息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

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14・求める夢に忠実であれ女子高生1

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14・求める夢に忠実であれ女子高生1


 午後1時。それはそれはステキな晴天が広がっていた。そういうモノを高いところから見ると、背中に翼が生えるという類の想像が刺激される。実際ひとりの女子高生はそういう想像をしながら、グッと金網フェンスを掴んで顔を上に向ける。あまりに高くて登れないそれを泳ぐようにして超えられたら……と考える。

「ん……」

 しかしつぎの瞬間、彼女の顔面が下を向きこわばる。それはすごい恐怖にかなり豊かな胸のふくらみをギュッと掴まれるせいだ。

(……)

 翼が生える、飛ぶ、しかしそれが消えて途中で落下したら……あの流れ動く豆粒みたいな中に落ちていくと、自分は一体どうなるのか……ワインみたいな血を流し、カタチが崩れて動かなくなるのか……そうなりたい……でも怖い……したいと思えば思うほど怖くて心臓がカチカチに固くなる。

「はぁ……」

 クッと色白な両手が金網から離れた。

「やっぱり怖いんだよねぇ……だけど……他に楽な死に方って思いつかない。一瞬でパッと消えることのできる死に方ってないのかな」

 彼女がそう言って振り返ると、ちょっと離れたところにひとりの若い男が立っている。もしかして自分を見ている? と思ったからドキッとしたが、面識はないので声を出す必要はないと思って歩き出す。

「よぉ」

 いきなりだが男が話しかけてきた。

「ぅ……ん」

 返事をしようとしたのか否定しようとしたのか、いずれにせよ女子高生の声は裏返ってしまう。

「何を考えていた?」

 男に質問された時、少女はこのデパートの屋上という空間が奇妙な場所に感じた。刑務所とも希望とも言えるような感じが胸に張り付く。しかし希望というのは自殺願望を持っている自分をさらけ出すようなモノで格好悪いとなるから、助けてください! 的な表面は絶対に出してはいけないのだと冷静に務める。

「あなた誰なんですか? いきなりなんですか?」

「おれは家満登息吹っていうんだ」

「で? その息吹さんがなんの用なんです?」

「何の用って言えば……」

 息吹は両手を広げ事の成り行きを簡単に説明。午前11時くらいにデパートの前を通ると、異様な物悲しさが上空より漂ってきた。死にたいという感情をドロドロのスープに混ぜたようなそれを感じ取ると、気になるのは当然として屋上に足を運ぶ。

「そうするとひとりの女子高生が金網をつかんで死にそうなオーラ。それが2時間ほども続いたら、声をかけてもいいんじゃないないかと思った」

「え、2時間?」

 女子高生は慌ててスマホを取り出し、意外な時間経過に目を丸くする。

「学校は? サボるような不良には見えないけど」

「さ、サボってなんかいません。今日は1時間だけで学校が終わったんです。だから帰りにちょっと風に当たりたくて来たんです」

「2時間も金網にぎって……」

「んぅ……」

「なんか悩みでもある? 話を聞くくらいならできるけど」

「話?」

 ほんの一瞬少女の顔が正直的な色合いになった。おそらくはそれが彼女の本心という、瞬きほどの時間に浮かんで見えた。

「あっと、とんでもない、なんであなたと話なんかするんですか!」

「なんで? 話をするくらいならいいじゃんか」

「男の人は絶対に下心を持っていますよね」

「下心ってどんな?」

「そ、それは……わたしのGカップって巨乳が目当てとかそういう話で……って、何を言わせるんですか!」

「いやいや、そっちが勝手に言ったんだ」

 息吹、両手を広げどうどうと相手を眺めながら言う。かわいいし巨乳だし魅力的だと相手をホメた後、おれはもう一回死んだから下心は持たないと。

「え?」

「つい最近死んだ。ちょっと訳あって一時的に生き返っているだけ」

「死んだってどうして? 自殺ですか?」

「いや、客の女に刺された」

「刺された? それってどんな職業……」

「ホスト」

「ホスト!?」

 少女はホストという言葉にあまりいい印象を持っていないと顔に書きかけた。しかしそれを横において、さらに気になるところへ質問を持ち込む。内容に反して目を輝かせながら質問した。

