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第四章
第十九話
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今日の教室はいつもより騒がしく、浮き足立っている気がしていた。
「あれ……。今日ってなにかあったっけ……?」
その独り言は神木に拾われた。
「今日、保護者会だよ。だから授業が早く終わるの。覚えてない?」
「保護者会……」
そんなのあったようななかったような……。
机の中にあったファイルを見てみる。
「…………」
ちゃんとお知らせのプリントが入っていた。
「おっ。一希が珍しくやらかしたな?」
神木が俺の様子を見てにやにやしていた。
忘れていた俺が全面的に悪いんだけど、どっちみち「保護者」と呼べる人はいない。どうせいつものことだと思って、父親と連絡をとる努力すらしていなかった。
そういえば自分は受験生なんだよな、と再度思う。忘れていたわけではないんだけど……。
このご時世、ほぼ全ての子どもが高校や専門学校へ進学する。けど、それにも金がかかる。
早くあの人を見つけないと、進路が選べなくなるかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えていた。
だからと言って──
「やっぱり親御さんは来ないか」
──ことが上手く運ぶはずはないんだけど。
「すみません。俺のミスです」
担任にはあらかじめ言っておいたけど苦笑いされた。
自分の努力不足なのはわかっているけど、あの集落にはなるべく近付きたくないし、あの人の連絡先も知らない。あそこでは、携帯なんてものは役に立たないから、聞いたこともなかった。
学校でも「外」から来た先生が困ってたっけ。この集落は携帯も繋がらなければインターネットもない。おまけにご老人達にはのけ者にされるって。
「それで、志望校の話なんだけど」
ぼーっとしていてよく話を聞いていなかったけど、それは担任にはバレていないらしい。気付いたら個人面談になっていた。少しだけ良心が痛む。
「君は進路調査も白紙で出していたよね? その後はどう? なにか考えてきた?」
「…………」
全く考えていないと言えば嘘になる。けど、希望がないというのが現状だ。
「進学はしたいけど、どこに行きたいとかまでは……」
進学したいというのも嘘かもしれない。なんとなく周りに合わせているだけだ。
これじゃあ、穂積に顔向けできないな。自分で言ったくせに。
「じゃあ、夏休みに高校見学とか行ってみるといいよ」
「……わかりました」
多分その台詞は、俺みたいな奴に何度も言ったのだろうな。別に特別な対応を求めているわけじゃないけど、あまり面白くない。
「じゃあ、他に学校生活で困っていることはない?」
「特にないです」
「そっか」
転校した直後以外は大して目立ったこともしてないし、人間関係が拗れているわけでもない。神木と咲姫以外にまともに話せる人がいないのも事実だけど……。
それに関して困ることはなかった。
「それじゃあ面談は終わりです」
担任は笑顔で言う。
「ありがとうございました」
それだけ言って、教室をあとにした。
* * *
学費で思い出したけど、咲姫の家はどうやって生活費を稼いでいるんだろう?
神社はちゃんと経営しているし、十羽さんもアルバイトはしているらしい。だけど、大学生一人と中学生二人、あと小学生一人の生活費及び学費はどこから出ているんだろうと、今更ながら不思議に思った。
一度、居候の身だから俺もアルバイトとかしようかなと思って十羽さんに相談したけど、「そんな心配をする必要はない」と笑われた。そりゃあ、たかが中学生にできることはほとんどないだろうけど、そんなに笑わなくたってよかったんじゃない? と多少不満に思う。
本人がいないところで文句を言っても仕方がない。ぼんやりと神社への道を辿った。
どことなく、懐かしい感じがした。
振り返ってみる。けど、なにもいない。
勘違いかな。そう思って、足を踏み出した。
「一希」
名前を呼ばれる。あの声が、呼んでいる。
「……竹田?」
一番苦手で、一番仲がよかった奴の名前だった。
「うわー! やっぱり一希じゃん!」
うるさい。わかってたけどうるさい。
「お前さ、なんで俺に気付かなかったわけ? 大丈夫? 目、大丈夫?」
うるさいし腹が立つ。よかったここに神木がいなくて。二人合わさったら、俺がおもちゃになるのは目に見えている。
こいつのことが見えなかったのは、俺がこいつの存在を認識していなかっただけ。魂の存在を認識してしまえば、見えるようになる。
幽霊はそんなにたくさんいるものではないし、あまり出会いたいものでもない。フィルターなしじゃ目が機能しないこともあって、眼鏡は寝るとき以外ほとんど外さない。
こいつに気付かなかったのは、それだけの理由だ。
「別に目は狂ってないよ。でも、どうしてこんなとろこに……」
十羽さんの話によると、こんなにも魂が幽霊になって現れているのは異常なことだ。なにか情報を得られたらいいけど。
「それがさあ、さっぱり思い出せなくて」
「は?」
竹田の笑顔に寒気がした。
「どのあたりから?」
心臓が鳴っていた。
