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67・友情を壊した女が憎い3
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67・友情を壊した女が憎い3
太一は考えた。よからぬ事だが一生懸命に考え抜いた。そしてたどり着いたのは、バッテリーの希釈液を戸泉華夜の顔面にぶっかけてやろうという事だった。男の友情を壊した巨乳女が憎い! とメラメラ燃え、さっそく売っている店をネットで調べた。
「よし……これで復讐してやる。戸泉の顔面をボロボロにしてやれば、波多野も気づくだろう、自分がどれだけ愚かだったって事を」
かくしてネットで調べた翌日こと本日、学校が終わると一度帰宅し友人と遊ぶなどと偽って出かけ電車に乗った。繁華街のとある店に行けば買えると調べはついている。
がったんごっとんと電車が揺れる。その中にいる誰も太一を気にしたりしない。危険な物語を描いているなど誰も知らない。まるっきり平和で隙だらけみたいに見えると思う太一だった。
(よし……買ったぞ、買ったぞ!)
電車から降りてお目当ての店に直行、そうしてすぐ目的達成となるまで時間はかからなかった。後はすぐさま家に帰って部屋に隠しておき、翌日はこれを学校に持っていき友人の彼女にぶっかけてやるだけ。
(自業自得だ……戸泉のクソ女……おまえさえいなければ……おまえさえいなければ誰も不幸にならなかったんだ)
帰りの電車にて座席に座りながら性質の悪いドキドキを味わう。ちょっと足を気にするようにしてうつむいたのは、クククってゲスな笑いを浮かべてしまう自分を他人に見られたくなかったから。
しかし顔を上げた瞬間、突然の変化に面食らった。けっこう人がいたはずなのに、いなくなっている。いや、向かいの席に自分より年上の若い男がひとり座っているが、そんなやついたっけ? と思う。そしてそいつ以外には誰もいないとなれば、変な不安で呼吸が狭まってしまう。
「なぁ」
突然に向かいの男が声を出す。2人しかいないので太一に声をかけたのは明らかだ。
「な……なに?」
なんだこいつ……と思いながらも、一応は冷静な素振りで答える太一。すると男はぶっそうなモノを持っているよなぁとつぶやく。感心と呆れが半々って感じの表情を太一に向ける。
「そんなもん人にぶっかけるというのは遊びでは済まされないぜ?」
「な、なんだ……おれが何を持っているというんだよ」
「バッテリーの希釈液だろう?」
「え……」
「聞こえちゃうんだよなぁ、心の声っていうのが。戸泉華夜っていうのは、名前からすれば女子だろう? それの顔面にそんなモノをぶっかけるなんて、ずいぶん外道じゃんかよ。悪いことは言わねぇ、止めとけ。おれに渡せば処分してやるからさ」
「あんた……誰?」
「おれは家満登息吹っていう。まぁ、色々あって一回死んでよみがえったとかいう物語を過ごしている」
「余計なお世話だ、見知らぬ他人に言われる筋合いじゃない」
太一、商品の入ったビニール袋を持って立ち上がろうとした。するとどうだろう、ビリビリっとシビれるのに体が思うように動かせない。
「な……なんだこれ……」
立ち上がりたいのに立ち上がれない太一、ハッと顔を前に向けるといつしか正面に立っている息吹に見下ろされていると気づく。
「家満登息吹……いったい何者……」
「おれの事はどうでもいいんだよ。問題はおまえだ。こういうモノを買って冗談では済まない行動に出ようとか、青春エネルギーの無駄遣いだ」
身動きできない太一よりブツを取り上げる息吹、やれやれと言いながら首を振る。
「人のモノを勝手に取るな! そ、それは……復讐のために使うんだ」
「復讐? 戸泉華夜にフラれたとかか?」
「ち、ちがう……そうじゃなくて……こ、戸泉はおれと友だちの間に割り込んだ。そして男の友情をつぶした。だから許せないと思う」
「男の友情?」
「そうだ、戸泉が登場するまで波多野とおれは長いこと親しい友人だった。お互いにおまえさえいれば新しい友人は必要ないってくらい、それくらいの大親友だったんだ。なのに……戸泉が登場したら、波多野は女の事しか考えない。おれとの友情をどうでもいい事みたいにして、女と過ごす事ばかり、それしか頭にないのは誰の目にも明らかで」
「なんだそんな程度の話か」
「そ、そんな程度?」
「あぁ、そうだ。そんなもんで悲劇ぶるな。むしろ友人にエールでも送ればいいんだ、幸せになれよって」
「え、えぇ……」
「おまえ……同性愛か?」
「ち、ちがう……」
「だったらおまえも彼女を見つければいいんだよ。だいたい、女ができたばっかりの男が、女より男の友情を優先するっていうのはありえねぇぞ。そっちの方が何かおかしいって話だ」
