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第十章
第五十一話
しおりを挟む『えぇ? あいつ、自分から正体明かしたの? 馬鹿じゃね?』
受話器から、おじさんの笑い声が聞こえてきた。おじさんは声が大きいから、すぐ近くにいれば会話が聞こえる。
「そんなに笑うことないだろ。ていうか、なんで言ってくれなかったんだ。久世さんが魂の呪術士だって」
『いやいや、予想できるだろ』
「…………」
そう言われて、記憶を辿ってみる。一希も同じことしてるみたい。
むーん。言われてみればそんな気もするし、しないような気もするし……。駄目だ、全貌をほとんど知らない私には無理がある。
「まあ……確かにそうかもしれないけどさぁ……」
父親に言われたのが悔しいようで食い下がっている。
「諦めなよ。ここは一希の負け」
「南帆まで言うのか……」
げんなりされてしまった。しつこいずっきーが悪い。
『お前等があの本を渡した時点で、あいつなにか言ってなかったのか?』
「言ってないから気付かなかったんだよ」
『ふーん……』
やっぱりおじさん、このことに興味ないな? そんな声してる。
「俺達が持ってた魂の呪術士の情報は、平川にもらった『よく知ってる人』ってだけだったんだよ。仕方ないだろ」
『ミスリードにまんまと引っかかったわけか。最初は俺だと思ってたしな』
あからさまに煽られてる。一希、ここは恥をさらす前にやめた方がいいよ。
そんなことを言う隙もなかった。
『あ、やっべ。もうこんな時間』
おじさんの慌てた声がする。
『じゃあな一希。俺、これから飛行機乗るから。ちょっくらインド行ってくるわ』
「は? ちょっと待──」
プツリ。
無情にも電話は切れてしまった。
「どうりでうまく電話が繋がったわけだ」
一希が呟く。その顔にはでっかく不愉快ですと書いてあった。
もしおじさんが水原にいたなら、こんなにスムーズに繋がらなかっただろうね。あそこ、電波悪いし。てかあそこ、電波とか飛んでんのかな?
「おじさん、旅行好きなの?」
そう聞いても、答えはすぐには返ってこなかった。
「さあ……。しょっちゅういなくなってたけど、どこに行ったって報告は聞いたことなかった」
「もしかして君達、仲悪い?」
「ずけずけくるなぁ……。そういうわけじゃないと思うけど……」
語尾が段々萎れていく。自信がないんだ。
「もしかしたら、最初から魂の呪術士──久世さんに付くつもりでいたのかもな」
「…………」
肯定はできないけど、否定する材料はない。
もどかしくなって、話題を変えた。
「えっと、そういえば怪我、大丈夫?」
なんだかんだで謝れていなかった。あの後、一希は咲姫ちゃんとかとずっと話してたから。私は聞いちゃいけないような気がして、距離を取っていた。
「うん。そんなに大したことじゃないよ。紙がささっただけだし」
それにしては出血量、凄かったけど。
咲姫ちゃんの弟に、怪我とか治せる凄い人がいるらしい。おかげで怪我自体はほとんど治っているそう。
「痛くない?」
「ないない。見た目が派手だっただけだって」
「…………」
強がってないならいいけど、もやもやする。
こういうことをしている以上、怪我はつきものなのかもしれない。でも、私のせいでってなると、やっぱり嫌。
「あ、あのさ一希……」
言わなきゃいけない。一希を傷つけるだけの私なら。このままじゃいけない。
不思議そうな顔をされる。ああ、本当に気にしていないんだ。
「ごめん。なんでもない」
そんな顔をされると、なにも言えなかった。
* * *
その日の夜。私は神殿の上へ上がって星を見ていた。
確かにここで見る星も綺麗なんだけどね。どうしても違うと思ってしまう。
水原には町の光がない。集落にいるのはお年寄りばかりだから、夜九時にもなれば家の明かりはほとんど消える。そのおかげで光が弱い星までくっきり見える。もちろん、家が全くない山奥に比べたら劣るけど。
「随分遠くまで来ちゃったなぁ」
星に手を伸ばして、思わず呟く。星に手が届くわけもないし、答える人もいない。
水原と雲谷は、物理的にはさほど離れていない。なのに水原にいるときは、雲谷の存在なんてほとんど知らなかった。まさか、知らない場所に一年近くもいるとは。
それは一希も一緒か。あいつは「外」から来た人だけど、年齢一桁の頃の話。ほとんど記憶にないだろう。
あいつも私も、他の皆も「水原の人間」。それがなんでこんなことに巻き込まれてるんだか。
おじさんや陵一君に言わせたら逆なのかな。「水原の人間」だからこそ、こんなことをしている。もしかしたら、集落の人達皆も。
「うあー! めんどくさーい!」
星空に向かって叫ぶ。声は暗闇に消えていく。
大丈夫。誰も聞いてない……はず。
「なんでこんなこと考えなきゃいけないのさー!」
カラスの視線が集まる。あ、まさか君達見えてる感じ? ごめんね、睡眠の邪魔して。
「ふぅ……」
叫んだらなんか落ち着いてきた。
こんなこと、もやもや考えたって仕方ない。どうせ私は、なにもできないのだから。
夜はどんどん深くなっていき、ついには明ける。
それは今日も明日も変わらない。
変わらないけど、私は終わらなきゃいけない。
東の空が赤みを帯びてきた。
──最後の夜明けだ。
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