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第三章
第十二話
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リリリリリ……。
金曜日の朝、目覚まし時計がけたたましい音を響かせた。
まだ眠い。もう少し寝かせてほしい。
だけど今日も学校だ。そんなことは言っていられない。再び閉じようとする瞼を必死の思いで開く。
…………なにかいる。
なにかが、そこから熱い? 視線を送ってくる。
「えっと……。どちら様で?」
声をかけたのが運の尽きだった。
「かぁずぅきぃー!」
埴輪のような形状のそれは、人の姿に形を変えて襲ってきた。
「うわあああああ!?」
断末魔にも似た俺の叫びが、朝からこだますることになってしまった。
その表情からは、嬉しさが溢れている。
懐かしい、声──。
「やっと、見つけた!」
* * *
「うへへ。ごめんね~。驚かせちゃって」
「ううん。朝から今枝君が叫んだおかげで、スムーズに起きることができたよ……」
咲姫はまだ眠そうな目を擦っている。本当に起きてるのか?
あの後、俺の叫びで叩き起こされた咲姫が様子を見に来たところで、今に至る。
「えっと、近藤南帆さん、だっけ」
「南帆でいいよー」
相変わらずこいつはコミュニケーション能力が高い。少し分けてほしいくらいだ。
彼女は元水原中の生徒。学年のムードメーカーの一人だった。
「それで、どうして今枝君を襲おうとしてたの?」
「……それストレートに聞くのやめてくれない?」
咲姫の疑問はもっともだけど、見たことをそのまま口に出すのはやめてほしい。
「それはねー。私がずっきーの彼女だからだよ!」
しばし沈黙。
「…………え?」
俺が頭を抱えることになった。
* * *
朝からとんでもない目に遭った……。あいつはなにもかも急すぎるんだよ。
今日は一人で登校している。
咲姫が朝飯を食べながら船を漕ぎ始めてしまったのをいいことに、置いてきてしまった。南帆の爆弾発言のせいで、なんとなく顔を会わせづらくなってしまったのだ。
彼女がいたのが日常だった頃と、それに比べると随分静かになった今と、どちらが「平和」だったのだろう。
「なーんてな……」
疲れてるんだよ、きっと。こんなことを考えるなんて。今と昔を比べる必要はない。色々なことが急にありすぎた。
あの日消えた穂積は今どうなっているのか、俺は知らない。生きて……はないか。本当に成仏してくれたのかな。それならいいんだけど。
どうしてもまだ、「あいつ等が生きていてくれたなら」と願う自分がいる。
現実を受け入れられるようにならないと。そんなことを思った朝だった。
* * *
その日の放課後。家に帰ると、咲姫と南帆が話していた。
「てことは、南帆ちゃんと今枝君はその、いわゆるカップルではないと?」
「んー。まあ、そういうことかなぁ? よくわかんないや。それでも私は一希の彼女って名乗ってるし」
どうして女子二人に、目の前で自分の話をされなきゃならんのだ……。納得いかない。早くここから離れたい。
やめてほしいけど、それを叫ぶ勇気はあいにく持ち合わせていない。もう、どうにでもなってしまえ。
ちなみに、受験前の忙しい時期なのでそういう関係を一時的に解消しているだけです。扱いは今までとほとんど変わらないけれど。
「それにしても、よく見つけたね。今枝君のこと」
確かに、それは不思議だった。俺に恨みがあった穂積はともかく、南帆にはそんな様子もない。隠してる……可能性はないと思う。
「私はあの日から今日まで、皆のこと探してたよ。ずっと、一人だったけど」
声から明るさが消えた。
少し意外だった。水原の中心的人物だった竹田ならともかく、まさか南帆がそんなことをしていたとは。
やはり、死んでなお、忘れられないものなのだろうか。
「私も幽霊になって気付いたんだけど、幽霊ってふわふわしてて、どこへでも行けちゃうんだ。だから一希を探すのが手っ取り早いかなって」
確かに、生身の人間はそう遠くへは行けない。学生なら尚更、好きなところへどこへでもというわけにはいかない。
「見つけられたのは、ずっきーとあと一人。まあ、実際に会話したわけじゃないんだけどね~」
南帆は嬉しそうに語っている。
「……ねえ、それってその後どうするつもりだったの?」
「え?」
「全員見つけて、どうしたかったの?」
南帆は俺の疑問に、真剣にはなってくれなかった。
「さあ? どうしようか?」
「…………」
意外と、なにも考えてなかったりするのかもしれない。
「ごめん。変なこと聞いた」
「別にいいよ。それくらい。聞きたいこと、じゃんじゃん聞いて!」
そう言った彼女は笑顔だった。
「あの、一応聞いておくんだけど、南帆ちゃんは、成仏するつもりは──」
「ないよ」
現実を突きつけるような咲姫の言葉を、南帆はきっぱりと否定した。
「それはどうして?」
南帆はいつになく真面目な顔をしている。
「私、まだやりたいことがあるの。だから、今すぐ成仏しろって言われても無理だよ」
昔から不可解なことを言う奴ではあったが、そんなことを考えているとは思いもしなかった。
やっぱり、重なる。こいつも、穂積も、他の奴等も。
自分だけ蚊帳の外だったのは、薄々感じていた。それもそうかもしれない。だって──。
「ところでその、見つかったって人の話を聞いてもいい?」
咲姫に遮られた。
「ん、いいよ」
南帆は立ち上がって、天井──あるいはもっと上を指差す。
「今ね、この上にいるよ!」
それとほぼ同時に、耳が痛くなるような悲鳴が聞こえてきた。
「うわあああああぁぁ!」
天井から落ちてきたのは、埴輪のような形をしたなにかだった。
金曜日の朝、目覚まし時計がけたたましい音を響かせた。
まだ眠い。もう少し寝かせてほしい。
だけど今日も学校だ。そんなことは言っていられない。再び閉じようとする瞼を必死の思いで開く。
…………なにかいる。
なにかが、そこから熱い? 視線を送ってくる。
「えっと……。どちら様で?」
声をかけたのが運の尽きだった。
「かぁずぅきぃー!」
埴輪のような形状のそれは、人の姿に形を変えて襲ってきた。
「うわあああああ!?」
断末魔にも似た俺の叫びが、朝からこだますることになってしまった。
その表情からは、嬉しさが溢れている。
懐かしい、声──。
「やっと、見つけた!」
* * *
「うへへ。ごめんね~。驚かせちゃって」
「ううん。朝から今枝君が叫んだおかげで、スムーズに起きることができたよ……」
咲姫はまだ眠そうな目を擦っている。本当に起きてるのか?
