息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

jun( ̄▽ ̄)ノ

文字の大きさ
52 / 223

52・売る側と買う側8

しおりを挟む
52・売る側と買う側8


「なぁ損擦岳、今日みんなで飲みに行かない?」

 同僚の一人がそう誘った。エアお猪口を持つような右手を動かし、クイっと飲むようなアクションをひとつかます。

「あぁ、ごめん、今日はダメなんだ」

 実に素っ気なく断る卓郎だった。しかしそれは当たり前以外の何でもない。なぜなら今日は中野優子と実際に会ってみる日。そういう予定を立てた瞬間からこの時間まで、いったいどれだけ中野優子を思い浮かべポーっとなっただろう。それからすれば同僚と飲む席なんていうのは眼中にあらず。

(よし……)

 急ぎの用事があるとか言って軽く走り出すとき、心の中では優子さん! とか言って激烈なダッシュをやりたいと思った。それはまるで初恋の相手とついにデートができると異常に興奮する高校生そのもの。

「ハァハァ……6時35分か……さすがにちょっと早いか」

 やや離れたところから待ち合わせ場所に目をやる。そしてそこにはパソコンで見まくりな画像の女性と同じ姿がないとし、およそ25分という残り時間を大変な苦痛として待つ。

(あぁ、中野優子……中野優子……)

 呪文のように何回ともなくくり返した。今の卓郎にとって時計の進行は悪い魔法がかかったかのごとく遅い。1分が5分に感じられるため、たったの1秒ですらジッとしていられない。

「6時50分……そ、そろそろ……行ってみようかな」

 待ちきれない思いがあまりにも多いので、卓郎は早歩きでお目当ての場所の向かい側って通りに到着。そして見た、中野優子という女性の姿を。それは画像で見たその人そのものであり、卓郎にとってみればとっても小さな太陽の分身みたいに明るく見えた。

「お、おぉ……」

 卓郎、思わずごくりとひとつ飲む、いや飲まずにはいられないかった。なんて素朴にかわいくステキなのだろう、なんてすごい豊満でやわらかそうな美爆乳の持ち主だろう、そしてなんとおっとりやさしそうなオーラを持っているのだろうなどなど、数えきれない雨粒みたいに恋の弾丸がぶつかってくる。

「よ、よし……」

 心臓はバコバコはげしいド緊張ではあったが、信号が青になったのを利用することにした。次のチェンジで渡ろうなんてマイナステキな思考ではなく、いますぐわたってステキな女性に近づこうと足を動かし始めていた。

(中野優子、中野優子、中野優子、中野優子、中野優子、中野優子、中野優子、中野優子、中野優子、中野優子、中野優子……)

 ぐるぐる呪文みたいに続けながら歩くと、早くたどり着きたい意識と緊張が核融合を起こす。ドーン! と鼻血が噴出しそうな心配が起ってしまうが、それでも卓郎は勇気を持って歩み続ける。

 そしてついに目と鼻の距離ってくらいに近づいた。気になる人、中野優子は違う方向を向いていて自分を見てはいない。だから卓郎スーッと息を吸ってから声を出す。

「あ、あの……」

 突然に声をかけられたので女性がクッと振り向く。あぁ、この至近距離で見ると……まるでピンクの小粒がエフェクトで撒かれるみたいだとか思いながら、卓郎は続けた。

「お、おれ……損擦岳卓郎……です。な、な、中野、中野優子さん……ですよね? よ、よろしくお願いします!」

 言ったら自然に少し頭を下げていた。でもその方が卓郎にはよかった。緊張して両目が落ち着かないに加え、近い距離で見る優子の色白ふっくらな顔に呼吸を狭められ、あげくすごい美爆乳の持ち主って特徴にドギマギさせられる。だから両目が下に向くほんの一瞬が落ち着くためのリセットタイム。

「あ、あぁ……は、初めまして、中野優子です、よろしくお願いします」

 優子もまたかなりテレているらしく、そのやわらかい微笑みの中には自分のドギマギをコントロールし損ねているような感がある。

「と、と、とりあえず……とりあえず、喫茶店に入りませんか?」

 卓郎は言ってすぐ近くにある喫茶店、恋人たちのわだかまりに人差し指を向ける。しかしすぐ心の中で時間的にはどこぞへの食事に誘うべきだった! と焦ったりする。

「はい、行きましょう」

 優子がニコっと笑うと、それはもう卓郎の心を包み込むマシュマロみたいなモノ。思わず両目がトロっとなりかける卓郎であった。

「よいしょっと……」

 優子は白いテーブルをはさんでソファーに着席すると、クッと青色のジャケットを脱ぐ。するとピンク色Tシャツのふっくらなふくらみがフルっと揺れ動く。下にあって透けて見える白いフルカップブラとか谷間が ドキドキせざるを得ない卓郎の目から脳みそへ一直線爆弾と化す。

 ウェイトレスがやってくる、そしてレモンティーとコーヒーを注文する。それがやって来るまではとってもぎこちなく、油切れっぽく会話もできない。しかし互いの注文がテーブルに置かれウェイトレスが立ち去ったら、卓郎はカップにミルクを落しながらつぶやく。

「あの、中野優子さん……」

「はい」

「ほ、ほんとうなんですか?」

「ほんとうって? 何がですか?」

「だ、だって……中野優子さんみたいなステキな感じの人だったら、すぐに彼氏とか出来そうな気がするし、その気になったらイケてる彼氏なんてすぐ手に入るように思うのに、こんな……さまよっている男なんかといっしょに過ごしたりするのは本当なのかなぁって」

