魂の封術士

悠奈

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第八章

第四十話

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  翌々日。
「ねー!  なんで弘君、手加減してくれないのさー!」
  今日は誰にも邪魔されることなく帰途についた俺達は、またしても南帆と弘音の魂に遭遇することとなった。狙っている……というわけではなさそうだ。
「ねえ、弘君知ってる?  性別ってわかる?」
  と南帆が小学生じみたことをわめいている。ろくでもないことなのは確かだ。弘音もそれをわかって黙っているのだろう。放っておいても問題ない。
「今枝君、あれ止めなくていいの?」
  自分の周りでは唯一魂が見える咲姫に囁かれた。間髪入れずに「問題ない」と言おうとしたのだが、わずかに遅かった。
「あー!  ずっきー!  逃げるな!」
  南帆は意外と周りのことを見ていたようだ。
  な、なぜこんなことに……。

「は?」
「だーかーら!  私と弘君で、走って競争してたの!」
「……それで?」
「…………私が負けたの」
  やってることも、そこに至った経緯も全部小学生みたいだった。弘音はよくこんなのに付き合ってくれたな。
  どうやら時間があまりすぎて暇になった南帆は、弘音に百メートル走の競争を申し込んだらしい。実体のない幽霊には、もちろん肺という臓器も存在しないので、息切れはしない。何十回も走れば一度くらい勝てると踏んだのだが……。勝てなかったので駄々をこねているというわけだ。
  午後四時半。人口の少ない雲谷には人がほとんど通らないスポットがいくつか存在する。その場所を選んでいるので、誰かに見られる心配もない。
「しょうもな」
「う、うるさい……」
  なんで受験前の大切な時間をこんなことに使ってしまったんだ。俺は別に気にしないけど、咲姫に申し訳ない。
  一応謝っておこうと横目で彼女を見たら、至極楽しそうだったのでやめた。もしかしたら、違う理由で楽しいのかもしれないけど。
「南帆ちゃんて結構子どもっぽいとこあるよね~。見てて飽きないからすっごく楽しい」
  貶してるのか誉めてるのか微妙な咲姫の言葉を全肯定するように、弘音は首を振る。
  そこに関しては俺も同意なのだが、なにせ楽しかったよりも迷惑だったという思い出の方が多く、彼のように首は振れない。
「水原の人達が楽しそうなのは、南帆ちゃんのおかげなんだろうなぁ……」
  独り言のつもりだったその言葉は、その場にいる全員に拾われてしまった。
「お、咲姫ちゃん、嬉しいこと言ってくれるぅ」
  煽りとも受け取れる南帆の言葉に、咲姫は赤面する。
「うう……。思ったこと口に出しただけなのに……。なんで言っちゃったんだろ、私……」
  南帆は誉めると逆に攻撃されるから……と教えておこうかと思ったが、それはそれで怒られそうなので口を閉じる。
「んー、でも学校で一番笑ったのは弘君のドジ連発事件だよ」
「それは掘り返さなくていい」
  相づちをとるだけでずっと黙っていた弘音が口を挟む。あれは相当なインパクトのある出来事だったが、本人からしてみればただの黒歴史だ。
「それを言うなら南帆も酷かった」
「え」
  弘音からのカウンターに南帆が表情を固くする。
「え、弘君それは違くない?」
「いいや。それは一希も困ってた」
「えぇ!?  嘘でしょずっきー!」
「お前気付いてなかったの?」
  二人に責められた南帆はさすがに折れたようで、膝を抱えてうずくまった。
「なんでだよー……。ほとんど皆乗り気だったじゃん……」
「乗り気だったのはお前等二人だけだよ」
  止めを刺してしまったようで、南帆は「うう……」と呻いてさらに丸くなった。まるでダンゴムシだ。
「さっきからなんの話?」
  一人水原出身ではない咲姫が目をぱちくりとさせる。
「「部活の話」」
  珍しく弘音と声が重なった。
  それだけではなんの説明にもなっていないので付け加える。
「水原中って、もともと部活らしきものはなかったんだよ」
「ふむふむ」
「で、それをつまらないと思ったこの人──南帆が、自分達で部活作ろうぜって言いやがった。それが創部事件」
  事件……なのかは微妙だが、俺は一人でそう呼んでいる。
「ちなみに何部?」
「演劇部」
「…………」
  しばし沈黙。
「さ、咲姫ちゃんもそんな反応する……?」
  いよいよ南帆の顔が青ざめてきた。いじめすぎたか。
「い、いやいやそういうわけじゃないよ?  南帆ちゃんにはぴったりだなって。それよりその……今枝君と弘音さんがついていったのが意外」
  向こうに攻撃がいくかと思ったら方向転換された。なぜこちらに矛先を向ける。
「二人が、全員分の入部届けを作って出した。俺は説明されるまで知らなかった」
  弘音がぼそっと呟いた。人数の都合上ほぼ全員が舞台へ立たざるをえなかったので、こいつは多分二人を恨んでる。
  もう一人は俺が魂を消したからか、誰もその名を口にすることはない。今はまだ、記憶の隅に存在しているようだが……。それもなくなるのは、時間の問題だ。
「俺達はともかく樹がな、このときばかりは反発して……。まともに部として活動するまでに一ヶ月かかった」
「そうそう。いっくんも酷いんだよ!  『僕は絶対にやらない!』とか言って、私に殴りかかってきたの。弘君が止めてくれたけど」
  それは自業自得なのでは……。みたいな顔を俺と咲姫はしているが、幸い南帆は気付く様子もない。
  そうか、あれは弘音が止めたのか。俺はその場にいなかった。殴り合いになりそうだった、みたいな話は聞いたけど、まさかそんなことになっていたとは。
  その頃から、こいつは南帆のこと……。
  無意識に弘音に視線がいく。
  眼鏡の縁から外れた視界に、赤いものが映る。

「…………弘音?」
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