僕等の世界は鬼の中

悠奈

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Case.5 霊鬼

第十九話

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  結局、一週間経っても状況はさほど変わらなかった。むしろ悪化した。雑魚の処理が追い付かなくなってきたのだ。
  でも悪い話ばかりじゃない。こちらの戦力も増えている。
  近くの大学に通っている清水かな先輩に応援を要請したそうだ。会長さんって、ずぼらそうに見えるときもあるけど、ここ一番ってときに本当頼りになる人だ。
  当然、私や鬼頭先輩も駆り出されることになった。
「結香ちゃん!  三年の教室にいた〈邪鬼〉やっつけておいたよ~」
  ところで、清水先輩の退治のスピードが異常に早いのは気のせいでしょうか……。
「なあ、凛津。あの人、学校に来たのたった三十分くらい前だよね?」
「うん」
「そんなだったらあの人に全部任せた方が早くない?  どうせオレ、役に立たないんだし……」
「それは私が困る。次、行くよ」
「……はい」
  一学期の最後の名津君退学騒ぎの後、この双子は本当に仲が良くなったと思う。どちらかというと、凛津が距離を縮めてきた感じかな?
  「そろそろ疲れてきたんだけどな~……」とぼやきながら、名津君は凛津の後を追いかけていった。
「お、君が噂の〈半鬼〉ちゃん?」
  背後から清水先輩に話しかけられた。
「あ、は、はい!  そうです!」
  う~ん……。もっとまともな反応はできなかったのだろうか……。前よりはましになったけど。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。半分鬼だからって退治したりしないから」
  あはは……。デスヨネ。
「こんなときじゃなかったら色々聞きたいことあるんだけどな~」
「色々……ですか」
「色々デス」
  何聞かれるんだろ。
「あ、変なこと聞く気はないよ!  私、鬼関連の仕事してるからちょっと興味あるだけ!」
  なんか怖いな。
  こんな事態なので、この人はほとんど私達一年生に話しかけてくることはなかった。急にどうしたんだろう?  しかも、私だけに。
「清水せんぱーい。後輩のこといじめるのやめてくださーい」
  会長さんがようやく助けてくれた。
「え~?  いじめてるつもりはないんだけどな……」
  そう見えるのは私の態度のせいですね。早く初めて会った人に尻込みする癖治さないと……。
「そんなこと言って……。あなた、入学したての啓介のこともいじめてましたよね?」
「ばれてたか」
  え。有馬先輩、何されたんだろ。
「あれは私なりの気遣いだったんだよ!?  入学したてで、鬼だ何だって聞かされたばっかで、有馬君混乱してたから!」
「逆効果だったじゃないですか」
  有馬先輩、何されたんですか!?
  そんなことを本人がいないところで聞くつもりはありませんが、つい気になってしまう……。
「そういえば──」
  清水先輩、会長さん以上に自由な人だな……。
「──彼は大丈夫……?」
  その一言で、今までのふざけた雰囲気が完全に消えた。
  この人は〈酒呑童子〉襲来のときは〈専科〉にいたそうだ。つまり、そのときの真冬さんや有馬先輩のことも知っている。心配になるのも当然だろう。
「あいつは……学校には来ているみたいなんですけど……」
  呆れているのか、心配しているのか。会長さんの言い方からは、どちらともとれる。
「そりゃそうだよね……。こればっかりは本人に任せるしかないしね」
  清水先輩は、それで話を切った。
「それじゃ、私はもうちょっとお仕事頑張りますか!  適当に巡回して、鬼見つけたら叩いとくよ」
  物凄いバイタリティ……。
「澪ちゃんも一緒に来る?」
「あ、えっと……」
  一昨年の〈専科〉のメンバーの中で、一番強かったらしい清水先輩のお誘いは嬉しいし、この人から学びたいことも沢山ある。だけど、今は──。
「今は、別々に対応した方が得策だと思います」
  それに、一つ試したいこともあるし。
  生意気な後輩の意見にも、文句ひとつ言わなかった。
「そっか。じゃあ、お互い頑張ろう!」

