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第四章
第二十話
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「あー……。お前と南帆が教室を出たときくらいから?」
なんと言えばいいのかわからなかった。
「なに……? 冗談?」
ひきつった笑顔を浮かべてみせる。信じられなかった。
竹田は笑っていた。違和感を覚えているのは俺だけか。
「そんなわけねえよ。そう見える?」
嘘を言っているようには見えない。
見えない。けど、どうしてあんなことを忘れられるだろうか。
俺はあのとき、それぞれがどうなったかまでは見ていない。だから確かめようのない話だけど、こんなことって……。
本当は死んでいない? いや、そんなことはない。だって、今さっきまでこいつに気付かなかったじゃないか。それが現実だ。
「なあ一希。水原までどうやって帰ればいいか知ってる?」
竹田に話しかけられて我に返った。
「知ってる、けど……」
言葉が詰まって出てこない。言いたいことはたくさんあるのに言えない。なにを言えばいいのかわからない。
「お、まじで!?」
嬉しそうな竹田の顔に、心底驚いた。
やっぱりこいつはそういう奴だよな。羨ましいよ。素直に帰りたいって言えるから。
「よっしゃ! やっと帰れる! なあ、早く教えてよ」
「ああ、うん……」
口頭で伝えた。彼はここがどこなのかも知らないようだったから、それも含めて全部。
それでも彼は、事件について思い出すことはなかった。
「そっか。ありがとな。お前も早く帰れよ!」
その顔が、あまりにもいい表情だったから、言えなかった。事件のこと、水原中のこと、彼のこと。
あいつは自覚していない。
自分がもう、この世のものではなくなっていることを。
* * *
なんとなく気が引けてしまって、誰にも相談できなかった。あいつがどうなってもいいとか、そういうことじゃないけど。あいつの話はしたくなかった。
周りからは、俺とあいつが一番仲がいいように見えてたんだろうな。間違ってはないんだけど、認めたくないのも事実だ。
「今枝君、ちょっとこれ見てくれる?」
学校に出された面倒な課題を消化しているとき、突然咲姫に呼ばれた。
その手の中には本があった。この間整理していた書庫から持ってきたものだろう。
「これ、怨霊について結構詳しく書いてあるの。私も知らなかったこと色々あるから、一緒に見ておこうと思って」
「……わかった」
幸い課題はあと五分もあれば終わる。咲姫が持ってきた本を優先した。
その本は落ちてきたものの一つで、写本だった。現代語訳がしてあったので中身を見てみたのだそうだ。
咲姫や俺が知っているのは、怨霊になった魂は人には有害で、魂を消すしかない、ということだけだった。
『幽霊──人の魂というものは、未練が強くある場合に、現世に残る場合がある。』
この本は、そんな文章で始まっていた。
『そんな魂は聖職者等がしかるべき場所に導いている。』
こんな感じの魂にまつわる考察を斜め読みしながら、必要な情報を拾っていった。
「あ、このあたりそうじゃない?」
咲姫が指差していたのは、この文章だった。
『現世に長く留まる魂の一部は、怨霊となる。もし怨霊になってしまえば、どんな術を用いても元に戻すのは不可能。』
『怨霊になりかけた魂は、「封術」と呼ばれるものでのみ対処が可能。』
穂積のときはかなりギリギリだったのか。もし俺がいなかったら、あいつは助からなかったのかもしれない。今更ながらそう思った。
……よかった。間に合って。
『怨霊になる前兆は多岐にわたるため、どの魂がいつ怨霊となるか予測をたてるのは不可能』
「その前兆の内容を知りたかったんだけどな……」
俺が文句を言っていると咲姫は苦笑いした。
「そんな簡単にはいかないってことだね」
そんなほのぼのと会話をする雰囲気は次の文で消えた。
『魂を封じる術と対極にある「呪術」によって抜きとられた魂は必ず現世に残る。その魂は怨霊になる可能性が高い』
「…………」
元々「封術」と「呪術」というものは対極にある。俺が魂を導く役をしているのなら、逆に魂を惑わす役があったっておかしくない。
どうして今まで気が付かなかったんだ……。
「これ、十羽さんが前に言ってたことに繋がらないか?」
「……と言うと?」
咲姫は片眉をあげた。
「水原の連中だよ。今のところ、六人中四人が幽霊になってる。それは異常なんだって。だけど……」
あの記述を指でたどった。もう、そうとしか考えられない。
「あの事件の犯人は、『魂の呪術士』かもしれない」
咲姫はなにも言わなかった。肯定ととっていいだろう。
「ちょっと十羽さん探してくる」
「……うん。行ってらっしゃい」
本を見つけてくれた咲姫にお礼を言う余裕すらなかった。
十羽さんなら、なにか知っているかもしれない。あのとき言おうとしていたのは、多分このことだ。
知っていてほしい。復讐とか、そういう大層なことはできないけど、このままじゃあいつ等は浮かばれない──。
* * *
最初に選択を間違えたのは、ここだったのかもしれない。
