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第五章
第三十話
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あいつ等のものにも似た、あの粒子が一直線に向かってきた。
「──……っ」
目で追えない速さじゃない。なんとかかわしたが、巻き込まれた髪の毛がチリッと音をたてて焦げた。
そこに浮いているのは三つの魂。誰のものかまではわからないが、恐らく咲姫の友達だろう。
「おー! 一希君かっこいー!」
十羽さんが囃し立てる。この人本当にやる気あるのだろうか?
声のトーンが変わった。
「さてどうします? 『魂の封術士』さん」
そう言う彼の目には奇妙な光が浮かんでいた。突然そんな態度を取られ、一瞬呆気にとられてしまった。
「…………」
いつもみたいに成仏ってわけにはいかない。この魂が誰のものか、どんな状況なのかわからない以上、迂闊なことはできない。
「少しだけ時間を稼いでくれますか? この人達が誰なのか知りたいので」
十羽さんは頷いた。
「よーし! やるぞー!」
そのかけ声と同時に十枚近い札を取り出す。
どこから出したんだ、それ。
……と少し検討違いなことを考えた次の瞬間、轟音。
威嚇攻撃だ。魂は戸惑う様子を見せている。
「…………」
態度に行動が伴ってないんだよな……。
けど、この上なく頼りになるのは間違いない。十羽さんがあの魂を煽りまくっている間に、突破口を見つけださないと。
三つの魂は全く連携ができていない。協力すれば、十羽さんの威嚇も掻い潜れるはずなのに、それもできないでいる。
この人に頼るだけじゃ、だめだ。
飛び出した魂の一つに仕掛けてみた。札をちらつかせ誘き寄せる。面白いように一つ釣れた。
なにか、音がする。
「……ケテ……」
「え?」
なにか、言ってる。
「助……ケテ、咲……姫……」
その魂は、たしかにそう言った。
誰だ。この声を知ってる。知ってるうちの、誰か。
「──……倉橋さん?」
魂が震えた。自分の名前に呼応したのだろうか。
そう見えたのも一瞬で、それは再び攻撃に転じる。
「な……」
だめだ、避けきれない。札を使えば自分は守れるけど、それじゃなにが起きるかわからない。
最悪の場合──。
「めぐみ! 待って!」
鋭い怒声が飛び込んできた。
「ほら、こっち見て! 私はここにいるよ!」
そう叫んでいるのは咲姫だった。
倉橋さんの魂は今度こそ完全に動きを止めた。
「今枝君。この子達の身体はまだ生きてる。魂を抜かれただけだから」
咲姫は早口でまくしたてた。
「けどそんなに長くはもたない。早く身体に戻してあげなきゃ!」
「戻すって言ったって、どうしたら……」
言い終わらないうちに、別の方向から魂が襲ってきた。さすがに連携というものを学んだのだろう。十羽さんの威嚇をすり抜けてきた。
「…………」
正面から迫るそれに、札をかざした。
同時に静電気に似た衝撃と白い光が生まれる。あまりの眩しさに目をつむった。
次に目を覚ましたとき、目の前にあったのは鬼火に似た薄紅のなにかがあった。
それはどこかへ一直線に向かう。その先にあったのは誰かの身体だった。
──戻ったのか?
確認しに行くわけにもいかない。まだ二人残っている。無事であることを祈る。
目を離したのが悪かった。
「うわっ」
目の前を別の魂が通過した。かすっただけなのに、その部分が火傷になる。
「一希君! その子ちょっとやばめだから先にやっちゃって!」
十羽さんが叫んだ。彼はもう一つの魂と対峙している。
目の前を泳ぐ魂の色はくすんだ赤。さっきよりも段々色が濃くなってきている。
さっきの魂より動きが俊敏だ。だけど、行動パターンはさほど変わらない。
何度目かの直線的な攻撃に入る。その勢いを利用して、もう一度魂を元に戻す。
二枚目の札を取り出す。
そう何度も通用する手じゃないし、そもそもこの札は何枚も使えるものじゃない。あの人みたいにできたらいいけど、そんな夢、すぐには叶わない。
タイミングを測る。相手の進行方向真っ直ぐに自分がいる。
手の届く範囲にまできた。
「え……」
そこに、魂はなかった。札がジュッと音をたてて溶けた。
消えたのかと思ってパニックになりかけるがなんとか持ち直す。札の能力は発動したけど、手応えはなかった。
まだ、生きてる。
「一希君、後ろだ!」
再び怒号。
ほぼ同時に火に焼かれたような痛み。
あのときと同じ、右肩。
「い……」
視界がホワイトアウトしかける。あの日の記憶が頭をかすめる。
──違う。竹田じゃない。
再び攻撃に転じた魂の動きを捉え、そのまま札をかざした。
魂は淡い赤の鬼火へと変わり、持ち主の身体へ戻る。
あと、一つ。
歯を食いしばって右肩の痛みに耐えながら振り返った。
そと魂は、赤銅色をしていた。どす黒い、赤。
十羽さんの服が血に濡れていた。それでも彼は、魂を止めようとする。
自分の口から漏れた言葉に気が付かなかった。
「嘘、だ……。なんで……」
怨霊。その二文字が過る。
それは俺だけじゃなかった。
「のぞみ……? 待って。嫌だ……いや……」
赤黒い光の粒子は、彼女へと向かっていった。
「──……っ」
目で追えない速さじゃない。なんとかかわしたが、巻き込まれた髪の毛がチリッと音をたてて焦げた。
そこに浮いているのは三つの魂。誰のものかまではわからないが、恐らく咲姫の友達だろう。
「おー! 一希君かっこいー!」
十羽さんが囃し立てる。この人本当にやる気あるのだろうか?
