魂の封術士

悠奈

文字の大きさ
13 / 63
第三章

第十二話

しおりを挟む
  リリリリリ……。
  金曜日の朝、目覚まし時計がけたたましい音を響かせた。
  まだ眠い。もう少し寝かせてほしい。
  だけど今日も学校だ。そんなことは言っていられない。再び閉じようとする瞼を必死の思いで開く。

  …………なにかいる。

  なにかが、そこから熱い?  視線を送ってくる。
「えっと……。どちら様で?」
  声をかけたのが運の尽きだった。
「かぁずぅきぃー!」
  埴輪のような形状のそれは、人の姿に形を変えて襲ってきた。
「うわあああああ!?」
  断末魔にも似た俺の叫びが、朝からこだますることになってしまった。
  その表情からは、嬉しさが溢れている。
  懐かしい、声──。

「やっと、見つけた!」

 * * *

「うへへ。ごめんね~。驚かせちゃって」
「ううん。朝から今枝君が叫んだおかげで、スムーズに起きることができたよ……」
  咲姫はまだ眠そうな目を擦っている。本当に起きてるのか?
  あの後、俺の叫びで叩き起こされた咲姫が様子を見に来たところで、今に至る。
「えっと、近藤南帆さん、だっけ」
「南帆でいいよー」
  相変わらずこいつはコミュニケーション能力が高い。少し分けてほしいくらいだ。
  彼女は元水原中の生徒。学年のムードメーカーの一人だった。
「それで、どうして今枝君を襲おうとしてたの?」
「……それストレートに聞くのやめてくれない?」
  咲姫の疑問はもっともだけど、見たことをそのまま口に出すのはやめてほしい。
「それはねー。私がずっきーの彼女だからだよ!」
  しばし沈黙。

「…………え?」

  俺が頭を抱えることになった。

 * * *

  朝からとんでもない目に遭った……。あいつはなにもかも急すぎるんだよ。

  今日は一人で登校している。
  咲姫が朝飯を食べながら船を漕ぎ始めてしまったのをいいことに、置いてきてしまった。南帆の爆弾発言のせいで、なんとなく顔を会わせづらくなってしまったのだ。
  彼女がいたのが日常だった頃と、それに比べると随分静かになった今と、どちらが「平和」だったのだろう。
「なーんてな……」
  疲れてるんだよ、きっと。こんなことを考えるなんて。今と昔を比べる必要はない。色々なことが急にありすぎた。
  あの日消えた穂積は今どうなっているのか、俺は知らない。生きて……はないか。本当に成仏してくれたのかな。それならいいんだけど。
  どうしてもまだ、「あいつ等が生きていてくれたなら」と願う自分がいる。
  現実を受け入れられるようにならないと。そんなことを思った朝だった。

 * * *

  その日の放課後。家に帰ると、咲姫と南帆が話していた。
「てことは、南帆ちゃんと今枝君はその、いわゆるカップルではないと?」
「んー。まあ、そういうことかなぁ?  よくわかんないや。それでも私は一希の彼女って名乗ってるし」
  どうして女子二人に、目の前で自分の話をされなきゃならんのだ……。納得いかない。早くここから離れたい。
  やめてほしいけど、それを叫ぶ勇気はあいにく持ち合わせていない。もう、どうにでもなってしまえ。
  ちなみに、受験前の忙しい時期なのでそういう関係を一時的に解消しているだけです。扱いは今までとほとんど変わらないけれど。
「それにしても、よく見つけたね。今枝君のこと」
  確かに、それは不思議だった。俺に恨みがあった穂積はともかく、南帆にはそんな様子もない。隠してる……可能性はないと思う。
「私はあの日から今日まで、皆のこと探してたよ。ずっと、一人だったけど」
  声から明るさが消えた。
  少し意外だった。水原の中心的人物だった竹田ならともかく、まさか南帆がそんなことをしていたとは。
  やはり、死んでなお、忘れられないものなのだろうか。
「私も幽霊になって気付いたんだけど、幽霊ってふわふわしてて、どこへでも行けちゃうんだ。だから一希を探すのが手っ取り早いかなって」
  確かに、生身の人間はそう遠くへは行けない。学生なら尚更、好きなところへどこへでもというわけにはいかない。
「見つけられたのは、ずっきーとあと一人。まあ、実際に会話したわけじゃないんだけどね~」
  南帆は嬉しそうに語っている。

「……ねえ、それってその後どうするつもりだったの?」

「え?」
「全員見つけて、どうしたかったの?」
  南帆は俺の疑問に、真剣にはなってくれなかった。
「さあ?  どうしようか?」
「…………」
  意外と、なにも考えてなかったりするのかもしれない。
「ごめん。変なこと聞いた」
「別にいいよ。それくらい。聞きたいこと、じゃんじゃん聞いて!」
  そう言った彼女は笑顔だった。
「あの、一応聞いておくんだけど、南帆ちゃんは、成仏するつもりは──」
「ないよ」
  現実を突きつけるような咲姫の言葉を、南帆はきっぱりと否定した。
「それはどうして?」
  南帆はいつになく真面目な顔をしている。
「私、まだやりたいことがあるの。だから、今すぐ成仏しろって言われても無理だよ」
  昔から不可解なことを言う奴ではあったが、そんなことを考えているとは思いもしなかった。
  やっぱり、重なる。こいつも、穂積も、他の奴等も。
  自分だけ蚊帳の外だったのは、薄々感じていた。それもそうかもしれない。だって──。
「ところでその、見つかったって人の話を聞いてもいい?」
  咲姫に遮られた。
「ん、いいよ」
  南帆は立ち上がって、天井──あるいはもっと上を指差す。
「今ね、この上にいるよ!」
  それとほぼ同時に、耳が痛くなるような悲鳴が聞こえてきた。

「うわあああああぁぁ!」

  天井から落ちてきたのは、埴輪のような形をしたなにかだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

Emerald

藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。 叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。 自分にとっては完全に新しい場所。 しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。 仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。 〜main cast〜 結城美咲(Yuki Misaki) 黒瀬 悠(Kurose Haruka) ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。 ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

処理中です...