息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

jun( ̄▽ ̄)ノ

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53・売る側と買う側9

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53・売る側と買う側9


「卓郎、最近調子はどう?」

 鳥子が会社にてこんな事をさりげなく言ってみると、別に普通かなぁ……という返事が返ってくるようになった。一回だけならまだしも、数回これが続くと不思議に思い始める鳥子だった。

「わたしさぁ、今日ヒマなんだよねぇ」

 それとなくこんなつぶやきを発するとき、だったら話をさせてくれ! と相手が乗ってくることを当然のように期待する。女が生まれつき抱くあざとさという感じそのもの。しかし卓郎は妙なまでに安定しており、決して取り乱す感が生じない。

「あ、そう」

  なんの問題もないですから! 的にサラっと言ってのける。そして鳥子の誘惑を何の苦も無く振り切る。

「おかしい、絶対におかしい!」

 今宵鳥子は黒井腹子に相談を持ちかけた。居酒屋に入り、グビグビって豪快にビールを飲んでプッハー! とやってから、これはどういう事だと思う? なんて質問をかます。

「虚勢を張っているんじゃないの?」

 腹子は関心なさそうな声でつぶやき返す。

「ちょちょ、何を無関心モードな発言をしているのよ。だいたい卓郎はモテないとか揺さぶりをかけたらどうとか、そういう事をわたしにアドバイスしたのは腹子なんだよ?」

 そう言われるとさすがの腹子もちょっとばっかり詰まってしまう。責任を感じての事というよりは、面倒くさいなぁという嘆きによるところが大きい。腹子という女は、人をその気にさせるのは好きであるが、その後の責任を負うのは流し忘れの汚物を見るのと同じくらい嫌いだったりする。

「ねぇ腹子」

「ん?」

「ちょっと卓郎を観察してくれない? そして何かあったらわたしに報告してくれない?」

「はぁ? なんでわたしが……」

「わたしが卓郎の尾行とかできるわけない。ま、タダとは言わない。前払いでこれをあげるからさ、頼むよ」

 スーッとテーブルの上に差し出されたのはアマゾンカード3000円。ちょっとしみったれな数字ではあるものの、逆に言えばそれゆえおまえも責任を取れよって見えないメッセージが重みを増す。

「わかったよ……」

「どんな些細なことでもいいから気づいたら教えて」

 こうして腹子はかったるい任務を負ってしまった。しかし3000円とはいえカードはありがたいので、仕方なく仕事が終わったら損擦岳卓郎の尾行という余計な仕事をこなす事にした。

 翌日、さっそく原子は卓郎の尾行を開始。鳥子の友人ではあるものの、卓郎は腹子に何の興味もないからまったくの無防備。それはとても任務が遂行しやすいって事だが、ここまで意識されていないとさみしいような気がすると女らしく思ったりもした。

(卓郎みたいな地味やろうを追跡してもなぁ)

 ふわぁ……とアクビをしながら後をつけた。どうせ一人でブラブラしてから家に帰るしか物語はないはずだと思いながら、やる気のない三流探偵みたいにして追いかける。

 しかし〇〇駅の近くまで来たとき突然に足が止まった。そしてこれまで眠い感じがすると思っていた意識がパーっと丸ごと開いたようにおどろく。

「え……」

 なんと卓郎が見知らぬ女性に手を振り、相手も同じアクションをしたではないか。ショートレイヤーが似合う、すごいグラマーで爆乳さんというその女性と卓郎はちょっとテレくさそうに見つめ合ったりする。そのサマは誰がどう見ても身内やら友人ではないと思われた。