  清水先輩の前ではそう息巻いたものの、私は目の前に迫り来るものを見て、思わずため息をついた。
「うわぁ……。すっごい数……」
  かなりの量の鬼の大群が、私を待っていた。待ってないでいいから、分散してよ……。
  そんな願望も虚しく、鬼の量は段々膨れ上がり、百体に達しそうな勢いだ。
  ──私の予想が正しければ、真冬さんの身体を乗っ取った〈霊鬼〉は、ここに現れる。
  ここは何度かマユちゃんと遭遇した中庭だ。
  何故かここは、巣くっている鬼が圧倒的に多い。普段は気にもならないような雑魚が大人しくしているだけだから、退治する必要もない。だけど今は〈霊鬼〉の影響で、大人しい鬼も狂暴になっている。
  こんなところに独りで突っ立っている私は、格好の餌食なんだろうけど、こっちだって目的があってここにいる。やられるわけにはいかない。
  ぎゃあぎゃあと喧しい大群を前に、薙刀を構えた。
  初めて鬼に対してこの木でできた棒を向けたとき、私はうまく使いこなすことができなかった。それは、薙刀が対人用で、決まった型で勝負を決めるものだから。そんなもの、身につけても仕方ないと思ってた。
  でも、今は違う。
  まさか自分が鬼と戦うことになるとは思っていなかった。自分がその鬼だなんて、考えてもみなかった。
  今私がここにいるのは、マユちゃん──真冬さんを救うため。だったら、この薙刀も、正しく振れるはず。
「もう少しだけ、付き合ってね」
  目前まで引き付けた鬼の隊列に穴があくまで、二秒もいらなかった。
  悲鳴のような声をあげて消えていく鬼に、快感を覚えることがないとは言えない。だけど、怖くないと言えば嘘になる。
  前に鬼頭先輩に言われたことがある。鬼を倒すことに疑問を感じていた私に、「そのままでいい」と。
  何で先輩はそんなことを言ったんだろう。
  私が〈半鬼〉だから?
  ううん。そうじゃない。そのときはまだ〈半鬼〉のことなんか、知らなかったじゃないか。
「うわっ」
  死角から鬼が飛び出してきた。危うく攻撃を受けそうになるけど、軽い鬼はすぐに吹き飛ばされる。
  同族意識じゃなければ、考えられることは一つしかない。
  私の性格そのものなんだろう。
  私だって、ただのビビりじゃない。ちゃんと、色々考えてるし、やるときにはやれるはず。
  鬼だって人間と同じ。どこまでの精度なのかはわからないけど、感情だってあるだろう。一方的にやられるのは悲しいと思った。
  だからこそ、違う方法を探してみたい。
  鬼の軍に、大きな穴が空いた。行動するなら──。
「──今ッ!」
  私は柄の手を千段巻に移した。攻撃力の強すぎる刃の部分よりも、石突で攻撃すれば、鬼を消滅させずに気絶でとどめられるかもしれない。
  あくまでも机上の空論だ。上手くいくかどうかはわからない。
  私が、半人半鬼である私が、鬼も人間も悲しくならないで済む道を、見つけられたらいい。

  ──違う。見つけるんだ。

「せあぁ!」
  これまでは一振りで消えていっていた小さな鬼達は、原型をとどめたまま地に落ちた。鬼に「死」という概念はない。存在するか、消えるかのどちらかだ。
  でも、全部が全部うまくいったわけじゃない。消える個体だっているし、吹き飛ばされた仲間の身体に押し潰された個体もいる。
  仕方ない、で終わらせたくない。だけど、私にだって余裕があるわけじゃない。
「なんでまだ出てくるの?  マユちゃん。ねぇ、答えてよ!」
  いくら倒してもキリがない鬼を前に、余裕がなくなっていたのかもしれない。その叫びは、違う形で解消された。
  ザァ……と、異様な風が吹いた。
  密集していたはずの場所が開けたんだ。でも、どうして……。

「……有馬先輩」

  そこに立っていたのは、神妙な面持ちをした彼だった。
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