「死んだ人ですよね?」

「うん」

「怖かったですか?」

「そりゃもちろん、思い出すだけでゾッとする」

「たとえば飛び降りと刺されるだったらどっちが楽に死ねますか?」

「なんだよその質問……」

「こっちはマジメなんです、答えてください!」

「わかるわけない、だっておれ飛び降りはしてないもん。でもおそらく……」

「おそらく?」

「一瞬で死ねるのは飛び降りだろうと思う」

「そ、そうですか……」

「もしおれが刺される方がマシとか言ったらどうする気だったんだ?」

「あなたに刺し殺してもらおうかな……と思いました」

「ブッ……」

「いけませんか? 女子高生が死にたいと思ったらだめなんですか?」

「まぁまぁ、こんな無粋な場所で話をしてもなんだ。喫茶店にでも行こう」

「喫茶店? あんなおじさんワールド?」

「そんな言い方するか……」

「ここでいいです、今は2人しかいませんし」

「わかったよ」

「じゃぁ、ちょっと待っていてください」

 少女はだだっ広い屋上の端に行くと、普段は誰も使ってくれないとぼやいているような自販機を前にコインを投入しジュースを2本購入。そしてそのうちの一本を息吹に渡してやる。

「悪いな」

「いいです。その代わり、ちゃんと話を聞いてくださいよ? 適当だったら130円を返してもらいますからね」

「わかった」

 2人は屋上にあるベンチへ腰を下ろす。そうやって2人しかいない巨大な空間を見ると、実に健康的なまぶしさと思えなくもない。でも少女の方が言い出すのは心の影に潜む暗い内容。

「わたし、花道結衣と言います。早く死にたいと思っています」

「花道って明るい苗字なのに死にたいのか?」

「はい」

「なんで?」

「生きていて希望がないからです」

「高校生なんだろう?」

「高校2年生です」

「それで希望がないっておかしくない?」

「全然、むしろ希望持っている方がおかしいです」

「なんでだよ」

「だって高2にもなれば将来がどうのって話がでてくるわけで、夢を追いかけるとかもう許されないわけで」

「将来ってどんな将来?」

「いい大学に入るんです」

「その後は?」

「いい会社に就職するんです」

「それが本心によって描いた将来ならいいんじゃないの?」

「ん……」

「本心じゃないんだ?」

「ほ、本心です……半分は」

「半分?」

「そ、そうです。わたしだって高2にもなれば、たしかにいい大学にいい会社って流れが大事だって事はわかっているんです」

「それは何のために?」

「ふつうの人生を送るためです。ふつう以下になるなんて……」

「でもそのふつうは本心じゃないんだろう?」

「んぅ……」

「で、結衣は何をやりたいと思っているんだ?」

「笑ったりしませんか?」

「笑わない」

「イラストレーターとかやりたいと思って」

「いいじゃん、やればいいじゃん」

「でも、最近は勉強の方が忙しくて、どうしてもエネルギーをイラストに注げないんです。やりたくても時間が取れない」

「そりゃぁ仕方ない、高2だしな。でもやめる必要はないし、大学に入ったらまた時間は作れると思う。もっと広く考えると……結衣がストレートに入った大学を卒業するまでって考えたら5年くらいはある。だったらイラストに没頭する時間っていうのは、その時になればけっこうつくれるはず」

