息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

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27・モテない、過去の思いが吹っ切れない……などから女を殺したいと思う男4

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27・モテない、過去の思いが吹っ切れない……などから女を殺したいと思う男4


「いらっしゃいませ」

 店員に握りの職人たちが一斉に声を出した。しかしその中に天野みちるというお目当ての姿がない。最初は休みか、仕事の都合で時間が変わったか? などなど思った。だが合計して21日連続で通ったとき、10日くらいみちるを見かけないのはおかしいとガマンが出来なくなる。

「ねぇ、ちょっと聞いてもいいかな」

 カウンターに座っている秀樹、にぎっている人間で一番偉そうに見える男に声をかけてみる。

「何か?」

「店長さんですか?」

「あ、はい、わたしが店長ですけど」

「天野みちるさんは? 最近見ないけど」

「あぁ、天野さんなら辞めましたよ」

「や、辞めた?」

「えぇ……もう10日くらいになるかな」

 突然に知った悲しい出来事。そしてそれはひどい裏切りのように思えた。人のキモチに向き合わず逃亡した天野みちるは不誠実だと腹が立つ。

「店長さん、天野さんの電話番号とか教えてよ」

「え、それはできません」

「頼む!」

「申し訳ありません、それはできないのです」

「頼むよ、1万円渡してもいいからさ」

「お客さん……」

 言い争っているうちに引き下がれなくなる。不幸中の幸いだったのは、秀樹が多客への迷惑を考えたこと。その理性によりドハデに暴れる事はなかったが、21日連続で通ったのに白い目で見られる存在になってしまった。

「くそ、くそ、くそ、くそぉ!!」

 秀樹、店を出て歩き出すとガマンできずに大きな声を出す。そのとき、うっかり見知らぬ男とぶつかる。

「あ、あっと、ごめんなさい」

「いや、だいじょうぶ」

 たったそれだけの事と思いきや、自分より年下であろう男に何かビリっと来た。なぜ男に? と悩みかけたが、秀樹は相手に声をかけていた。

「あの……」

「うん?」

「ちょっと、話をきいてくれないかなぁと思って」

「おれ、男同士のメイクラブには興味がない」

「あ、いや、そうじゃなく……ちょっと話を聞いて欲しくて」

「まぁ、話をするくらいならいいけど」

「じゃぁ、あそこの喫茶店に」

 こうして秀樹はまったく面識のない年下の男と喫茶に入るという、なんだそれは? と自ら思わずにいられない事をした。

「あ、おれは青山秀樹って名前で30歳。そっちは……おれより下だよね?」

「おれは家満登息吹、死んだ時は23歳だから23歳」

「え?」

「一回死んだんだよ、でもまぁ一時的に蘇り中ってこと」

 コーヒーを啜る23歳の男があまりにも冷静で、しかも偽りや迷いを持った狂人とも思えないゆえ、秀樹は軽い質問から始めた。

「息吹って呼んでも?」

「いいよ」

「息吹ってモテるよね? 絶対そうだと思う。モテる男のオーラというのを初めて感じたように思ったんだ」

「うむ、モテるというかモテた。だから生前は散々に女を食い散らからしホストをやった」

「ど、どのくらいの女を食い散らかしたと?」

「500人くらい」

「ご、500人……いいなぁ、おれもそんなにモテてみたいなぁ」

「いや、そうでもないかもよ」

「え、なんで」

「モテるとありがたみがないというか、純情とか純愛って言葉が死ぬほどクサく思えてしまう。要するにモテると性格がちょっと歪むんだ」

「おぉ……息吹っておれより年下なのにすごいなぁ」

「で、何が言いたいのかな?」

「あ、実は……」

 秀樹はここで出来るだけ上手にまとめ、でも少しは時間がかかるという話を息吹に利かせた。

「ど、どう思う?」

「どうって、愛想尽かされちゃったのかもねぇ」

「そ、そんな……」

「いや、申し訳ないけど、おれはその女の味方をする」

「なんだよ伊吹、男は男の味方とかじゃないのか?」

「そう言いたいが、おれはモテる方の味方をする」

 秀樹からタバコを受け取った息吹、咥えスーッと吸い込んでから吐き出すと、モテないやつの心理はよくわからないと話し出す。

「わからない? どういうところが?」

「モテないやつはどうしてか都合のいい想像をする。あれはなんでだ?」

「え、いや、なんでと言われても……」

「ちょっと親しくするともう夫婦みたいにされるのはおかしくないか?」

「う……」

「それに不思議だと思うのは、想像とか神経が太い割には肝心の勇気がない。告白したいけどどうしたらいい? って、するかしないかの2つしかないじゃん。なんでイチイチ人に聞くのかな? って話だ」

「そ、それはほら、断れたら怖いっていうか」

「なんで怖いんだ?」

「え、怖くないの? 傷つかないの?」

「別に。仕方ないで終わるだけだけど」

「う、ウソだぁ、息吹、それはちょっといい格好し過ぎだよ」

「いや、おれはこう考える。告白するくらいはしてもいいだろう、そのくらいの権利はあるだろう。だったら相手にも断る権利があるのだと、それで納得」

「そ、そんな風に考えたことはなかった……かな」

「それでいいじゃんかよ、面倒な事は投げ捨て、次の獲物……というか別の恋を探す方が時間の有効活用じゃん」

 息吹と話をしていると、天野みちるに対する憎しみが薄まっていった。憎しみの炎を燃やすが実にバカらしいと疲れることができたせいかもしれない。

 が、しかし……秀樹には根本的な問題があった。天野みちるという爆乳女性を忘れる事ができたとしても、女という基本的な存在に対しては定期的に憎しみや殺意が沸くことだった。

「正直に言うけど……たまに、いやしょっちゅう……ほぼ毎日……女が憎いって思う。もっとハッキリ言うと……腹が立って悲しいからブッ殺したいって思ったりもする。これってダメな事かな? 息吹」

「ダメに決まっている」

「なんで、どうして?」

「女が憎いとか言っても、結局は女が必要なんだ。女を憎んで女を思い勃起するとか狂気でしかない。それだったらおれみたいに、女って存在が好きだと周りに公言して、女とセックス三昧って男の方がよっぽど素直で神々しいと思うけどな」

「わかってる、わかってるんだ……だけど、ほんとうに腹が立つ。ついさっきまでは天野の存在があるから薄れていたけど、天野が消えてしまったらまたぶり返す。どうやったら乗り越えられるんだよ、教えてくれよ息吹」

「だったら恥をかいたらいいじゃんかよ」

「は、恥?」

「そ、毎日繁華街にいって、1日1回ナンパしたらいい。フラれても翌日にまた同じ事をする。どうせなら1000回フラれてみたらどうだろう。頭とか精神が突き抜けるかもしれないぞ」

「なんだよそれ……」

「でもそれしかない。恋愛じゃなくても一緒だろう。行動力がなくて言うだけのやつって突き抜けたことがない。で、たまに爆発したみたいな勇気を出すんだろうけど、オリンピックじゃないんだからさ、何年とか何十年に一度燃えたって人生は有意義にならないんだよ」

「そうだな、息吹と話をしていたら、ちょっとキモチが楽になった」

「それならいいんだけど」

 こうしてこの夜の秀樹は、天野みちるを失った怒りおよび湧き上がるかもしれないネガティブな感情を奇妙な展開で抑える事に成功した。
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