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第三章
第十四話
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「咲姫ちゃんてさー、ずっきーのこと好きなの?」
その言葉からたっぷり十秒。
「え、えぇ……?」
それだけあっても、情報処理ができませんでした。
「ま、待って待って。何でそんなこと急に聞くの? 南帆ちゃん?」
「えー? だって気になるし」
「突然とんでもないこと聞くね……」
これは中間テストの勉強中。ひょんなことから私──小和田咲姫は、南帆ちゃんから勉強を教わることになった。人に教わらなきゃいけないほど頭は悪くないはずだけど、南帆ちゃんとは苦手科目と得意科目が反対だから、いい感じに教えてもらってる。今は数学だ。
「水原中ってさ、幼稚園とかそれ以前から面子が変わらないのよ。あんな辺鄙なところに好んで住む人なんて、ほとんどいないからさ。でも、誰か引っ越してきたりすると、すーぐに追い出そうとするんだよね。集落のジジババはなに考えてるんだか」
南帆ちゃんは「雲谷はいいなー。普通にコンビニとかあるし」と笑っている。
水原中は限界集落の中にある、唯一の中学校だと、前に今枝君から聞いた。引っ越してくる人がほとんどいなければ、時間が経つにつれてどんどん人が出ていってしまうらしい。
「だから恋バナとかないんだよね。ほんっとつまんない」
南帆ちゃんは机の上に突っ伏して口を尖らせている。
「南帆ちゃんは……恋愛したい人?」
「え? そうだけど」
さも当然のように返された。
「だって、『普通』だとつまんないじゃん。私達は特にこういうことに縁がないし。ずっきーが告白してきたときは本当にびっくりした」
「今枝君が告白したんだ……。意外……」
私がそう呟くと、南帆ちゃんは「でしょー」と笑っている。
「ほんっと、ずっきーって読めないんだよね~。あ、そこの式間違ってるよ」
「さらっとそういうの混ぜてこないで……」
私はノートに書いた式を消して、計算し直した。
「ほぼ皆幼馴染だから、私達にはそういう気持ちとかよくわかんなくて……。和姫ちゃんは?」
「私は……」
一瞬、返答に困った。
「私は、興味ないかな」
「ふーん……?」
* * *
「はぁ……。一生に一瞬でいいから、彼女欲しかったなぁ……」
すぐ側で、樹がため息をついた。この埴輪みたいな──いや埴輪なんだけど──フォルムじゃ、なんの説得力もない。
勉強中なので眼鏡はかけているけど、最近、霊がどこにいるのかさえ把握できていたら、その存在が見えるようになった。喜んでいいのか悲しんでいいのかは今のところわからないが、埴輪がチラつく度に変な感じがする。本人もどうにかする気はないらしい。
「なんだよ急に。そういうの興味なかったんじゃないの?」
そこでうじうじしている樹に言ってやった。こっちは曲りなりにも勉強してるのだから、そこでそうしているくらいなら追い出してもいいかな。
「ふーんだ。可愛い彼女持ちの一希君には、僕等の気持ちはわかんないよーだ! ばーかばーか!」
小学生並みの反応だ。水原中三年の精神年齢が低めだったのは、こいつと南帆と竹田のせいだと思う。
「だってしょうがないじゃないか! 南帆は一希にとられるし、綾なんてそんなの『無理』って言って、ばっさり切り捨てるでしょ!?」
「それはそうだろうな」
あの人の性格からして、興味うんぬんの前に嫌いな部類だろう。
「高校は集落の外に出て、彼女いっぱい作る予定だったのになぁ」
それはそれで爆弾発言。お前、何股する気なんだよ?