「でも……」

「うん?」

「親が認めてくれないから」

「ま、よくある話だな」

「イラストレーターなんて不安定とかお金になりにくのを目指すのはやめろって。それで勉強がおろそかになるなら出ていけって」

「ま、それもよくある説得だな」

「だからそろそろやめないといけないんです」

「そこがわからないなぁ、やればいいじゃないかな」

 すると結衣がスクっと立ち上がり、いいんです……と納得したような声を出す。それは達観という言葉を無理やり食おうとしている音色にしか聞こえない。

「だから死ぬのか?」

「死んだら生まれ変われます」

「どんな人間になりたいと?」

「絵の才能があって、14歳くらいには世界から認められ誰しもが絵で生きるべき! とあがめるような人間。そうすれば自分の夢はかなえられる」

「そんな都合のいい生まれ変わりはないと思うがなぁ……」

 息吹、飲み終えた空っぽ缶をゴミ箱に捨てる。そして一度見せてくれと結衣に言いながら手を伸ばす。

「み、見せるって何を? まさか巨乳を見せろとか……」

「アホか……結衣の描くイラストとか」

「だ、ダメです。今はダメです」

「なんで?」

「今はまだ人に見せられる時期じゃないから」

「じゃぁいつになったら見せるんだ」

「来るべき時がくれば……という話です」

「それじゃぁダメなんだよ、結衣」

 息吹は色々語って説得を試みた。しかし結衣は鉄の意思ともいう感じで絶対に見せなかったのである。

「なんで否定するときだけエネルギーがあるんだよ」

「だって……」

「たとえばイラストを見せて、見たおれが笑ったらどうする?」

「サイテーだと思うし傷つきます」

「傷ついてどうするんだよ」

「伊吹さんの見ている前で死んで罪の意識を与えてやります」

「いやいや、その考えがダメなんだってば」

 息吹は座っている少女を見ながら、笑われるくらい放っておけばいいだろうと言う。栄光という2文字だけを求め、他人には言いたい事を言わせればいいだろうと伝える。

「じゃ、じゃぁ聞いてもいいですか?」

「うん?」

「ホストとかやっていたんですよね?」

「あぁ、やってた」

「それって親から反対されなかったですか?」

「された。特に親戚の風当たりはめちゃくそきつかった。おまえそんな人間なの? とか言われたな、毎日」

「そ、それでもホストをやったと?」

「そうだな」

「どうして?」

「女って生き物が好きだから。これはもうそういう男に生まれたからとしか言いようがない。だったら運命を素直に背負って生きようと思ったんだ」

「ん……じゃぁ、仕事は最初からうまく行きましたか?」

「まぁ、割合にな」

「才能があったんですね……いいなぁ、わたしにはそういうのがないから」

「そうでもないぞ」

「え?」

 息吹、両手をポケットに入れ軽く固いアスファルトを蹴る。そうして早くからうまく行き過ぎるのもよくないとこぼす。

「どうしてですか? なんでそれがダメなんですか?」

「うぬぼれたつもりはないんだけど……でも、女が好きだとか言いながら、女に対する優しさとか足りなかったような気がする。おれが女に刺されたのも、ある意味ではそういうのが原因かもしれないと思ったりする、今はな」

 息吹、ここで話を結衣の事に戻す。高校2年生で夢を捨てるのは間違っていると話を結び、まぁがんばれ! と屋上を去ろうとした。

「ま、待って、待ってください」

「うん?」

「わたしを捨てる気ですか?」

「な、なんだよ、人聞きの悪い事を言うなよ」

「死んだんですよね? どこに行くんですか?」

「とりあえず四次元をさまよう。もし悩み苦しむ人間がいてピンと感じたりしたら、そいつと話をするって感じかな」

「わたしの側にいてください」

「え?」

「だ、だって伊吹さんと話をしていたら胸がキュッとさせられる。それに悩みを聞いてくれる存在も欲しいし」

「でもなぁ、結衣……」

「なんですか?」

「夢とかそういう話は自分で勇気を出す以外にないんだけどな」

「だからわたしの背中を押してください。ホストだったんでしょう? だったらいまはわたしの背中を押してください」

「わがまま……」

「むぅ!」

 結衣、カバンからノートを取り出すと一ページをビリビリっと破いた。そうしてボールペンでサラサラっと住所に電話番号などを書くと息吹に渡す。

「わたしが慰めて欲しいと思って呼んだらすぐに出てきてくださいよ?」

「なんだよ、それ……おれは結衣の奴隷かよ」

「そうです」

「おい……」

「だってホストで殺されて、しかも訳あって生き返っているって、それは推測するに罪を償えって事ですよね? だったらわたしにやさしくするのも罪の償いになるのではありませんか?」

「まったく……夢に対して根性がないくせに」

「と、とにかく後で呼びますから、ちゃんと出てきてくださいよ?」

 こうして結衣は息吹という男が、また後でな! とか言ってスーッと消えたのを目にし片手を豊かでやわらかい弾力いっぱいの胸に当てる。

「伊吹さんか……」

 ポッと顔を赤らめると、それを演出するみたいな風が吹き、ショートボブの前髪がフワッと揺れ動くのだった。
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