魂の封術士

悠奈

文字の大きさ
17 / 63
第三章

第十六話

しおりを挟む

「「行ってらっしゃーい!」」

  テスト当日になった。俺と咲姫は、南帆と樹に見送られた。こっちは結構重要なテストだっていうのに、呑気なものだ。
  あれから樹は持ち直した。会話ができるようなレベルには。完全に正常とは言えないが、マシになったのは確かだ。

「生前の思いに比例して、魂が現世に残ることができる期間が決まるんだよ」
  咲姫がそんなことを言った。
「長い人は百年とか現世に留まってるらしいよ」
  どこで得たのかわからないような知識を披露している。
「十羽さんがさ、おかしいって言ってたんだよ。樹達のこと」
「お兄ちゃんが?」
  凄く不思議そうな顔をされた。十羽さんは咲姫に信頼されてないのかな……。
「結構、調べてくれてるみたいだよ。事件のこと」
「へー……」
「意外?」
「うん」
  やっぱり信頼してないな、これ。
「それで、なんて言ってたの?」
「あいつ等に、現世に残るだけの理由はないかもしれないってさ」
「うわっ。冷た」
  そう結論を下したのは自分だけど……。まあいいか。
  そう言ったあとで、咲姫にも思い当たる節があるらしかった。腕を組んで唸っている。
「う~ん……。確かにそうかもしれない。南帆ちゃんはともかく、樹君がな……」
「…………」
  なんとなく、そう言われるような気がしてた。
「あれ……。でも、説明できなくないか?」
「なにが?」
「それでもあいつ等が現世にいる理由だよ。本人じゃなければ、なにがあるんだ?」
  穂積は生前も魂だけになっても、自分の将来についてはほとんど語らなかったからわからない。本当になにかしらの理由があったかもしれない。

  だけど、樹は──。

  生きてたときにほとんど言わなかった愛だの恋だのって、そればっかりで。なんで、そんなことに……。
「でも今枝君」
  咲姫が改まって言った。
「今はそれどころじゃないんじゃない?」
「……そっすね」
  幽霊が見えることを除けば、俺も咲姫も普通の中学生で受験生だ。そっちを疎かにするわけにもいかない。
  勉強は好きでも嫌いでもないけれど、気を抜いていたらおいていかれる。さすがにそれは避けたかった。

 * * *

「しゅーりょー!  終わった!  終わったよ今枝君!」
  突然のハイテンション。
「あ……いや、それは……。そうですね……」
  こんなハイになってる咲姫は初めて見た。
  気持ちはわかるけど、こんなになる必要あるのか?
  二日間の中間テストが終わった。一年で一番最初のテストだから、一部は二年生の内容もあって多少不利かと思ったけど、特別難しいとは感じなかった。
「今回結構難しかったね~……。うう……。受験生は辛いよ……」
  嘘泣きをしているみたいだ。
「そ、そうだね」
  あまり同意できないのは黙っておこう。
  水原のテストの方が難しかった気がするけどな……。違ったら恥ずかしいだけだから言わないけど。
「さて、問題は一個片付いたし、次のことやろうか」
「…………」
  逃げられない、逃げてはいけない問題が、まだそこにある。
「……わかってる」
  大丈夫、とは言えなかった。

 * * *

「ただいまー。お兄ちゃんいる?」
  咲姫が足音をたてて廊下を走っていった。転ばないといいけど。
  ……子どもじゃあるまいし、さすがに大丈夫か。
「お、ずっきーだ」
  こっちは足音がなかった。
「南帆……」
「ん?  どした?」
  いつか、こいつのことを成仏させなければならない日が来るのだろうか。
  そんなことは、今は考えたくない。浮かびかけたその妄想を打ち消した。
「なんでもないよ。樹は?」
「いっくんならずっきーの部屋にいる」
「そっか。ありがと」
  そのまま自分の部屋に向かった。

  そこで、樹──いや埴輪はくつろいでいた。
  そう思うと、凄い絵面だよな。ていうか、俺の部屋である以前に他人の家なんだけど。なんでそんなにくつろげるんだ。
「やっほーずっきー。おかえり」
「……ただいま」
  呑気すぎるこいつを前に、用意していた言葉が全部消えた。
  お前は、そういう奴だよな。昔から。
「あのさ樹。話があるんだけど」
「なに?」
  よかった。今は普通みたいだ。
  安堵している自分もいれば、落胆している自分もいる。これから話さなきゃいけないことを考えると……。いや。やめておこう。

  通らなきゃいけない道なんだ。
  これからも、何回も。

「咲姫とも話してたことなんだけど、魂にも限界があるって、わかる……よな?」
  嫌だな。なんでこんなこと話してるんだろう。
  目の前の埴輪は頷いている。虚ろに空いた二つの穴は、感情を示してくれない。
「お前も、もうすぐ、そうなるんだって」
  埴輪は再び頷く。
「限界がくると、どうなるの?」
「…………」
  言葉が詰まって、答えることができない。
  言いたくないよ。こんなこと。選択肢は、一つしか残らないじゃないか。
「……消えるんだって。全部。『そこにいた』って事実が残るだけで、あとは、全部」
  滑稽なほどに声が震えていた。
  樹は、どうしたらいいかわかっているらしい。
「一希が、どうにかしてくれるんだよね?」
「……うん」
  できないとは言えなかった。
「……ごめん。ちょっと待ってて」
  どうしてもその場にいられなくなって、そこを離れた。

  やらないと。自分が。
  そう思うほどに焦ってしまって、行動に移せなくなっていく。
「ねえ、一希」
  南帆だった。
「いっくんに話したの?」
「え……」
  南帆にそんな反応をされるとは思っていなかった。一体、なにを考えて──。

「そんなことしないで。まだ、大丈夫でしょ?」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

Emerald

藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。 叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。 自分にとっては完全に新しい場所。 しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。 仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。 〜main cast〜 結城美咲(Yuki Misaki) 黒瀬 悠(Kurose Haruka) ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。 ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

処理中です...