決して選択してはいけない曲がり角を、曲がってしまったんだ──。
なんと言えばいいのかわからなかった。
「なに……? 冗談?」
ひきつった笑顔を浮かべてみせる。信じられなかった。
竹田は笑っていた。違和感を覚えているのは俺だけか。
「そんなわけねえよ。そう見える?」
嘘を言っているようには見えない。
見えない。けど、どうしてあんなことを忘れられるだろうか。
俺はあのとき、それぞれがどうなったかまでは見ていない。だから確かめようのない話だけど、こんなことって……。
本当は死んでいない? いや、そんなことはない。だって、今さっきまでこいつに気付かなかったじゃないか。それが現実だ。
「なあ一希。水原までどうやって帰ればいいか知ってる?」
竹田に話しかけられて我に返った。
「知ってる、けど……」
言葉が詰まって出てこない。言いたいことはたくさんあるのに言えない。なにを言えばいいのかわからない。
「お、まじで!?」
嬉しそうな竹田の顔に、心底驚いた。
やっぱりこいつはそういう奴だよな。羨ましいよ。素直に帰りたいって言えるから。
「よっしゃ! やっと帰れる! なあ、早く教えてよ」
「ああ、うん……」
口頭で伝えた。彼はここがどこなのかも知らないようだったから、それも含めて全部。
それでも彼は、事件について思い出すことはなかった。
「そっか。ありがとな。お前も早く帰れよ!」
その顔が、あまりにもいい表情だったから、言えなかった。事件のこと、水原中のこと、彼のこと。
あいつは自覚していない。
自分がもう、この世のものではなくなっていることを。
* * *
なんとなく気が引けてしまって、誰にも相談できなかった。あいつがどうなってもいいとか、そういうことじゃないけど。あいつの話はしたくなかった。
周りからは、俺とあいつが一番仲がいいように見えてたんだろうな。間違ってはないんだけど、認めたくないのも事実だ。
「今枝君、ちょっとこれ見てくれる?」
学校に出された面倒な課題を消化しているとき、突然咲姫に呼ばれた。
その手の中には本があった。この間整理していた書庫から持ってきたものだろう。
「これ、怨霊について結構詳しく書いてあるの。私も知らなかったこと色々あるから、一緒に見ておこうと思って」
「……わかった」
幸い課題はあと五分もあれば終わる。咲姫が持ってきた本を優先した。
その本は落ちてきたものの一つで、写本だった。現代語訳がしてあったので中身を見てみたのだそうだ。
咲姫や俺が知っているのは、怨霊になった魂は人には有害で、魂を消すしかない、ということだけだった。
『幽霊──人の魂というものは、未練が強くある場合に、現世に残る場合がある。』
この本は、そんな文章で始まっていた。
『そんな魂は聖職者等がしかるべき場所に導いている。』
こんな感じの魂にまつわる考察を斜め読みしながら、必要な情報を拾っていった。
「あ、このあたりそうじゃない?」
咲姫が指差していたのは、この文章だった。
『現世に長く留まる魂の一部は、怨霊となる。もし怨霊になってしまえば、どんな術を用いても元に戻すのは不可能。』
『怨霊になりかけた魂は、「封術」と呼ばれるものでのみ対処が可能。』
穂積のときはかなりギリギリだったのか。もし俺がいなかったら、あいつは助からなかったのかもしれない。今更ながらそう思った。
……よかった。間に合って。
『怨霊になる前兆は多岐にわたるため、どの魂がいつ怨霊となるか予測をたてるのは不可能』
「その前兆の内容を知りたかったんだけどな……」
俺が文句を言っていると咲姫は苦笑いした。
「そんな簡単にはいかないってことだね」
そんなほのぼのと会話をする雰囲気は次の文で消えた。
『魂を封じる術と対極にある「呪術」によって抜きとられた魂は必ず現世に残る。その魂は怨霊になる可能性が高い』
「…………」
元々「封術」と「呪術」というものは対極にある。俺が魂を導く役をしているのなら、逆に魂を惑わす役があったっておかしくない。
どうして今まで気が付かなかったんだ……。
「これ、十羽さんが前に言ってたことに繋がらないか?」
「……と言うと?」
咲姫は片眉をあげた。
「水原の連中だよ。今のところ、六人中四人が幽霊になってる。それは異常なんだって。だけど……」
あの記述を指でたどった。もう、そうとしか考えられない。
「あの事件の犯人は、『魂の呪術士』かもしれない」
咲姫はなにも言わなかった。肯定ととっていいだろう。
「ちょっと十羽さん探してくる」
「……うん。行ってらっしゃい」
本を見つけてくれた咲姫にお礼を言う余裕すらなかった。
十羽さんなら、なにか知っているかもしれない。あのとき言おうとしていたのは、多分このことだ。
知っていてほしい。復讐とか、そういう大層なことはできないけど、このままじゃあいつ等は浮かばれない──。
* * *
最初に選択を間違えたのは、ここだったのかもしれない。
決して選択してはいけない曲がり角を、曲がってしまったんだ──。
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