「黒髪ロングで優しくて、あ、でもやっぱり金髪でも……。あ、それは駄目だ……」
なにをとち狂ったのか、独りで妄想タイムに突入している。普段なら放っておくところだが、今はそういうわけにもいかない。
「あのさ、気が散るからどっか行ってくれない?」
「うわー。ずっきー辛辣ぅー」
「これでテスト悪かったらどうしてくれるんだよ」
「別にいいじゃん。どうせいっつも穂積と底辺争いしてたのに」
「……そういう問題じゃない」
こいつはこここら離れる気がないようで、机の上に寝転がっている。人の魂はどれもそのくらいの大きさのようで、それは恐らく、その人自身が持つエネルギーをなるべく消費しないようにしているからだ。
それは知ってるけど……。知っている上ではっきり言わせてもらいたい。
「なあ、やっぱりそのフォルム、どうにかならない?」
咲也は、目にあたるであろう穴で、こちらを見た。
「やだ」
え……。やだってどういうこと?
「僕はこのままがいい。色々楽だし」
「一体なに考えてるんだお前……」
呆れて、それ以上の言葉が出てこなかった。
* * *
「あははっ! それはやっぱりいっくんらしいや!」
さっきの話を南帆にしたとろこ、彼女は独りで笑い始めた。
「そうか? 前から変な奴ではあったけど……」
「めっちゃ失礼じゃん」
笑いながら会話を続けている。むしろ器用だ。
「でもな~。確かにいっくん、恋だの愛だのってあまり興味なかったよね? 少なくとも私は聞いたことないけど」
そこでやっと、南帆は笑うのをやめた。
「二人共聞いたことなかったら、そうなんじゃない? まあ、あいつが今まで隠してたって線もあるけど……」
「だいじょーぶだいじょーぶ。それはないから」
「なんでだよ?」
「いっくん、嘘つけないし」
この場面で、なぜかこの人は満面の笑みを浮かべている。なにを考えているのかわからない。
「いっくんが彼女ほしいって言うんだからさ、他の人もそういうこと考えてたりしたのかな?」
不意に南帆が、そんなことを言い出した。
「あー……。そんな話は何回かした記憶あるけど、皆がなんて言ってたかまでは覚えてないや」
南帆はまた、「そんなものだよね~」と笑っている。
「ねぇ、一個だけ聞いていい?」
「別にいいけど」
なんだか改まった言い方だった。
「一希ってさ、私のこと、どう思ってるの?」
その言葉からたっぷり十秒。
「え、えぇ……?」
それだけあっても、情報処理ができませんでした。
「ま、待って待って。何でそんなこと急に聞くの? 南帆ちゃん?」
「えー? だって気になるし」
「突然とんでもないこと聞くね……」
これは中間テストの勉強中。ひょんなことから私──小和田咲姫は、南帆ちゃんから勉強を教わることになった。人に教わらなきゃいけないほど頭は悪くないはずだけど、南帆ちゃんとは苦手科目と得意科目が反対だから、いい感じに教えてもらってる。今は数学だ。
「水原中ってさ、幼稚園とかそれ以前から面子が変わらないのよ。あんな辺鄙なところに好んで住む人なんて、ほとんどいないからさ。でも、誰か引っ越してきたりすると、すーぐに追い出そうとするんだよね。集落のジジババはなに考えてるんだか」
南帆ちゃんは「雲谷はいいなー。普通にコンビニとかあるし」と笑っている。
水原中は限界集落の中にある、唯一の中学校だと、前に今枝君から聞いた。引っ越してくる人がほとんどいなければ、時間が経つにつれてどんどん人が出ていってしまうらしい。
「だから恋バナとかないんだよね。ほんっとつまんない」
南帆ちゃんは机の上に突っ伏して口を尖らせている。
「南帆ちゃんは……恋愛したい人?」
「え? そうだけど」
さも当然のように返された。
「だって、『普通』だとつまんないじゃん。私達は特にこういうことに縁がないし。ずっきーが告白してきたときは本当にびっくりした」
「今枝君が告白したんだ……。意外……」
私がそう呟くと、南帆ちゃんは「でしょー」と笑っている。
「ほんっと、ずっきーって読めないんだよね~。あ、そこの式間違ってるよ」
「さらっとそういうの混ぜてこないで……」
