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第四章
第二十一話
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「あの、十羽さん。少しいいですか?」
目当ての人物は案外早く見つかった。
詰め寄ってしまいそうになるのをなんとかこらえる。
「お、一希君じゃないか。どうしたんだい?」
十羽さんはパソコンに向かったまま言った。
「……水原の事件について聞きたいことがあります。あと、『魂の呪術士』についても」
キーボードを叩いていた十羽さんの手が止まった。真剣な表情でこちらを振り返る。
「そうか。わかったよ」
十羽さんは部屋の本棚から一冊の大学ノートを取ってきた。
「これは僕と高木君が独自に行った捜査の記録だ」
「わざわざそんなことを……」
嬉しいとは、なにか違う。本来なら自分がやるべきことなのに。
十羽さんは苦笑いしている。
「重大事件とはいえ、山奥の誰も知らないような場所で起こった事件だ。都会での大事件に人員をさくために、こちらの人数が減らされてしまってね。僕等が勝手にやってしまったんだ」
それは仕方のないことだ。そこでなにがあったのかということは、自分の曖昧すぎる証言しかない。他に状況を示すものはなにも見つからなかったんだ。後回しにされるに決まっている。
「君が知らなさそうな情報はこの辺りかな」
十羽さんはノートに書いてあることを読みあげた。
「『当時学校にいたのは、犠牲となった生徒六人と生き残った一人のみ。他の教職員や生徒は校舎の中に入れなかった』」
あの日感じていた静寂さには、そんな裏があったのか。静かすぎる場所、始まらない授業。誰もいなければ、そうなるよな。
「……最初の生徒が襲われたのは、周りの様子を見に行こうとしたときでした」
そうポツリと呟いた。その話は前に高木さんにしたから、十羽さんも知っているのだろう。ノートに付け加えることはしなかった。
「それがトリガーだったのかもね。あの術が発動したのは」
そう言う彼の目に、感情は浮かんでいなかったと思う。
「やっぱり、術士が関わってる事件だったんですか?」
「……そうだ」
はっきりと肯定された。
十羽さんはそのまま続ける。
「校内に勝手に入ったんだけどね、なにかしらの術が使われた痕跡があったんだよ」
ノートには術士にしかわからない跡が残されていた場所が記してあった。
あの建物は差し押さえられている。この人は平気で不法侵入したのか。それはとりあえず後回しにしよう。
「だけどそこには、学校の関係者以外の指紋は検出されなかったんだ」
「つまり、あれは内部の人間の犯行ってことですか……?」
十羽さんは首を振った。
「それはない。内部に術士はいなかった」
「そうですか……」
八方塞がりだ。
「その、術が使われた痕跡って役に立つんですか?」
駄目元で聞いてみた。
「どうだろうな~……。普通の人にはただの傷に見えるんだよ。僕も気を付けてないと見つけられないし。こればっかりは高木君の腕次第だね」
「高木さん?」
さっきも彼の名前が出てきたけど、大して気にとめていなかった。どうしてここで彼の名前が出てくるのだろう。十羽さんが調べていることは、術士に関することだ。
「あいつは昔、術士なんじゃないかって言われていてね~。一時期僕と一緒に修行してたんだ。後でただの一般人ってのがわかったけど」
そういえば前に咲姫が、高木さんは一時期家にいたみたいな話をしていたな。なるほど。そこで繋がるのか。
「それで、肝心の犯人なんだけど──」
十羽さんは話題を転換した。
「君の想像通り、僕等は『魂の呪術士』なんじゃないかと思ってる」
この間、彼が言おうとしていたのはそのことだったのか。
「亡くなった子達が何人も幽霊になっていて、尚且つ術士が絡んでいるのであれば、ほぼ確実だよ」
十羽さんは指を一本たてた。
「だけど問題は三つ。一つ目はさっき言った通り、その人がやったという証拠はない」
二本目。
「二つ目は、術士及び呪術士をどう説明するか。警察組織にそういう人はいなさそうなんだよな」
三本目。
「三つ目。そもそも『魂の呪術士』が誰だかわからない」
「…………」
そうだろうな。それがわかっていたら、こんなに苦労はしていないだろう。
「要するに、犯人を見つけるのは不可能ってことですよね?」
十羽さんは躊躇いがちに頷いた。
「……そうだ。今はどうあがいても見つけられない。それに──」
十羽さんは静かな声で言った。
「もし犯人が見つかっても、証拠がないから、法では裁けないんだよ」
それはなんとなく知っていた。
もし犯人を名乗る人物が現れても、その行動を裏付けするものがなければ、人は裁けない。
冤罪を防ぐという意味では当然のことだ。
「僕等の両親が殺された話は咲姫から聞いているよね?」
突然、関係のない話題を出された。
「それも『魂の呪術士』がやったと僕は思ってる。それも証拠不十分で迷宮入りしちゃったんだけどね」
「…………」
咲姫は、自分の両親の魂を自分で消したと言っていた。それが、そのきっかけが、水原の事件と同じ人かもしれないなんて……。
「何度も思ったよ。『魂の呪術士』を探し出せば、事件が進展するかもしれないって。だけどね、術士は証拠を残さないんだよ」
十羽さんはそう言った。悲しんでいるような、諦めているような、そんな声で。
「そのために僕等はなるべく幼少期から、『犯罪を犯せばどうなるか』を学ぶ。そいつは、そんなことを気にしないか、知らないんだろうね」
