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第三章
第十五話
しおりを挟む「一希ってさ、私のこと、どう思ってる?」
「え……」
唐突すぎるそんな質問に、すぐ答えることはできなかった。
「急になに言って……──」
「も~! なに本気にしちゃってんの? 冗談だよ冗談!」
おどけてそう言う彼女からは、そんな感じは微塵もしない。だって、本当にそうなら、そんな顔はしないじゃないか。
聞かれたことをすぐに答えられない自分の不器用さが嫌いだった。
「ずっきーは明日も学校でしょ? 早く寝なよ」
「でも……」
「『私達』は寝なくても平気だもん」
睡眠は、脳の疲労を回復させるためにとるものだと言う。身体がない魂には、不要な時間なのだ。
「それじゃ、おやすみ」
「……うん」
無邪気に笑う彼女に、そんな返事しかできなかった。
* * *
「いやあ~。賑やかになったものだなあ~。フォーエバーは嬉しいぞ~」
朝食の席で、十羽さんはにこにこしていた。
増えたのは魂ですと言ってしまえば聞こえはいいが、要するに幽霊が住み着いてるだけなのに、どうしてこの人はこんなににこにこしてるんだろ……。ずっとフィルターをかけて生活していたから、俺はいまだに慣れていない。
それにもう、二ヶ月近く経って、十羽さんのフォーエバーにも突っ込まなくなってしまった。なんだろう、日常化したみたいな。あまり嬉しくはない。
「兄ちゃんなんでそんなに嬉しいの? 家に他人が増えるだけじゃん。オレは嫌なんだけど」
相変わらず桐は言いにくそうなことをずけずけと言う。冷静というか、冷たいというか。
「お前、そんなんだから友達ができないんだゾ!」
「別にいいけど」
ふざけた十羽さんの態度は、呆気なく回避された。
小学三年生ってこんななの? 冷たすぎない?
桐は朝食を急いで食べ終えた。宿題をやり忘れたのだろうか、さっさと自分の部屋へ消えてしまった。
「それはそうと一希君」
わいわいしている兄弟を無言で見ていた俺に、話が振られた。
「僕ね、ちょっとおかしいと思ってて」
いつになく真面目だ。さっきと同じ人とは思えないくらいには。
「水原で亡くなった子は、六人だったんだろ?」
「そうですけど……」
どうして今更そんなことを確認するんだろう。事情聴取でもそう言ったし、たまたま持っていたクラスの名簿にも書いてある。
「君も知っているとは思うけど、人間って必ずしも幽霊になるわけじゃないんだ。幽霊になるのは、強すぎる未練を持っていた場合が多いね。例外もあるけど」
だからなんだと言うのだ。話の先が見えない。
「もう既に、そのうちの三人が幽霊となって僕等の前に現れている。あり得ないんだよ、こんなこと。多すぎる」
なるほど。おかしいとはそういうことか。
勿論、全員に未練がなかったとは思えない。現に、穂積もそう言っていたのだし。
だけど──。
「現世に残るだけの理由にはならないってことですか……?」
「……そうだね」
十羽さんは言葉を探しているようだった。
「俺のことは気にしないでください。大丈夫ですから」
「だけど……」
「大丈夫です」
言葉を遮ってまでそう言ったのは、彼の頭の中を知りたかったからだ。多分だけど、「おかしい」の先に、まだなにかある。
十羽さんは少し躊躇ったけど、話してくれた。
「……君と咲姫が見たもの、異常なほどに残っている魂。それらを総合すると、見えてくるんだよ」
──君達を襲ったのが、誰なのか。
* * *
「おーい、かずきー。次移動だぞー」
神木の声で我に返った。
「ご、ごめん……」
あの言葉を聞いてから動揺しまくっている。なんとかしないと……。焦るばかりで、どうしたらいいのかまで考えられない。
やっぱりあんなこと、今聞くんじゃなかった。あの直後に咲姫が来たから、そこで話は終わりになったけど、もうあの情報だけで頭がパンクしそうだった。
自業自得だ。自分が聞きたいと言ったのだから。
「一希、顔色悪いけど大丈夫?」
「ああ、うん。体調は問題ない」
神木に心配されるまでなのか。情けない。
頭を振って、雑念を追い払った。
話の続きは、テストが終わってから聞いてみよう。テストを口実にしているみたいだけれど、そちらの方が優先度は高い。
* * *
「彼女欲しい」
埴輪……じゃなかった、樹が突然そんなことを口走った。
「それはもうわかったから、ちょっと静かにしてもらえると有難いんだけど……」
「彼女欲しい」
うん。それはもういいから。
樹が来てから早四日が経った。その間にこいつは、こればかり言うようになってしまったのだ。
「お前、最近おかしくない?」
……って、俺が言えたことじゃないか。
話しかけたら答えてくれることもあるから、それだけは救いだった。
他の人達が樹の異変に気付くのには、さほど時間はかからなかった。
テスト前日、それはもう、隠しきれないところまできていた。
「怨霊とは違うと思う」
そう言ったのは咲姫だった。ただの勘だけどねと笑ってみせる。
「あんなことばかり言うわけじゃないんだよ。わからない問題聞いたら教えてくれるしさ」
「……そうなんだ」
咲姫は笑顔とも泣き顔ともとれる表情をする。
気を使わせてしまっただろうか。それなら申し訳ない。
「幽霊にも、寿命みたいなのあるのかな」
頭で考えるより先にそう言っていた。
「どうなんだろ。私はただ見えるってだけで、そんなに詳しくはないから、わかんないや」
「…………」
音がしない時間が流れる。自分がなにを言いたいのかわからなくなったのだ。
「樹君、テストが終わるまでもたないかもしれないね」
「どういうこと?」
「あのまま消えちゃうかもしれないってこと」
そうだろうね。なんていわれるか、わかってたよ。愚問だった。
「怨霊でもそうじゃなくても、魂は消えたらどうにもならない」
咲姫はそう言った。
「そうなる前に、成仏させてあげないと」
それもわかってる。だけど、理解しているのとできるのとでは、話は別だった。
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