魂の封術士

悠奈

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第一章

第三話

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「君は、『魂の封術士』なの」

  突然そう告げられて困惑した。彼女はなにを言っているのだろうか?
「……あのさ」
  迷った末に口を開いた。
「急にそんなこと言われても、わからないよ。今のはなんだったの?」
  咲姫さんは少し戸惑ったような素振りを見せた。口を挟もうとしたが、それは襖が開く音にかき消されてしまった。
「とわぁぁぁ!」
  襖が開くのと同時に、奇声をあげながら誰かが入ってきた。二十代くらいの男の人だ。
  十羽さんはそれをにこやかに受け流す。
「やあ高木君。僕のことはフォーエバーと呼びたまえ」
  呼びたまえって……。おかしいだろ……。
  そう思ったのは俺だけのようで、高木さんはそれを無視して、十羽さん胸ぐらを掴みにいった。
「とわぁぁ……。お前なにしてるんだ?  彼の意識が戻り次第、連絡する手筈だったろ?  それがどうして連れ回してる?」
  本人は威圧してるつもりだろうが、正直そんなに怖くない。十羽さんにも全くきいていない様子で、「ごめんよ」とおどけている。
「……あの人誰?」
  二人の様子を見ながら咲姫さんをつついた。
「ああ、あの人?  あの人は高木さん。ちょっとした事情で一時期家にいたから、お兄ちゃんと仲良しで、今は警察官をやってるんだって。ちなみに、二十三歳彼女なし。彼女いない歴二十三年」
  正直いらない情報の方が多かった。
「あ!」
  高木さんが急にこちらを振り返った。
「君、今枝一希君だね!?  身体とか大丈夫?  あとこいつに変なことされてない?」
  突然のハイテンションについていけず、「は……はい……」と羽振りの悪い返事になってしまった。
「あー、そうだ。咲姫にも来てもらわないと」
「えぇ~?」
  咲姫さんは面倒臭そうに声をあげた。
「いやいや、君、ある意味中心人物でしょ」
「わかってるよ……」
  そういいつつも、その顔には不満さが溢れていた。

 * * *

「今枝君、『もや』は初めて?」
  高木さんがそう聞いてきた。
 「もや……?」
  初めて聞いた地名だった。
「『雲』に『谷』って書いて雲谷。いやぁ……。やっぱり知らないよね。田舎だし……」
  そう言いながら高木さんはどこか遠くを見ている。そっちに窓ないのに。
「そんなことないと思いますよ。多分、うちの方が田舎なんで……」
  こんなことを言っていると悲しくなってくるが、事実なのだから仕方ない。あの辺りはあと一歩で限界集落だ。人口の六割が老人で、二十歳以下の子どもは二割もいない。子どもが少ないからといって、他の学校と合併もできない。山の奥にある場所だから、学区の外に出るのも大変なのだ。
「それで、本題なんだけどね……」
  そうして高木さんは聴取に入った。

「……はい。俺が覚えてるのはこれで全部です」
  事件の事実は、できるだけ彼に伝えた。ただ、本当に一瞬の出来事だったし、確定じゃない情報も多くて、彼等が求めているものを提供できたには自信がない。
「ねぇ、今枝君」
  ここで初めて、咲姫さんが口を挟んだ。
「今日、あの場所にいたのは君を含めて何人?」
  人数なんか聞いて、どうするんだろう?  多少疑問に思ったが、それは俺しか知らない情報なので素直に答えた。
「七人だった」
「……そっか。ありがとう」
  その言葉とは裏腹に、彼女の顔は沈んでいる。
  彼女は高木さんに向き直った。
「私が助けられたのは、彼一人だけです。あとは、皆駄目でした。私が見た『魂』は六つだったから」
  そこで言葉を切ると、俺の方に顔を向けた。
「ごめんなさい……。間に合わなかった……」
  頭を思いっきり殴られたような気がした。
  なんとなく、わかってた。わかっているつもりだった。だけど、心のどこかで「まだ誰か生きてる」って、思ってたんだろうな……。

「……あのとき、呪術士が近くにいた」

  咲姫さんが掠れた声で呟いた。
「私に言えるのは、それだけです」

 * * *

  高木さんは、「一回この話は持ち帰る」とだけ言って、神社をあとにした。
「そもそも、こういった札とかを使える人達は、一括りに『術士』って呼ばれてる」
  高木さんが出て行ったあとで、咲姫さんはそう呟いた。
「元々は陰陽道から派生した力らしいんだけど、詳しいことはわかっていない。陰陽道はとっくの昔に廃れちゃってるからね」
  そう言いながら、彼女は窓の方へ近づいていく。
「で、その中でも特別なのが『呪術士』と『封術士』」
「数の中の有理数と無理数みたいな関係?」
「ま、そんな感じかな」
  彼女は笑っていた。
「その関係は対になっていてね、『呪術士』が外に発した力を、私達──『封術士』が回収してるんだ」
  いつの間にか、その笑顔は消えていた。
「私は、君のことが羨ましいよ。私には、『魂を消すこと』はできても、『魂を救うこと』はできない」
  太陽は、沈みかけていた。
「あの人達を助けたくても、私にできることはない。時間稼ぎなんて、根本的な解決にならない」
  振り返った彼女の顔は、夕陽に照らされて、赤く染まっていた。
「彼等は危険すぎる。助けられるのは、あなたしかいないの」
  意味深なことを言われた直後、襖が開いて桐が入ってきた。
  都合が悪すぎるタイミングに少しうんざりしたが、彼等が話し始めてしまったため、俺は口を閉じた。
「やっぱり猫かくまってた。その子、今までどこにいたの?」
  姉の圧に負けて、桐は小さくなっている。
「学校の裏庭。誰にも見つからない場所がそこにしかなかった」
  彼が抱えているのは、生後数ヶ月と思われる仔猫だ。どこかで引っかけたのか、腕のあたりから血が出ている。
「動物好きなのはいいけど……。まあいいや。早く治してあげないと、その子も辛いもんね」
  まだ説教が続くのかと思ったが、咲姫さんは矛をしまった。
「えっと、必要ならタオルとか持ってくるけど……」
  手伝おうと思ったけど断られた。
「大丈夫大丈夫。必要ないよ」
  そして、彼女は思い出したように言った。

「そうだ!  丁度いいから見ときなよ!」
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