「あー……。お前と南帆が教室を出たときくらいから?」
俺はこの先の対応を、後で後悔することになる。
「あれ……。今日ってなにかあったっけ……?」
その独り言は神木に拾われた。
「今日、保護者会だよ。だから授業が早く終わるの。覚えてない?」
「保護者会……」
そんなのあったようななかったような……。
机の中にあったファイルを見てみる。
「…………」
ちゃんとお知らせのプリントが入っていた。
「おっ。一希が珍しくやらかしたな?」
神木が俺の様子を見てにやにやしていた。
忘れていた俺が全面的に悪いんだけど、どっちみち「保護者」と呼べる人はいない。どうせいつものことだと思って、父親と連絡をとる努力すらしていなかった。
そういえば自分は受験生なんだよな、と再度思う。忘れていたわけではないんだけど……。
このご時世、ほぼ全ての子どもが高校や専門学校へ進学する。けど、それにも金がかかる。
早くあの人を見つけないと、進路が選べなくなるかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えていた。
だからと言って──
「やっぱり親御さんは来ないか」
──ことが上手く運ぶはずはないんだけど。
「すみません。俺のミスです」
担任にはあらかじめ言っておいたけど苦笑いされた。
自分の努力不足なのはわかっているけど、あの集落にはなるべく近付きたくないし、あの人の連絡先も知らない。あそこでは、携帯なんてものは役に立たないから、聞いたこともなかった。
学校でも「外」から来た先生が困ってたっけ。この集落は携帯も繋がらなければインターネットもない。おまけにご老人達にはのけ者にされるって。
「それで、志望校の話なんだけど」
ぼーっとしていてよく話を聞いていなかったけど、それは担任にはバレていないらしい。気付いたら個人面談になっていた。少しだけ良心が痛む。
「君は進路調査も白紙で出していたよね? その後はどう? なにか考えてきた?」
「…………」
全く考えていないと言えば嘘になる。けど、希望がないというのが現状だ。
「進学はしたいけど、どこに行きたいとかまでは……」
進学したいというのも嘘かもしれない。なんとなく周りに合わせているだけだ。
これじゃあ、穂積に顔向けできないな。自分で言ったくせに。
「じゃあ、夏休みに高校見学とか行ってみるといいよ」
「……わかりました」
多分その台詞は、俺みたいな奴に何度も言ったのだろうな。別に特別な対応を求めているわけじゃないけど、あまり面白くない。
「じゃあ、他に学校生活で困っていることはない?」
「特にないです」
「そっか」
転校した直後以外は大して目立ったこともしてないし、人間関係が拗れているわけでもない。神木と咲姫以外にまともに話せる人がいないのも事実だけど……。
それに関して困ることはなかった。
「それじゃあ面談は終わりです」
担任は笑顔で言う。
「ありがとうございました」
それだけ言って、教室をあとにした。
* * *
学費で思い出したけど、咲姫の家はどうやって生活費を稼いでいるんだろう?
神社はちゃんと経営しているし、十羽さんもアルバイトはしているらしい。だけど、大学生一人と中学生二人、あと小学生一人の生活費及び学費はどこから出ているんだろうと、今更ながら不思議に思った。
一度、居候の身だから俺もアルバイトとかしようかなと思って十羽さんに相談したけど、「そんな心配をする必要はない」と笑われた。そりゃあ、たかが中学生にできることはほとんどないだろうけど、そんなに笑わなくたってよかったんじゃない? と多少不満に思う。
本人がいないところで文句を言っても仕方がない。ぼんやりと神社への道を辿った。
どことなく、懐かしい感じがした。
振り返ってみる。けど、なにもいない。
勘違いかな。そう思って、足を踏み出した。
「一希」
名前を呼ばれる。あの声が、呼んでいる。
「……竹田?」
一番苦手で、一番仲がよかった奴の名前だった。
「うわー! やっぱり一希じゃん!」
うるさい。わかってたけどうるさい。
「お前さ、なんで俺に気付かなかったわけ? 大丈夫? 目、大丈夫?」
うるさいし腹が立つ。よかったここに神木がいなくて。二人合わさったら、俺がおもちゃになるのは目に見えている。
こいつのことが見えなかったのは、俺がこいつの存在を認識していなかっただけ。魂の存在を認識してしまえば、見えるようになる。
幽霊はそんなにたくさんいるものではないし、あまり出会いたいものでもない。フィルターなしじゃ目が機能しないこともあって、眼鏡は寝るとき以外ほとんど外さない。
こいつに気付かなかったのは、それだけの理由だ。
「別に目は狂ってないよ。でも、どうしてこんなとろこに……」
十羽さんの話によると、こんなにも魂が幽霊になって現れているのは異常なことだ。なにか情報を得られたらいいけど。
「それがさあ、さっぱり思い出せなくて」
「は?」
竹田の笑顔に寒気がした。
「どのあたりから?」
心臓が鳴っていた。
「あー……。お前と南帆が教室を出たときくらいから?」
俺はこの先の対応を、後で後悔することになる。
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