あの後、俺の叫びで叩き起こされた咲姫が様子を見に来たところで、今に至る。
「えっと、近藤南帆さん、だっけ」
「南帆でいいよー」
相変わらずこいつはコミュニケーション能力が高い。少し分けてほしいくらいだ。
彼女は元水原中の生徒。学年のムードメーカーの一人だった。
「それで、どうして今枝君を襲おうとしてたの?」
「……それストレートに聞くのやめてくれない?」
咲姫の疑問はもっともだけど、見たことをそのまま口に出すのはやめてほしい。
「それはねー。私がずっきーの彼女だからだよ!」
しばし沈黙。
「…………え?」
俺が頭を抱えることになった。
* * *
朝からとんでもない目に遭った……。あいつはなにもかも急すぎるんだよ。
今日は一人で登校している。
咲姫が朝飯を食べながら船を漕ぎ始めてしまったのをいいことに、置いてきてしまった。南帆の爆弾発言のせいで、なんとなく顔を会わせづらくなってしまったのだ。
彼女がいたのが日常だった頃と、それに比べると随分静かになった今と、どちらが「平和」だったのだろう。
「なーんてな……」
疲れてるんだよ、きっと。こんなことを考えるなんて。今と昔を比べる必要はない。色々なことが急にありすぎた。
あの日消えた穂積は今どうなっているのか、俺は知らない。生きて……はないか。本当に成仏してくれたのかな。それならいいんだけど。
どうしてもまだ、「あいつ等が生きていてくれたなら」と願う自分がいる。
現実を受け入れられるようにならないと。そんなことを思った朝だった。
* * *
その日の放課後。家に帰ると、咲姫と南帆が話していた。
「てことは、南帆ちゃんと今枝君はその、いわゆるカップルではないと?」
「んー。まあ、そういうことかなぁ? よくわかんないや。それでも私は一希の彼女って名乗ってるし」
どうして女子二人に、目の前で自分の話をされなきゃならんのだ……。納得いかない。早くここから離れたい。
やめてほしいけど、それを叫ぶ勇気はあいにく持ち合わせていない。もう、どうにでもなってしまえ。
ちなみに、受験前の忙しい時期なのでそういう関係を一時的に解消しているだけです。扱いは今までとほとんど変わらないけれど。
「それにしても、よく見つけたね。今枝君のこと」
確かに、それは不思議だった。俺に恨みがあった穂積はともかく、南帆にはそんな様子もない。隠してる……可能性はないと思う。
「私はあの日から今日まで、皆のこと探してたよ。ずっと、一人だったけど」
声から明るさが消えた。
少し意外だった。水原の中心的人物だった竹田ならともかく、まさか南帆がそんなことをしていたとは。
やはり、死んでなお、忘れられないものなのだろうか。
「私も幽霊になって気付いたんだけど、幽霊ってふわふわしてて、どこへでも行けちゃうんだ。だから一希を探すのが手っ取り早いかなって」
確かに、生身の人間はそう遠くへは行けない。学生なら尚更、好きなところへどこへでもというわけにはいかない。
「見つけられたのは、ずっきーとあと一人。まあ、実際に会話したわけじゃないんだけどね~」
南帆は嬉しそうに語っている。
「……ねえ、それってその後どうするつもりだったの?」
「え?」
「全員見つけて、どうしたかったの?」
南帆は俺の疑問に、真剣にはなってくれなかった。
「さあ? どうしようか?」
「…………」
意外と、なにも考えてなかったりするのかもしれない。
「ごめん。変なこと聞いた」
「別にいいよ。それくらい。聞きたいこと、じゃんじゃん聞いて!」
そう言った彼女は笑顔だった。
「あの、一応聞いておくんだけど、南帆ちゃんは、成仏するつもりは──」
「ないよ」
現実を突きつけるような咲姫の言葉を、南帆はきっぱりと否定した。
「それはどうして?」
南帆はいつになく真面目な顔をしている。
「私、まだやりたいことがあるの。だから、今すぐ成仏しろって言われても無理だよ」
昔から不可解なことを言う奴ではあったが、そんなことを考えているとは思いもしなかった。
やっぱり、重なる。こいつも、穂積も、他の奴等も。
自分だけ蚊帳の外だったのは、薄々感じていた。それもそうかもしれない。だって──。
「ところでその、見つかったって人の話を聞いてもいい?」
咲姫に遮られた。
「ん、いいよ」
南帆は立ち上がって、天井──あるいはもっと上を指差す。
「今ね、この上にいるよ!」
それとほぼ同時に、耳が痛くなるような悲鳴が聞こえてきた。
「うわあああああぁぁ!」
天井から落ちてきたのは、埴輪のような形をしたなにかだった。
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