 必然的に卓郎の声はちょっと拗ねた感じになっていた。もしかすると、こんなステキな感じの女性とはうまくいくはずがないから、それなら最初から出て来ないでくれ! 的な感情が沸いたのかもしれない。

「あっと……その……」

 対する優子、ここ一口飲み終えたのでカップを皿に戻す。そして色白な右手で頭をかきながら、顔を赤くし別にステキじゃないです……とこぼす。

「あっとその……言ってもいいですか?」

 そう言った優子が赤い顔にほんのり苦悩を交えたりすると、それを正面に見てダメだ! などと言える男がいるはずもない。もちろん、言ってくださいと卓郎が言ったのはあまりに当たり前の返し。

「わたし……ちょっと前に心を入れ替えようと思ったんです。だからそれまでは心持ちの汚い女だったんです」

「え、な、中野優子さんが……ですか?」

「はい……けっこうゲスな爆乳女だったんです」

 優子は色白な両手をロングスカートに覆われた両膝の上に置く。卓郎には見えないが両手をクッとにぎり、以前の自分は1g7000円くらいの24金に匹敵する女……とうぬぼれていたのですと心苦しそうにつぶやく。

「わたし、その、早くからおっぱいが大きい巨乳女子だったんです。小3になってすぐブラが始まって小4でCカップ、小6でEカップ、そして……今はバスト105cmのIカップとかです。しかも……やわらかい弾力いっぱいでカタチはきれいって美爆乳だからつい……自分は黄金の女とうぬぼれてしまって、だったらこっちは贅沢な要求を突きつける権利があると思ったんです。よって今まで散々バカみたいな高望みをしてきました」

 優子はそう言うとここでグッと言葉を飲む。とてもつらそうな表情が印象的。もしかするときれいな涙がツーっと流れ出すかもしれない。

「で……どうなったかっていえば……売れません。今までずっと売れ残りをやってきました。コンビニで廃棄されるお弁当みたいになりつつあるって事です。ほんとうにダメなんです、だからわたし今まで一度もデートとかした事はないし、セックスの経験もない処女なんです」

 優子の声と体がワナワナ震えだす。つらい告白を自ら進んでやったので、泣きだしそうな予感がとてつもなく現実味を帯びる。

「最低ですよね……こんな女……自分でも……ほんとうに……どうして……」

 こらえきれない優子の目から涙が流れ落ちる。それは色白な頬をすべるように落ちていき、豊満なふくらみって部分にぽたりと落ちる。

「そ、そんな事ないです、そんな事ないですよ優子さん!」

「え?」

「お、おれ……優子さんみたいなすごい爆乳さんっていうか、グラマーさんって女性はすごく好きです」

 思わず立ち上がっていた、そしてその言葉にありったけの熱を込めていた。だからハッと気がつくと周囲が自分たちに注目していると気づく。

「ご、ごめんなさい」

「い、いえ……」

 卓郎はコーヒーをグッと飲んで気を落ち着かせてから、今の優子さんは心持ちがきれいだから、それでいいじゃないですか? と冷静な声でつぶやいた。

「そ、その……以前に問題があったとしても、それを自覚して心を入れ替えるとかいうのはすばらしいと思います。だって、今の優子さんからはただのステキな女性としか伝わってきませんから」

「そ、そんな……恥ずかしいですよ」

「お、お、おれと……もちろん最初は友だちとか借りでいいから、つきあって欲しいです、ダメですか?」

「わ、わたしとですか? いいんですか?」

 以前の優子がどれほどだったかはわからないが、今の優子はちょっと自信がないらしい。こんな女でいいのかなぁと弱気になって引っ込んでしまいそうな気配すら感じる。

「優子さん」

 スクっと立ち上がった卓郎、いったい何事かと思った次の瞬間に優子を驚かせる。なんと店の通路って床に正座したかと思えば、そのまま優子に向かって頭を下げたのだ。

「ちょ、ちょっと損擦岳さん……」

「お願いです、つき合ってください!」

 卓郎はここが喫茶店とか周りにはたくさん他人がいることを忘れたわけではない。その上で実に男らしい行動に出ていた。

「優子さんみたいな女性はすごい好みです。そしていま現在の優子さんから伝わる謙虚でやさしい感じも……心から惹かれました。だからお願いします、チャンスをください、つき合ってくだし……お願いします!」

 損擦岳卓郎の男らしい姿を周りの客はおしゃべりを止めて見守る。まったく人間の声がしない、控えめなボリュームのクラシック音楽しか聞こえない店内となっている。

「は、はい……わたしでよければ」

「あぁ……」

 優子が言い卓郎が顔をあげる。そうして2人の目が合うと、一斉に店内から拍手と口笛が沸きあがる。それは損擦岳卓郎と中野優子ってカップルがこの世に誕生した瞬間であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

前の野原でつぐみが鳴いた

小海音かなた
恋愛
鶫野鹿乃江は都内のアミューズメント施設で働く四十代の事務職女性。ある日職場の近くを歩いていたら、曲がり角から突然現れた男性とぶつかりそうになる。 その夜、突然鳴った着信音をたどったらバッグの中に自分のものではないスマートフォン入っていて――?! 『ほんの些細な偶然から始まるラブストーリー』。そんなありきたりなシチュエーションにもかかわらず、まったく異なる二人の立場のせいで波乱含みな恋愛模様をもたらしていく――。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、10人の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

処理中です...