天使たちの水浴びシーン

アッシュ出版

文字の大きさ
71 / 92

71)度重なる監督交代

しおりを挟む
 「いや、やっぱ、お前、俺の手伝いとかやるな、そんなことをやらす気なんてない」

 新監督は言う。

 「え? そ、そうですか、そうですよね・・・」

 その言葉は心にぐっさりと突き刺さる。追放宣告だ。やっぱり僕の存在が煙たいのだろう。

 「ちげえよ、馬鹿、何を落ち込んでんだよ。ペットが死んだみたいな顔しやがって! 俺の手伝いなんてしなくていいって言ってんだよ。もう、お前が仕切るんだ」

 「え?」

 「俺は降りた。好きにやれよ。偉い人たちには俺が言っておいてやっからさ。やりたいだろ?」

 「やりたいです!」

 「やりたくて堪らないんだろ?」

 新監督さんは士官学校の教官のように声を張り上げて、僕に復唱を求めてくる。

 「はい、その通りです!」

 僕は全力でそれに応える。

 「じゃあ、やれよ。俺は帰るから」

 「ほ、本気ですか?」

 僕がまたディレクターに復帰だって? 
 嘘だろ、おい。

 「本気だ。度重なる監督交代にスタッフたちはうんざりするだろうし、上のほうもカンカンになるだろう。でも俺は帰るから、お前しか代わりはいなくなる。やるんだ、強引に、リーダーシップを発揮しろ」

 「わ、わかりました!」

 「ちなみに俺はやったことがあるぜ」

 新監督、いや、違う、もう元監督だ。彼がちょっと声をひそめた感じで言ってくる。

 「え?」

 「自分の作品に出てるモデルの女の子とさ、撮影終りに、ホテルに直行して。お前ももしかしたらこの後、3Pとかさ、あるかもだぜ」

 「え? え?」

 「いや、この作品の出演者たちはまだガキか。でも俺の相手もギリギリ二十歳は越えてたくらいだったけど」

 僕は言葉を失う。やはりこういうことがこの世界では横行しているのか! 
 何て薄汚れた世界なんだ! 

 「それも偉い人たちに頼んでおいたやるから」

 「いったい、何てお言葉を返せばいいのか・・・」

 僕は有り難さのあまり、今すぐ彼の足元に跪きそうになった。
 しかし、そんなことしなくて良かった。

 「嘘だよ。作品作りに集中しろよ、馬鹿」

 「う、うそ?」

 「そんなことあるわけないだろ。まさか本気にしてないよな? いくらお前みたいな世間知らずでも、こんなこと真に受けるわけないよな」

 「ハハハ、まさか、本気になんてするわけないじゃないですか」

 「そうだよな、ところで、次はどんなシーンだ?」

 「はい、これで学校ロケは終わって、ハウススタジオで撮影ってことになります。ここから放課後編です」

 「そうか、頑張れよ。じゃあな」

 元監督はテニスコートの向こう側にいる担当者さんのほうに向かって歩いていき、彼に何か二言三言話して、僕のほうを指差して、僕に再び手を振り、そのまま振り返ることなく、僕たちの視界から去っていった。
 その代わり、慌ててこっちに向かって走ってきたのが我が担当者さんである。

 「何てことになったんだ!」

 「やりますよ、僕は!」

 僕はライオンのように吠える。

 「安心して下さい。僕がちゃんとタイムリミットまでに、作品を完成させます!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...