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71)度重なる監督交代
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「いや、やっぱ、お前、俺の手伝いとかやるな、そんなことをやらす気なんてない」
新監督は言う。
「え? そ、そうですか、そうですよね・・・」
その言葉は心にぐっさりと突き刺さる。追放宣告だ。やっぱり僕の存在が煙たいのだろう。
「ちげえよ、馬鹿、何を落ち込んでんだよ。ペットが死んだみたいな顔しやがって! 俺の手伝いなんてしなくていいって言ってんだよ。もう、お前が仕切るんだ」
「え?」
「俺は降りた。好きにやれよ。偉い人たちには俺が言っておいてやっからさ。やりたいだろ?」
「やりたいです!」
「やりたくて堪らないんだろ?」
新監督さんは士官学校の教官のように声を張り上げて、僕に復唱を求めてくる。
「はい、その通りです!」
僕は全力でそれに応える。
「じゃあ、やれよ。俺は帰るから」
「ほ、本気ですか?」
僕がまたディレクターに復帰だって?
嘘だろ、おい。
「本気だ。度重なる監督交代にスタッフたちはうんざりするだろうし、上のほうもカンカンになるだろう。でも俺は帰るから、お前しか代わりはいなくなる。やるんだ、強引に、リーダーシップを発揮しろ」
「わ、わかりました!」
「ちなみに俺はやったことがあるぜ」
新監督、いや、違う、もう元監督だ。彼がちょっと声をひそめた感じで言ってくる。
「え?」
「自分の作品に出てるモデルの女の子とさ、撮影終りに、ホテルに直行して。お前ももしかしたらこの後、3Pとかさ、あるかもだぜ」
「え? え?」
「いや、この作品の出演者たちはまだガキか。でも俺の相手もギリギリ二十歳は越えてたくらいだったけど」
僕は言葉を失う。やはりこういうことがこの世界では横行しているのか!
何て薄汚れた世界なんだ!
「それも偉い人たちに頼んでおいたやるから」
「いったい、何てお言葉を返せばいいのか・・・」
僕は有り難さのあまり、今すぐ彼の足元に跪きそうになった。
しかし、そんなことしなくて良かった。
「嘘だよ。作品作りに集中しろよ、馬鹿」
「う、うそ?」
「そんなことあるわけないだろ。まさか本気にしてないよな? いくらお前みたいな世間知らずでも、こんなこと真に受けるわけないよな」
「ハハハ、まさか、本気になんてするわけないじゃないですか」
「そうだよな、ところで、次はどんなシーンだ?」
「はい、これで学校ロケは終わって、ハウススタジオで撮影ってことになります。ここから放課後編です」
「そうか、頑張れよ。じゃあな」
元監督はテニスコートの向こう側にいる担当者さんのほうに向かって歩いていき、彼に何か二言三言話して、僕のほうを指差して、僕に再び手を振り、そのまま振り返ることなく、僕たちの視界から去っていった。
その代わり、慌ててこっちに向かって走ってきたのが我が担当者さんである。
「何てことになったんだ!」
「やりますよ、僕は!」
僕はライオンのように吠える。
「安心して下さい。僕がちゃんとタイムリミットまでに、作品を完成させます!」
新監督は言う。
「え? そ、そうですか、そうですよね・・・」
その言葉は心にぐっさりと突き刺さる。追放宣告だ。やっぱり僕の存在が煙たいのだろう。
「ちげえよ、馬鹿、何を落ち込んでんだよ。ペットが死んだみたいな顔しやがって! 俺の手伝いなんてしなくていいって言ってんだよ。もう、お前が仕切るんだ」
「え?」
「俺は降りた。好きにやれよ。偉い人たちには俺が言っておいてやっからさ。やりたいだろ?」
「やりたいです!」
「やりたくて堪らないんだろ?」
新監督さんは士官学校の教官のように声を張り上げて、僕に復唱を求めてくる。
「はい、その通りです!」
僕は全力でそれに応える。
「じゃあ、やれよ。俺は帰るから」
「ほ、本気ですか?」
僕がまたディレクターに復帰だって?
嘘だろ、おい。
「本気だ。度重なる監督交代にスタッフたちはうんざりするだろうし、上のほうもカンカンになるだろう。でも俺は帰るから、お前しか代わりはいなくなる。やるんだ、強引に、リーダーシップを発揮しろ」
「わ、わかりました!」
「ちなみに俺はやったことがあるぜ」
新監督、いや、違う、もう元監督だ。彼がちょっと声をひそめた感じで言ってくる。
「え?」
「自分の作品に出てるモデルの女の子とさ、撮影終りに、ホテルに直行して。お前ももしかしたらこの後、3Pとかさ、あるかもだぜ」
「え? え?」
「いや、この作品の出演者たちはまだガキか。でも俺の相手もギリギリ二十歳は越えてたくらいだったけど」
僕は言葉を失う。やはりこういうことがこの世界では横行しているのか!
何て薄汚れた世界なんだ!
「それも偉い人たちに頼んでおいたやるから」
「いったい、何てお言葉を返せばいいのか・・・」
僕は有り難さのあまり、今すぐ彼の足元に跪きそうになった。
しかし、そんなことしなくて良かった。
「嘘だよ。作品作りに集中しろよ、馬鹿」
「う、うそ?」
「そんなことあるわけないだろ。まさか本気にしてないよな? いくらお前みたいな世間知らずでも、こんなこと真に受けるわけないよな」
「ハハハ、まさか、本気になんてするわけないじゃないですか」
「そうだよな、ところで、次はどんなシーンだ?」
「はい、これで学校ロケは終わって、ハウススタジオで撮影ってことになります。ここから放課後編です」
「そうか、頑張れよ。じゃあな」
元監督はテニスコートの向こう側にいる担当者さんのほうに向かって歩いていき、彼に何か二言三言話して、僕のほうを指差して、僕に再び手を振り、そのまま振り返ることなく、僕たちの視界から去っていった。
その代わり、慌ててこっちに向かって走ってきたのが我が担当者さんである。
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「やりますよ、僕は!」
僕はライオンのように吠える。
「安心して下さい。僕がちゃんとタイムリミットまでに、作品を完成させます!」
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