前で立ち聞きするわけにもいかない。
立ち去るしかないと思う。
しかしどんな会話が繰り広げられるのか気になって仕方なくて、僕は前に向かって歩いてはいくのだけど、1ミリずつしか進まないくらいゆっくりの歩調。
しかも精一杯に聞き耳を立てながら。
しかし現場はガヤガヤと騒がしい。美咲ちゃんの声は抑え気味で聞こえない。
「カメラの前に立っているとき、どんなことを考えているのか教えて欲しいです!」
ゆかりちゃんの声は叫ぶくらいにハキハキと喋っているから、それは聞こえるのだけど、美咲ちゃんの返事が聞こえなかった。
僕は思い切って振り向く。美咲ちゃんはけっこう真剣な表情で何かを語っている。それを聞いて、ゆかりちゃんの表情はパッと明るくなっている。
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