「え、卓郎って彼女がいたの? しかもあんな……けっこうかわいいのはいいとしても、すごい爆乳じゃん! ウソでしょう、あいつ密かに勝ち組をやっていたわけ?」

 これは久しぶりの衝撃だと思った。しかし向かいの通りから見つめる限りでは、あの2人はまだウブいとも見える。

「まだ付き合い始めて間もないと見た……卓郎はあの女の爆乳に甘えたり抱かれたりしていないと見た」

 ここで腹子はとっさにスマホを取り出し、今か今かと連絡を待っている鳥子に情報伝達をする。

「はぁ? 卓郎に爆乳の彼女?」

「けっこうかわいいし、マジですごい爆乳……あれ冗談抜きでバスト100cmとかIカップとかそういうレベル」

「そんな乳情報はいらない!」

「でもさぁ鳥子、今ならまだ間に合う」

「間に合うって?」

「わたしが感じる限りあの2人はまだセックスをしていない。セックしたが最後、卓郎はあの女から離れられなくなると思うけど、その前なら鳥子が取り戻すことはできるはず」

「そ、そうなの?」

「だから今日の夜、さっそく電話してヨリを戻す方向で話をした方がいいよ」

「わ、わかった」

 ショック、衝撃、超一大事! 鳥子はまったくもって信じられなかった。あの卓郎に自分以外の女が出来るなんて、しかもかわいくて爆乳って上玉をゲットできるなんて! と。

 そこで鳥子はしばらく耐えた。夜の10時くらいならいいかなとか、どうかまだセックスしていませんようにと祈りながら電話をかけた。

「はい、もしもし」

「あ、卓郎、わたし」

「なんだよ、急にどうしたんだよ」

「いや、わたしさぁ、色々考えたんだよ」

「何を?」

「卓郎にさみしい思いをさせたらまずいよね。しかもわたしらもう大人だから青春しているヒマなんてないよね。だからさ、わたし卓郎の女に戻ってあげようと思うんだ」

「はぁ? なに言ってんだ」

「うん、卓郎が怒るのはわかるよ。でもわたしは本気。もう恋愛とかじゃなく結婚も考えよう。だからわたし卓郎のお嫁さんになるため、明日にでも仕事を辞めてもいいから」

「なに勝手にひとり話を進めてるんだよ」

「だって卓郎、わたしがいないとさみしいでしょう?」

「別に。だっておれ、おまえの言う理想にはまったく届いていないからな、さみしいとか思う事すらできない」

「い、イヤだなぁ卓郎、あれははっぱをかけるってやつだよ」

「身長170cmで恥ずかしくないの? とか言われてどうすればいいんだよ。そんなのどうしようもないだろう。正直言えばめちゃくちゃ胸糞悪いと思ったからな」

「も、もう男の子は根に持ったらダメなんだよ」

「っていうか、おれ……おまえ好みの男になりたいと思わない。かったるいだけだ、人生の無駄遣いって気がするだけ、うんざりする」

 なんという事だろう、鳥子が思った通りの反応をまったく浮かべない卓郎がいる。てっきり弱くすがる男をやると思っていたのに、鳥子の事を指先ではじいて何ら傷つかないという感じを醸し出している。

「ね、ねぇ卓郎」

「なんだ?」

「もしかしてさぁ、浮気している?」

「はぁ? 浮気ってなんだ?」

「言葉の通りだよ、わたしという女がいるのに、別の女をこしらえたりしていない?」

 鳥子は卓郎に対してここから攻めようと計算した。たとえ自分に非があるとしても、基本的に気弱な卓郎ならガンガン攻め込む事で丸め込む事ができるであろうと考える。

「そもそも別れようとか散々人をバカにしたのはおまえだろう」

「あ、その言い方、浮気していると見た」

「浮気じゃないけど、でも好きな女性はいる」

「え」

 突然に卓郎はきっぱりとした声で言い切った、自分には付き合い始めたステキな女性がいると。その口調には男にあってしかるべき力強さがあり、それは鳥子のためにあるわけではないと明確。

「ど、どんな女よ、言ってみなさいよ」

「やさしくて謙虚でいっしょにいてたのしいと思わせてくれる人」

「ぅ……なに、わたしより美人なの?」

「鳥子よりずっとかわいい人だと思っている」

「な、な、な……」

「別れようみたいに言い出したのはそっちだからいいだろう? っていうか、おれ新しく出来たステキな彼女のことで頭いっぱい。この電話を早く切りたいと思っているのだけど」

「そ、そんな、だったらわたしはどうなるの?」

「知るか、婚活でもすればいいだろう」

「ま、まって卓郎、わたしの話を聞いて」

 ここで卓郎が電話を切った。それは完全に心が鳥子に向いていないという宣言みたいなモノ。

「な、な、た、卓郎がわたしを捨てた?」

 自分から問題の種をまいておきながら、卓郎が自分を捨てたと思い、やがてそれは卓郎のあたらしい彼女とかいう女に向けられる。そして自部屋の中で許される範囲って大きな声でつぶやいた。

「く、くそ……なにがかわいくて爆乳……人の彼氏を惑わしたりして、許さない、どこのメス犬か知らないけど……殺してやる!」
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