そして、俺に向き直った。
「もし本当に『魂の呪術士』が犯人だとしても、それを証明できない以上、誰も犯人を裁けない。君は、どうするつもりなんだい──?」
目当ての人物は案外早く見つかった。
詰め寄ってしまいそうになるのをなんとかこらえる。
「お、一希君じゃないか。どうしたんだい?」
十羽さんはパソコンに向かったまま言った。
「……水原の事件について聞きたいことがあります。あと、『魂の呪術士』についても」
キーボードを叩いていた十羽さんの手が止まった。真剣な表情でこちらを振り返る。
「そうか。わかったよ」
十羽さんは部屋の本棚から一冊の大学ノートを取ってきた。
「これは僕と高木君が独自に行った捜査の記録だ」
「わざわざそんなことを……」
嬉しいとは、なにか違う。本来なら自分がやるべきことなのに。
十羽さんは苦笑いしている。
「重大事件とはいえ、山奥の誰も知らないような場所で起こった事件だ。都会での大事件に人員をさくために、こちらの人数が減らされてしまってね。僕等が勝手にやってしまったんだ」
それは仕方のないことだ。そこでなにがあったのかということは、自分の曖昧すぎる証言しかない。他に状況を示すものはなにも見つからなかったんだ。後回しにされるに決まっている。
「君が知らなさそうな情報はこの辺りかな」
十羽さんはノートに書いてあることを読みあげた。
「『当時学校にいたのは、犠牲となった生徒六人と生き残った一人のみ。他の教職員や生徒は校舎の中に入れなかった』」
あの日感じていた静寂さには、そんな裏があったのか。静かすぎる場所、始まらない授業。誰もいなければ、そうなるよな。
「……最初の生徒が襲われたのは、周りの様子を見に行こうとしたときでした」
そうポツリと呟いた。その話は前に高木さんにしたから、十羽さんも知っているのだろう。ノートに付け加えることはしなかった。
「それがトリガーだったのかもね。あの術が発動したのは」
そう言う彼の目に、感情は浮かんでいなかったと思う。
「やっぱり、術士が関わってる事件だったんですか?」
「……そうだ」
はっきりと肯定された。
十羽さんはそのまま続ける。
「校内に勝手に入ったんだけどね、なにかしらの術が使われた痕跡があったんだよ」
ノートには術士にしかわからない跡が残されていた場所が記してあった。
あの建物は差し押さえられている。この人は平気で不法侵入したのか。それはとりあえず後回しにしよう。
「だけどそこには、学校の関係者以外の指紋は検出されなかったんだ」
「つまり、あれは内部の人間の犯行ってことですか……?」
十羽さんは首を振った。
「それはない。内部に術士はいなかった」
「そうですか……」
八方塞がりだ。
「その、術が使われた痕跡って役に立つんですか?」
駄目元で聞いてみた。
「どうだろうな~……。普通の人にはただの傷に見えるんだよ。僕も気を付けてないと見つけられないし。こればっかりは高木君の腕次第だね」
「高木さん?」
さっきも彼の名前が出てきたけど、大して気にとめていなかった。どうしてここで彼の名前が出てくるのだろう。十羽さんが調べていることは、術士に関することだ。
「あいつは昔、術士なんじゃないかって言われていてね~。一時期僕と一緒に修行してたんだ。後でただの一般人ってのがわかったけど」
そういえば前に咲姫が、高木さんは一時期家にいたみたいな話をしていたな。なるほど。そこで繋がるのか。
「それで、肝心の犯人なんだけど──」
十羽さんは話題を転換した。
「君の想像通り、僕等は『魂の呪術士』なんじゃないかと思ってる」
この間、彼が言おうとしていたのはそのことだったのか。
「亡くなった子達が何人も幽霊になっていて、尚且つ術士が絡んでいるのであれば、ほぼ確実だよ」
十羽さんは指を一本たてた。
「だけど問題は三つ。一つ目はさっき言った通り、その人がやったという証拠はない」
二本目。
「二つ目は、術士及び呪術士をどう説明するか。警察組織にそういう人はいなさそうなんだよな」
三本目。
「三つ目。そもそも『魂の呪術士』が誰だかわからない」
「…………」
そうだろうな。それがわかっていたら、こんなに苦労はしていないだろう。
「要するに、犯人を見つけるのは不可能ってことですよね?」
十羽さんは躊躇いがちに頷いた。
「……そうだ。今はどうあがいても見つけられない。それに──」
十羽さんは静かな声で言った。
「もし犯人が見つかっても、証拠がないから、法では裁けないんだよ」
それはなんとなく知っていた。
もし犯人を名乗る人物が現れても、その行動を裏付けするものがなければ、人は裁けない。
冤罪を防ぐという意味では当然のことだ。
「僕等の両親が殺された話は咲姫から聞いているよね?」
突然、関係のない話題を出された。
「それも『魂の呪術士』がやったと僕は思ってる。それも証拠不十分で迷宮入りしちゃったんだけどね」
「…………」
咲姫は、自分の両親の魂を自分で消したと言っていた。それが、そのきっかけが、水原の事件と同じ人かもしれないなんて……。
「何度も思ったよ。『魂の呪術士』を探し出せば、事件が進展するかもしれないって。だけどね、術士は証拠を残さないんだよ」
十羽さんはそう言った。悲しんでいるような、諦めているような、そんな声で。
「そのために僕等はなるべく幼少期から、『犯罪を犯せばどうなるか』を学ぶ。そいつは、そんなことを気にしないか、知らないんだろうね」
そして、俺に向き直った。
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