僕等の世界は鬼の中

悠奈

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Case.2 酒呑童子

第六話

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「あれ、桃田さんじゃないですか」
  鬼頭先輩に声をかけられたのは、専部が有する図書室でのことだった。
「こ、こんにちは……」
  特になんでもない放課後に、専部の人と会うのは初めてで、なんとなく緊張してしまう。
「何探してるんですか?」
「えっと、前に有馬先輩と会長さんが言ってた事故のこと、詳しく知りたくて。……あの、興味本位とかじゃないんです。でも……」
「それは僕も気になってました」
「鬼頭先輩も?」
  確か、先輩が会長さんの式神?  になったのは一昨年って言っていた。もしそのときいた先輩から直接話が聞けるなら、その方がいいと思ったんだけど……。
「僕が正式にこの学校の生徒になったのは去年からなんですよね。去年の専部は、三年生と二年生を合わせても、二人しかまともに戦える人がいなくて、一年生もいなかったんです。言い換えると、〈茨木童子〉が助っ人に入ったみたいな感じですよ」
  鬼を倒すのがお仕事なのに、鬼に手伝ってもらうっていうのも、なんだか変な話ですよね。
「だから僕は、有馬君の事故のことはよく知らなくて。まあ、興味本位かって言われると嘘じゃないです。こんなこと、本人に聞くわけにもいきませんから、ここに来てみました」
  私も似たようなものだ。
  田沼先生に聞こうと思ったら、田沼先生は今年大学を卒業したばかりの先生で、事故のことは知らないって言っていた。その代わり、この図書室の存在を教えてもらったのだ。
「不思議ですよね。専科の歴史が全部記された書物があるって」
  私がそう言うと、鬼頭先輩はさも当然とでも言っているかのような顔をしていた。
「鬼が存在する世界ですからね。もう、何があっても驚きませんよ」
  そ、それを鬼が言ってしまうのか……。
「あ、ありました。これが去年の記録ですね」
  鬼頭先輩は、分厚い本を取り出した。

 * * *

「お、けーすけだ!やっほー!」
  専部の教室へと続く廊下で、真冬は啓介の肩を思いっきり叩いた。
「いってーな……。力強すぎるんだよ」
  彼等は当時、この〈退鬼専門部〉の一年生であった。有馬啓介は高校入試直前に能力が判明、小酒井真冬は〈退鬼師〉の中でも高名な家の出身で、中等部の頃から学園に通っていた。
「ねえ、聞いた?  〈酒呑童子〉の話」
  真冬の言う「〈酒呑童子〉の話」とは、当時四ッ谷学園近隣で出没している鬼の噂だった。その特徴と強さから、〈酒呑童子〉と推測されている。
「まあ、一応聞いてる。先生が見つけて応戦しようとしたけど、駄目だったんだよな?」
  幸い、応戦した教師に大きな怪我はなかった。
「怖いなー。もしあたし達が遭遇したらすぐにやられちゃうよ」
「そういうの、死亡フラグって言うんだけど」
「何それ?  おいしいの?」
「おいしくない」
  二人が専部の教室の前を通ると、中で教室と当時の三年生──清水かなが話していた。
「わかりました。できる限りのことはしてみますが……。保証はできません」
  真冬は清水と教師の話を気にすることなく教室に入った。
「かなちゃん先輩やっほー!  あ、せんせーもこんにちはー」
  二人は真冬の想像以上に深刻な話をしていたらしく、真冬の挨拶には反応しなかった。
「何の話だろ?」
「……俺に聞くなよ」
  すると、最初から話を聞いていた猪狩結香が話かけた。
「どうやら、〈酒呑童子〉討伐の話らしい」
「へ?  討伐!?」
  清水みくは、当時、退鬼専門部の中では一番能力を使いこなしており、歴代最強の〈退鬼師〉になるのではないか、とまで言われていた。
「いや、でも〈酒呑童子〉っていうと、日本で一番強い鬼らしいじゃん。いくら清水先輩でもどうにもならないだろ」
  有馬が否定的な意見を出す。教師との話を終えた清水が、話に加わった。
「私もそう言っていたんだけどね。〈酒呑童子〉は最近、人を襲い始めたらしくて。放っておくのは危険すぎるみたいなの」
  有馬は納得いかない顔をしているが、真冬はそういうわけではなかった。彼女は昔から続く〈退鬼師〉の家の出身だから、〈酒呑童子〉のこともよく知っていた。
「まあ、どうせあたし達じゃ太刀打ちできないもんね!  結香ちん、みくちゃん先輩、ありがと!」
  彼等はそれくらい、軽く考えていた。

「あーもー!  宿題終わんない!」
  放課後、真冬は山積みになった宿題の上に突っ伏していた。
「宿題が溜まるのは、お前がやらないせいだろ?」
「啓介だけには言われたくないね!  小学生の頃はまともに宿題やって来たことなかったくせに!」
「何年前の話してんだよ」
  二人は同じ小学校の出身である。四ッ谷中学校に進学した真冬に、有馬が高校で再会した形だ。
「お前、よくそんなんで中学の勉強ついていけたな……。その問題、そんなに難しくないのに……」
「付いてけてないよ。中学のときサボりまくったもん。あたしがここに入れたのは、〈退鬼師〉だったから」
  その返答には、有馬も呆れるばかりだった。
「あーもう、いーや!  ね、啓介!  宿題やって来て!  明日の一限だから!」
 真冬は有馬に宿題を押し付ける。しかし、有馬は首を横に振った。
「嫌だよ。他のクラスの宿題なんかやりたかねぇし」
「ちぇ。つまんないの!」
  その刹那、大きな音がして校舎が揺れた。
「な、何これ、地震?」
「いや、地震の揺れ方じゃな──」
  有馬がそこまで言ったところで、二人がいる教室のドアが、吹き飛ばされた。
「あらららら……。ちぃとやりすぎたかね?」
  野太い男の声。この学校の生徒のものではないのは明白だった。教師にも、こんな声の持ち主はいない。
「はっ!  人間の造った物は脆くていいねぇ。壊しがいがある」
  彼は、まだ二人の存在には気付いていない。有馬が咄嗟の判断で、真冬を机の影に隠したのだ。
──俺達の能力は対鬼用だから、人間相手に通用しない。もし、敵意があるなら、何とか隙を見て逃げるしか……。
  有馬が思考を巡らせていたそのとき。
「ん~?  人間の匂いがするなあ。この〈酒呑童子〉様に勝てると思うなよ?」
  そう言いながら〈酒呑童子〉は、二人が潜む机を、素手で破壊した。
「……ほう?最近の若者はやりおるじゃないか」
  辛うじて攻撃を避けた二人は、その姿を見て戦慄した。目の前の〈酒呑童子〉は、ほとんど人と変わらない姿をした、大男だったのだ。その身長は、平均よりも少し高いくらいの有馬の背を、三、四十センチメートルは越えている。
  唯一、人との違いがあるとするならば、その頭の上の、二本の角だけだった。
──後に判明したことだが、〈茨木童子〉や〈酒呑童子〉ほどの鬼になると、人間と同じような風貌で、人間社会に溶け込んでいるものもいるようだ。
「貴様等は〈退鬼師〉だなぁ?本当は遊んでやりたいところだが、オレもそんな余裕はねぇ」
  鬼が、その太い腕を振り上げた。
「死んでもらおうか」
  〈酒呑童子〉はニヤリと笑い、高く掲げた腕を振り下ろした。
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