私はノートに書いた式を消して、計算し直した。
「ほぼ皆幼馴染だから、私達にはそういう気持ちとかよくわかんなくて……。和姫ちゃんは?」
「私は……」
一瞬、返答に困った。
「私は、興味ないかな」
「ふーん……?」
* * *
「はぁ……。一生に一瞬でいいから、彼女欲しかったなぁ……」
すぐ側で、樹がため息をついた。この埴輪みたいな──いや埴輪なんだけど──フォルムじゃ、なんの説得力もない。
勉強中なので眼鏡はかけているけど、最近、霊がどこにいるのかさえ把握できていたら、その存在が見えるようになった。喜んでいいのか悲しんでいいのかは今のところわからないが、埴輪がチラつく度に変な感じがする。本人もどうにかする気はないらしい。
「なんだよ急に。そういうの興味なかったんじゃないの?」
そこでうじうじしている樹に言ってやった。こっちは曲りなりにも勉強してるのだから、そこでそうしているくらいなら追い出してもいいかな。
「ふーんだ。可愛い彼女持ちの一希君には、僕等の気持ちはわかんないよーだ! ばーかばーか!」
小学生並みの反応だ。水原中三年の精神年齢が低めだったのは、こいつと南帆と竹田のせいだと思う。
「だってしょうがないじゃないか! 南帆は一希にとられるし、綾なんてそんなの『無理』って言って、ばっさり切り捨てるでしょ!?」
「それはそうだろうな」
あの人の性格からして、興味うんぬんの前に嫌いな部類だろう。
「高校は集落の外に出て、彼女いっぱい作る予定だったのになぁ」
それはそれで爆弾発言。お前、何股する気なんだよ?
「黒髪ロングで優しくて、あ、でもやっぱり金髪でも……。あ、それは駄目だ……」
なにをとち狂ったのか、独りで妄想タイムに突入している。普段なら放っておくところだが、今はそういうわけにもいかない。
「あのさ、気が散るからどっか行ってくれない?」
「うわー。ずっきー辛辣ぅー」
「これでテスト悪かったらどうしてくれるんだよ」
「別にいいじゃん。どうせいっつも穂積と底辺争いしてたのに」
「……そういう問題じゃない」
こいつはこここら離れる気がないようで、机の上に寝転がっている。人の魂はどれもそのくらいの大きさのようで、それは恐らく、その人自身が持つエネルギーをなるべく消費しないようにしているからだ。
それは知ってるけど……。知っている上ではっきり言わせてもらいたい。
「なあ、やっぱりそのフォルム、どうにかならない?」
咲也は、目にあたるであろう穴で、こちらを見た。
「やだ」
え……。やだってどういうこと?
「僕はこのままがいい。色々楽だし」
「一体なに考えてるんだお前……」
呆れて、それ以上の言葉が出てこなかった。
* * *
「あははっ! それはやっぱりいっくんらしいや!」
さっきの話を南帆にしたとろこ、彼女は独りで笑い始めた。
「そうか? 前から変な奴ではあったけど……」
「めっちゃ失礼じゃん」
笑いながら会話を続けている。むしろ器用だ。
「でもな~。確かにいっくん、恋だの愛だのってあまり興味なかったよね? 少なくとも私は聞いたことないけど」
そこでやっと、南帆は笑うのをやめた。
「二人共聞いたことなかったら、そうなんじゃない? まあ、あいつが今まで隠してたって線もあるけど……」
「だいじょーぶだいじょーぶ。それはないから」
「なんでだよ?」
「いっくん、嘘つけないし」
この場面で、なぜかこの人は満面の笑みを浮かべている。なにを考えているのかわからない。
「いっくんが彼女ほしいって言うんだからさ、他の人もそういうこと考えてたりしたのかな?」
不意に南帆が、そんなことを言い出した。
「あー……。そんな話は何回かした記憶あるけど、皆がなんて言ってたかまでは覚えてないや」
南帆はまた、「そんなものだよね~」と笑っている。
「ねぇ、一個だけ聞いていい?」
「別にいいけど」
なんだか改まった言い方だった。
「一希ってさ、私のこと、どう思ってるの?」
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