魂の封術士

悠奈

文字の大きさ
15 / 63
第三章

第十四話

しおりを挟む
「咲姫ちゃんてさー、ずっきーのこと好きなの?」

  その言葉からたっぷり十秒。

「え、えぇ……?」

  それだけあっても、情報処理ができませんでした。
「ま、待って待って。何でそんなこと急に聞くの?  南帆ちゃん?」
「えー?  だって気になるし」
「突然とんでもないこと聞くね……」
  これは中間テストの勉強中。ひょんなことから私──小和田咲姫は、南帆ちゃんから勉強を教わることになった。人に教わらなきゃいけないほど頭は悪くないはずだけど、南帆ちゃんとは苦手科目と得意科目が反対だから、いい感じに教えてもらってる。今は数学だ。
「水原中ってさ、幼稚園とかそれ以前から面子が変わらないのよ。あんな辺鄙なところに好んで住む人なんて、ほとんどいないからさ。でも、誰か引っ越してきたりすると、すーぐに追い出そうとするんだよね。集落のジジババはなに考えてるんだか」
  南帆ちゃんは「雲谷はいいなー。普通にコンビニとかあるし」と笑っている。
  水原中は限界集落の中にある、唯一の中学校だと、前に今枝君から聞いた。引っ越してくる人がほとんどいなければ、時間が経つにつれてどんどん人が出ていってしまうらしい。
「だから恋バナとかないんだよね。ほんっとつまんない」
  南帆ちゃんは机の上に突っ伏して口を尖らせている。
「南帆ちゃんは……恋愛したい人?」
「え?  そうだけど」
  さも当然のように返された。
「だって、『普通』だとつまんないじゃん。私達は特にこういうことに縁がないし。ずっきーが告白してきたときは本当にびっくりした」
「今枝君が告白したんだ……。意外……」
  私がそう呟くと、南帆ちゃんは「でしょー」と笑っている。
「ほんっと、ずっきーって読めないんだよね~。あ、そこの式間違ってるよ」
「さらっとそういうの混ぜてこないで……」
  私はノートに書いた式を消して、計算し直した。
「ほぼ皆幼馴染だから、私達にはそういう気持ちとかよくわかんなくて……。和姫ちゃんは?」
「私は……」
  一瞬、返答に困った。
「私は、興味ないかな」
「ふーん……?」

 * * *

「はぁ……。一生に一瞬でいいから、彼女欲しかったなぁ……」
  すぐ側で、樹がため息をついた。この埴輪みたいな──いや埴輪なんだけど──フォルムじゃ、なんの説得力もない。
  勉強中なので眼鏡はかけているけど、最近、霊がどこにいるのかさえ把握できていたら、その存在が見えるようになった。喜んでいいのか悲しんでいいのかは今のところわからないが、埴輪がチラつく度に変な感じがする。本人もどうにかする気はないらしい。
「なんだよ急に。そういうの興味なかったんじゃないの?」
  そこでうじうじしている樹に言ってやった。こっちは曲りなりにも勉強してるのだから、そこでそうしているくらいなら追い出してもいいかな。
「ふーんだ。可愛い彼女持ちの一希君には、僕等の気持ちはわかんないよーだ!  ばーかばーか!」
  小学生並みの反応だ。水原中三年の精神年齢が低めだったのは、こいつと南帆と竹田のせいだと思う。
「だってしょうがないじゃないか!  南帆は一希にとられるし、綾なんてそんなの『無理』って言って、ばっさり切り捨てるでしょ!?」
「それはそうだろうな」
  あの人の性格からして、興味うんぬんの前に嫌いな部類だろう。
「高校は集落の外に出て、彼女いっぱい作る予定だったのになぁ」
  それはそれで爆弾発言。お前、何股する気なんだよ?
「黒髪ロングで優しくて、あ、でもやっぱり金髪でも……。あ、それは駄目だ……」
  なにをとち狂ったのか、独りで妄想タイムに突入している。普段なら放っておくところだが、今はそういうわけにもいかない。
「あのさ、気が散るからどっか行ってくれない?」
「うわー。ずっきー辛辣ぅー」
「これでテスト悪かったらどうしてくれるんだよ」
「別にいいじゃん。どうせいっつも穂積と底辺争いしてたのに」
「……そういう問題じゃない」
  こいつはこここら離れる気がないようで、机の上に寝転がっている。人の魂はどれもそのくらいの大きさのようで、それは恐らく、その人自身が持つエネルギーをなるべく消費しないようにしているからだ。
  それは知ってるけど……。知っている上ではっきり言わせてもらいたい。
「なあ、やっぱりそのフォルム、どうにかならない?」
  咲也は、目にあたるであろう穴で、こちらを見た。
「やだ」
  え……。やだってどういうこと?
「僕はこのままがいい。色々楽だし」
「一体なに考えてるんだお前……」
  呆れて、それ以上の言葉が出てこなかった。

 * * *

「あははっ!  それはやっぱりいっくんらしいや!」
  さっきの話を南帆にしたとろこ、彼女は独りで笑い始めた。
「そうか?  前から変な奴ではあったけど……」
「めっちゃ失礼じゃん」
  笑いながら会話を続けている。むしろ器用だ。
「でもな~。確かにいっくん、恋だの愛だのってあまり興味なかったよね?  少なくとも私は聞いたことないけど」
  そこでやっと、南帆は笑うのをやめた。
「二人共聞いたことなかったら、そうなんじゃない?  まあ、あいつが今まで隠してたって線もあるけど……」
「だいじょーぶだいじょーぶ。それはないから」
「なんでだよ?」
「いっくん、嘘つけないし」
  この場面で、なぜかこの人は満面の笑みを浮かべている。なにを考えているのかわからない。
「いっくんが彼女ほしいって言うんだからさ、他の人もそういうこと考えてたりしたのかな?」
  不意に南帆が、そんなことを言い出した。
「あー……。そんな話は何回かした記憶あるけど、皆がなんて言ってたかまでは覚えてないや」
  南帆はまた、「そんなものだよね~」と笑っている。
「ねぇ、一個だけ聞いていい?」
「別にいいけど」
  なんだか改まった言い方だった。

「一希ってさ、私のこと、どう思ってるの?」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

Emerald

藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。 叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。 自分にとっては完全に新しい場所。 しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。 仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。 〜main cast〜 結城美咲(Yuki Misaki) 黒瀬 悠(Kurose Haruka) ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。 ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

処理中です...