声のトーンが変わった。
「さてどうします? 『魂の封術士』さん」
そう言う彼の目には奇妙な光が浮かんでいた。突然そんな態度を取られ、一瞬呆気にとられてしまった。
「…………」
いつもみたいに成仏ってわけにはいかない。この魂が誰のものか、どんな状況なのかわからない以上、迂闊なことはできない。
「少しだけ時間を稼いでくれますか? この人達が誰なのか知りたいので」
十羽さんは頷いた。
「よーし! やるぞー!」
そのかけ声と同時に十枚近い札を取り出す。
どこから出したんだ、それ。
……と少し検討違いなことを考えた次の瞬間、轟音。
威嚇攻撃だ。魂は戸惑う様子を見せている。
「…………」
態度に行動が伴ってないんだよな……。
けど、この上なく頼りになるのは間違いない。十羽さんがあの魂を煽りまくっている間に、突破口を見つけださないと。
三つの魂は全く連携ができていない。協力すれば、十羽さんの威嚇も掻い潜れるはずなのに、それもできないでいる。
この人に頼るだけじゃ、だめだ。
飛び出した魂の一つに仕掛けてみた。札をちらつかせ誘き寄せる。面白いように一つ釣れた。
なにか、音がする。
「……ケテ……」
「え?」
なにか、言ってる。
「助……ケテ、咲……姫……」
その魂は、たしかにそう言った。
誰だ。この声を知ってる。知ってるうちの、誰か。
「──……倉橋さん?」
魂が震えた。自分の名前に呼応したのだろうか。
そう見えたのも一瞬で、それは再び攻撃に転じる。
「な……」
だめだ、避けきれない。札を使えば自分は守れるけど、それじゃなにが起きるかわからない。
最悪の場合──。
「めぐみ! 待って!」
鋭い怒声が飛び込んできた。
「ほら、こっち見て! 私はここにいるよ!」
そう叫んでいるのは咲姫だった。
倉橋さんの魂は今度こそ完全に動きを止めた。
「今枝君。この子達の身体はまだ生きてる。魂を抜かれただけだから」
咲姫は早口でまくしたてた。
「けどそんなに長くはもたない。早く身体に戻してあげなきゃ!」
「戻すって言ったって、どうしたら……」
言い終わらないうちに、別の方向から魂が襲ってきた。さすがに連携というものを学んだのだろう。十羽さんの威嚇をすり抜けてきた。
「…………」
正面から迫るそれに、札をかざした。
同時に静電気に似た衝撃と白い光が生まれる。あまりの眩しさに目をつむった。
次に目を覚ましたとき、目の前にあったのは鬼火に似た薄紅のなにかがあった。
それはどこかへ一直線に向かう。その先にあったのは誰かの身体だった。
──戻ったのか?
確認しに行くわけにもいかない。まだ二人残っている。無事であることを祈る。
目を離したのが悪かった。
「うわっ」
目の前を別の魂が通過した。かすっただけなのに、その部分が火傷になる。
「一希君! その子ちょっとやばめだから先にやっちゃって!」
十羽さんが叫んだ。彼はもう一つの魂と対峙している。
目の前を泳ぐ魂の色はくすんだ赤。さっきよりも段々色が濃くなってきている。
さっきの魂より動きが俊敏だ。だけど、行動パターンはさほど変わらない。
何度目かの直線的な攻撃に入る。その勢いを利用して、もう一度魂を元に戻す。
二枚目の札を取り出す。
そう何度も通用する手じゃないし、そもそもこの札は何枚も使えるものじゃない。あの人みたいにできたらいいけど、そんな夢、すぐには叶わない。
タイミングを測る。相手の進行方向真っ直ぐに自分がいる。
手の届く範囲にまできた。
「え……」
そこに、魂はなかった。札がジュッと音をたてて溶けた。
消えたのかと思ってパニックになりかけるがなんとか持ち直す。札の能力は発動したけど、手応えはなかった。
まだ、生きてる。
「一希君、後ろだ!」
再び怒号。
ほぼ同時に火に焼かれたような痛み。
あのときと同じ、右肩。
「い……」
視界がホワイトアウトしかける。あの日の記憶が頭をかすめる。
──違う。竹田じゃない。
再び攻撃に転じた魂の動きを捉え、そのまま札をかざした。
魂は淡い赤の鬼火へと変わり、持ち主の身体へ戻る。
あと、一つ。
歯を食いしばって右肩の痛みに耐えながら振り返った。
そと魂は、赤銅色をしていた。どす黒い、赤。
十羽さんの服が血に濡れていた。それでも彼は、魂を止めようとする。
自分の口から漏れた言葉に気が付かなかった。
「嘘、だ……。なんで……」
怨霊。その二文字が過る。
それは俺だけじゃなかった。
「のぞみ……? 待って。嫌だ……いや……」
赤黒い光の粒子は、彼女へと向かっていった。
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