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第三章
第十六話
しおりを挟む「「行ってらっしゃーい!」」
テスト当日になった。俺と咲姫は、南帆と樹に見送られた。こっちは結構重要なテストだっていうのに、呑気なものだ。
あれから樹は持ち直した。会話ができるようなレベルには。完全に正常とは言えないが、マシになったのは確かだ。
「生前の思いに比例して、魂が現世に残ることができる期間が決まるんだよ」
咲姫がそんなことを言った。
「長い人は百年とか現世に留まってるらしいよ」
どこで得たのかわからないような知識を披露している。
「十羽さんがさ、おかしいって言ってたんだよ。樹達のこと」
「お兄ちゃんが?」
凄く不思議そうな顔をされた。十羽さんは咲姫に信頼されてないのかな……。
「結構、調べてくれてるみたいだよ。事件のこと」
「へー……」
「意外?」
「うん」
やっぱり信頼してないな、これ。
「それで、なんて言ってたの?」
「あいつ等に、現世に残るだけの理由はないかもしれないってさ」
「うわっ。冷た」
そう結論を下したのは自分だけど……。まあいいか。
そう言ったあとで、咲姫にも思い当たる節があるらしかった。腕を組んで唸っている。
「う~ん……。確かにそうかもしれない。南帆ちゃんはともかく、樹君がな……」
「…………」
なんとなく、そう言われるような気がしてた。
「あれ……。でも、説明できなくないか?」
「なにが?」
「それでもあいつ等が現世にいる理由だよ。本人じゃなければ、なにがあるんだ?」
穂積は生前も魂だけになっても、自分の将来についてはほとんど語らなかったからわからない。本当になにかしらの理由があったかもしれない。
だけど、樹は──。
生きてたときにほとんど言わなかった愛だの恋だのって、そればっかりで。なんで、そんなことに……。
「でも今枝君」
咲姫が改まって言った。
「今はそれどころじゃないんじゃない?」
「……そっすね」
幽霊が見えることを除けば、俺も咲姫も普通の中学生で受験生だ。そっちを疎かにするわけにもいかない。
勉強は好きでも嫌いでもないけれど、気を抜いていたらおいていかれる。さすがにそれは避けたかった。
* * *
「しゅーりょー! 終わった! 終わったよ今枝君!」
突然のハイテンション。
「あ……いや、それは……。そうですね……」
こんなハイになってる咲姫は初めて見た。
気持ちはわかるけど、こんなになる必要あるのか?
二日間の中間テストが終わった。一年で一番最初のテストだから、一部は二年生の内容もあって多少不利かと思ったけど、特別難しいとは感じなかった。
「今回結構難しかったね~……。うう……。受験生は辛いよ……」
嘘泣きをしているみたいだ。
「そ、そうだね」
あまり同意できないのは黙っておこう。
水原のテストの方が難しかった気がするけどな……。違ったら恥ずかしいだけだから言わないけど。
「さて、問題は一個片付いたし、次のことやろうか」
「…………」
逃げられない、逃げてはいけない問題が、まだそこにある。
「……わかってる」
大丈夫、とは言えなかった。
* * *
「ただいまー。お兄ちゃんいる?」
咲姫が足音をたてて廊下を走っていった。転ばないといいけど。
……子どもじゃあるまいし、さすがに大丈夫か。
「お、ずっきーだ」
こっちは足音がなかった。
「南帆……」
「ん? どした?」
いつか、こいつのことを成仏させなければならない日が来るのだろうか。
そんなことは、今は考えたくない。浮かびかけたその妄想を打ち消した。
「なんでもないよ。樹は?」
「いっくんならずっきーの部屋にいる」
「そっか。ありがと」
そのまま自分の部屋に向かった。
そこで、樹──いや埴輪はくつろいでいた。
そう思うと、凄い絵面だよな。ていうか、俺の部屋である以前に他人の家なんだけど。なんでそんなにくつろげるんだ。
「やっほーずっきー。おかえり」
「……ただいま」
呑気すぎるこいつを前に、用意していた言葉が全部消えた。
お前は、そういう奴だよな。昔から。
「あのさ樹。話があるんだけど」
「なに?」
よかった。今は普通みたいだ。
安堵している自分もいれば、落胆している自分もいる。これから話さなきゃいけないことを考えると……。いや。やめておこう。
通らなきゃいけない道なんだ。
これからも、何回も。
「咲姫とも話してたことなんだけど、魂にも限界があるって、わかる……よな?」
嫌だな。なんでこんなこと話してるんだろう。
目の前の埴輪は頷いている。虚ろに空いた二つの穴は、感情を示してくれない。
「お前も、もうすぐ、そうなるんだって」
埴輪は再び頷く。
「限界がくると、どうなるの?」
「…………」
言葉が詰まって、答えることができない。
言いたくないよ。こんなこと。選択肢は、一つしか残らないじゃないか。
「……消えるんだって。全部。『そこにいた』って事実が残るだけで、あとは、全部」
滑稽なほどに声が震えていた。
樹は、どうしたらいいかわかっているらしい。
「一希が、どうにかしてくれるんだよね?」
「……うん」
できないとは言えなかった。
「……ごめん。ちょっと待ってて」
どうしてもその場にいられなくなって、そこを離れた。
やらないと。自分が。
そう思うほどに焦ってしまって、行動に移せなくなっていく。
「ねえ、一希」
南帆だった。
「いっくんに話したの?」
「え……」
南帆にそんな反応をされるとは思っていなかった。一体、なにを考えて──。
「そんなことしないで。まだ、大丈夫でしょ?」
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