魂の封術士

悠奈

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第二章

第六話

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  雲谷の中学校に通い始めて、一週間が経った。
  五十六人の学年らしいが、水原に比べたら多く感じる。一年で全員の名前を覚える……つもりもないし、多分できない。無理。
  クラス替え直後のためか、まだ生徒同士のグループは確定しておらず、自分としてはスムーズにクラスに入れたと思う。騒がしいのは苦手だから、決して友達が多いとは言えないけど。
  二クラスとはいえ、クラス替えなどしたことない俺としては、少し羨ましかった。

「小和田と一希って、付き合ってんの?」
  そんなデリカシーのないことを聞いてくる奴は、クラスに一人しかいない。
「神木はさ、出会ってまだ一週間しか経ってない人と付き合いたいと思う?」
「まあ、可愛ければ」
  駄目だ。話が通じない。というかどうしてこいつは、教室のど真ん中でそんな話ができるんだ。昼休みは外に出ていく人が多いクラスでよかったよ。
「なんだよつまんねーな。同棲してるんだろ?  なら面白い話の一つや二つはあると思ったのに」
「同棲じゃない。ただの居候」
  他にも言いたいことは色々あるが、うまく言葉にできなかった。
  それに家の中じゃ、あいつと関わるとあまりいいことがない。長く話してると、睨まれるんだよ、桐に。変ないざこざは避けたいというのが本音だ。
「はっきりさせた方がいいぜ?」
  神木の声のトーンが一気に低くなる。
「……なにが」
  正直相手にしたくないが、ここで人間関係を不意にすることもできない。
  神木はにやっと笑う。聞き返さなければよかった。今更後悔しても遅い。
「一希ってさ、モテるだろ?」
「は?」
  思わず絶句した。
  モテるもなにも、集落に同年代の人は十人と少しを数える程度だった。ほとんど全員が物心つく前からの付き合いのせいか、恋愛沙汰はめったにない。自分が巻き込まれた……というか、巻き込んだときはかなり酷い目にあった。
「なんで突然そんなことを……」
「だってお前、いつも色んな人に囲まれてるから」
  それは、単純に転校してきたばかりの珍しい奴に興味があるだけの話だ。反論するのも面倒なので言わなかった。
「別に俺は、そういう人種じゃないよ」
「顔はともかく性格がなぁ……」
「…………」
  一体なんの話をしてるんだろう。周りに誰もいなくてよかった。
「……?  どうかした?」
「……別に」
  恋愛沙汰に首を突っ込んでる余裕はない。まだ、あれから一週間だというのに。
  一小一中で結束力がかなり強いと聞いていたばかりにかなり不安だったり、入ってみたら結構楽しかったり。でも、楽しんじゃいけないと思っていたり。
  そんなちぐはぐな思いが胸を突いた。

 * * *

「あ!  今枝君だ!」
  帰り道、咲姫に声をかけられた。
  呼び捨てで呼んでくれと言われたからそうしているが、相手はやらないので、少し不満だ。
「帰り道わかるよね?  私、友達の家に寄ってくから!」
  さすがにその確認をされるとは思わなかった。俺がかなりの方向音痴だったとしても、一週間も通えば道くらい覚える。
「わかるっての……」
「そっか!  じゃあまた後でね」
「はいはい……」
  そう言って咲姫は手を振った。
  なんだこれ。なんなんだろ、このやり取り。
  後ろで神木がニヤニヤしている。
「やっぱ小和田ってさ~……」
「そんなんじゃない」
  言語道断。きっぱり言ってやった。
「けっ。つれないなー」
  神木はつまらなさそうに腕を後ろで組んだ。
  だが、すぐに顔色を変える。
「あ、そーだ。お前、サッカー部入らない?  今人がいなくてさ」
  部活の誘いがきたのは初めてだ。
「ごめん。無理」
  即答で断ったのに、神木はいつまでも食い下がってくる。
「えー?  なんで」
「今更運動部とか、ついてけない」
「じゃあ今まではなにやってたんだよ?」
「…………」
  別に、言っても問題ないことだとは思う。けど、言いやすいのと言いにくいのでは別問題だ。
  第一、俺は入りたくて入ったわけじゃないんだよ。南帆と竹田が暴走して部活作って、強制的に学年全員を入部させただけだ。まあ、乗り気な奴も一定数いたけれど……。
「え、演劇部……」
「えぇ!?」
  神木は笑いを含みながら驚いた。
「こうなるから言わなかったんだよ。絶対『似合わない』って言われるから……」
「そりゃ似合わねえよ。暗い」
  別に性格が暗いのは問題にならないと思う。役者志望じゃないし。
「で、どうなの?  入る?」
「……入らない」

  騒がしい俺達の後ろ姿を見ている影があった。
  このとき、俺は「そいつ」に気が付かなかったんだ──。
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