息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

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5・ホストに夢中な女3

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5・ホストに夢中な女3


「うん、今日は友だちと晩ごはんしてカラオケに行ったりするから……あ、カギは持ってるからだいじょうぶ」

 今宵、詩空は〇〇駅の前から自宅へ電話をした。ホストクラブに行ってきます! とは言えないので、友だちと晩ごはんしてカラオケという定番のウソを放ち、電話を切ったら同行者たる友人の到来を待つ。

「詩空、おまたせ」

 約束の午後7時に友人が到来。その友人こそ詩空をホストクラブに誘った者であり、今では月に1、2回共に夜の店へ行くのが共通のたのしみとなっていた。歩き出した2人が向かうは繁華街のきらびやかさの盲点となる一角。夜の華やかさにうまく溶け込むように光っている店は立っている。

「いやぁ、昨日からもうウズウズしていたよ」

 詩空のとなりを歩く友人、お目当ての店こと「オール・エース貴族」 の看板を見て興奮を隠さない。

「わたしも、今日は朝起きてからずっとマーズの事ばっかり考えた」

 肉桂色のワンピースを纏い、豊かな胸のふくらみをユッサユッサ揺らしながら浮き立つ心を表に放ちまくる詩空。彼女にとってマーズ火山に会うことは、たまにたしなむステキなワインみたいなモノ。

「いらっしゃいませ」

 そんな声をすり抜けアイバンとして店内に入った2人、さっそくそれぞれがお互いのお気に入りホストを指名した。

「あ、レディー、また来てくれたんだね、会いたかったよ」

 詩空の前に現れたるはスーツ姿のホストことマーズ火山。斜め分けショートという髪型が似合い、派手さはないが堅実な色気というオーラを醸す。

「今日もまたかわいいね」

 マーズの目に見つめられホメられると、胸のふくらみがキュゥっと締められる詩空、もうすでに魔法の時間は始まっている。こうして2人の女とホスト2人がテーブルにつく。料理、酒、それらは当然2人の女が支払うモノであるが、今のところは自制を持っているので安くはないが懐を傷めない範囲を心得え注文している。

 夢。詩空と友人にとって店に滞在する3時間というのは、夜だからこそ奏でられるメロディーみたいなモノ。そしてそれは気がつくと一瞬で通り過ぎるマッハみたいな速度で終わりを迎える。

(もっとマーズに見つめられていたい)

 けっこう前から生じているワンランク上を意識する病気。相手は仕事でやっていると理解しても、とろけるようなフィーリングは詩空の胸をお姫さま色に塗りたくる。もし自分が何かで成功し1日100万円使ってもへっちゃら女だったら、毎日この店に来るはもちろんシャンパンタワーをやってみたいなどと考える始末。

「どうもありがとう……」

「レディー、また来てよね、きみが来てくれないとぼくは生きていけないからね」

「ぁ……ん……」

 こんな会話をやる詩空は、このままベッドに行って初体験したいなどと思いながら別れなければいけない。ホストクラブにのめり込むほど、お気に入りホストにあって夢汁を吸うほど、別れ時に感じる胸のくるしさは冗談が通じない感じに育っていく。

(あぁ……胸がせつない……)

 午後11時を迎えようとしている夜道を歩くとき、繁華街の明かりやにぎやかさが目や耳を刺激している間は、夢とつながりがあるように思える。しかし駅に向かってどんどん進んでいくと、夢が自分を締め出すようなさみしさに襲われる。

「また来月になったら行こうね」

 友人はサクっとそう言った。

「うん……」

 すぐに返事はしたがテンションは低い。なぜなら来月とかいうのを迎えるためには、あと十数日を過ごさねばならない。月に1、2回しか行かないと決めているのだから健全な間合いと言えるが、だんだんこれが耐えられなくなっている。

「今月はさぁ、そこそこ性能な中古パソコンでも買おうかなと思っていたんだけど金欠。だったらホストクラブに行くなって話なんだけどね」

 アハっと笑って語る友人だが、詩空はそれを聞くと豊満な胸の内側をドキドキさせ始める。今宵によって自分も金欠に陥った。しかし消費者金融でつくったカードがあるではないか! と思いがそこに行く。

(さすがに明日も行くのはまずいだろうけど……3日後くらいなら行ってもいいはず。6万くらいならカードで下ろしても、毎月の支払いは軽いはず。たしかに借金だから怖いけど、でも……一生背中にのしかかるわけはないはずだし……)

 繁華街のにぎやかさとか魔法が途切れた夜道を歩きながら、となりには友人がいるというのに詩空の頭は危険なことばかりグルグル回すように考える。

「詩空、詩空!」

「ぁう!」

 友人に名前を呼ばれハッと我に返る。暗い夜道に吸い込まれていた詩空の頭は突然の現実復帰に小さくエラーを起こす。

「マーズの事を考えていたの?」

 友人はそう言うとポン! っと詩空の左肩を叩き、思いやりにあふれた声でゆっくりと言う。

「たまに行くからいいんだよ。だからさ、来月になったらまたいっしょに行こう。そしてその時まではホストクラブの事なんかできるだけ忘れて生活しよう。その方がお目当ての日がやってきた時のよろこびはデカいんだかさ」

 友人の笑顔、口調、そして内面からあふれるゆとり、それらを受け取った詩空は思わずにいられない。あぁ、友だちの方はハマっていると言ってもふつうの範囲であり、自分だけがちょっと危ないんだなぁ。

「わかってるよ、ホストに狂って転落とかみっともない話はしないよ」

 にっこりかわいくやって見せることで友人を安心させ、自分はいまちょっと危ない状態にあるという恥を悟られずに済んだ。

「どうもありがとうございます」

 そう言った詩空は自宅近くまで送ってくれたタクシーから下りる。電車がないわけではない。あまりに心地よい夢空間から離れると、電車に乗って現実のスカスカ感を味わいながら帰宅するのが耐えられないせいだった。しかし家の前で下りると贅沢をしていると親にバレる。だから家の近くで下り、駅から帰ってきたという演技をかます。

「ふぅ……」

 自宅へ向かって歩き出す詩空。いま、彼女の胸は遠ざかってしまった夢空間ばかりを思う。あそこにはマーズ火山という男がいて、夢の世界がまだ回っている。なのに自分は出がらしみたいな空間を歩いている……などと考えるものだから、さみしさが自分の体を破裂させんがごとく沸きあがってしまう。

「マーズ……明日も明後日もマーズに会いたいよぉ……」

 クゥっとゆがめられるみたいに苦しい胸に手をあてる。我ながらほんとうに大きくてやわらかい弾力と思うその内側は、夜のきらびやかさに接して付着した汚れに満ち溢れていた。
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