「そ、そんな……」
「女はかわいい。女はいいニオイ。女はキモチいい。それと比べたら同じ男なんてゴミみたいなもんだ」
「ご、ゴミって……だったら息吹は女ができたら友だちなんかどうでもいいって言えるのかよ」
「当たり前だ、女と過ごす時間が忙しいゆえ、おれにかまうな、電話するな、男の友情なんぞうざいと言う、実際そうしてきた。おかげでハッピーだったなぁ、女と過ごす時間に集中できてさ」
「なんだよ……それって人間のクズだろう」
「その通り。成長するってことはクズになるってことだ。だからおまえも、自分好みの彼女でもつくって楽しく過ごせよ。そういうクズになればわかる、女の存在は男の友情に勝ると」
「く、くそ……どいつもこいつも、結局は安っぽいって事じゃないか。友達がどう、親友がどうとか言っても、結局のところは崇高な意識なんか持っていないって事じゃないか」
「バッテリーの希釈液を女にぶっかけようって思うおまえに崇高な意識なんかあるのか?」
「く……」
「おまえの友だちとかいうのは、おまえにひどい事をしたのか? ちがうだろう、多分……友情を気にしつつ、彼女の方に専念したいって悩んだはず。そういうキモチを汲み取ってやれよ」
「ちくしょう!」
息吹に説教され席から立ち上がれない太一、アタマを抱えてうつむいてしまう。ミジメだと思った、しかし……心の奥底では太一の言う通りだと理解もしていた。だから穴があったら入りたいなんて言葉が浮かび上がりそうにもなる。
「せっかくだ、おまえ……バッテリーの希釈液を顔面にぶっかけたらどうなるか、自分で試してみたらどうだ?」
「は、はぁ?」
おどろいた太一が顔を上げたときだった、息吹に液体をかけられた。それはとても量が多く、かけられてすぐさま残酷な緊張感に包まれる。
「う、うあぁぁぁっぁあ」
両手で顔面を抑えたとき体が動いた。2人しかいない車両の床に転がりまわり、顔面の激痛と同時に、ひどい事をされたというショックで我を忘れて転がり回る。
「い、息吹……」
「なんだ?」
息吹、顔面を見られたくないと両手で抑えながらうずくまる太一の背中を踏む。そして言ってやった。
「痛いとか傷ついたとか、それを人にやろうとしていたわけだよ。おまえ、わが身を持って経験してもなお、戸泉華夜に同じ事をするか?」
「ぅ……」
「おれと男の約束をしろ。バッテリー希釈液をおわれに渡し、そして戸泉華夜に手を出さないと約束すれば無事に戻れる。だがもし約束を破ったりすると、顔面が今と同じ状態になるかもしれないな」
「や、約束する……約束するよぉ」
「そうか。じゃぁ、おれはこれで」
息吹が足を上げると太一の顔面に響いていた激痛が止まった。地獄みたいな痛みがウソのように消えた。
「は……」
突然我に戻る太一、気がつくと席に座っていて、車内は見知らぬ他人がほどほどに存在している。あぁ、さっきと同じだ……だったら息吹とかいうのは忌々しい夢だったのか? と思ったが、購入したモノだけが消えていた。
(チッ……)
立ち上がった太一、ドアのすぐ近くに立つと、車内の他人に背を向ける。そしてドアに右腕を当て何か考え事をしているような姿勢を見せる。でも実際には他人の見えないところでボロボロ涙を流し始めていた。その涙はお目当ての駅に到着するまで止まる事はなかった。
太一は考えた。よからぬ事だが一生懸命に考え抜いた。そしてたどり着いたのは、バッテリーの希釈液を戸泉華夜の顔面にぶっかけてやろうという事だった。男の友情を壊した巨乳女が憎い! とメラメラ燃え、さっそく売っている店をネットで調べた。
「よし……これで復讐してやる。戸泉の顔面をボロボロにしてやれば、波多野も気づくだろう、自分がどれだけ愚かだったって事を」
かくしてネットで調べた翌日こと本日、学校が終わると一度帰宅し友人と遊ぶなどと偽って出かけ電車に乗った。繁華街のとある店に行けば買えると調べはついている。
がったんごっとんと電車が揺れる。その中にいる誰も太一を気にしたりしない。危険な物語を描いているなど誰も知らない。まるっきり平和で隙だらけみたいに見えると思う太一だった。
(よし……買ったぞ、買ったぞ!)
電車から降りてお目当ての店に直行、そうしてすぐ目的達成となるまで時間はかからなかった。後はすぐさま家に帰って部屋に隠しておき、翌日はこれを学校に持っていき友人の彼女にぶっかけてやるだけ。
(自業自得だ……戸泉のクソ女……おまえさえいなければ……おまえさえいなければ誰も不幸にならなかったんだ)
帰りの電車にて座席に座りながら性質の悪いドキドキを味わう。ちょっと足を気にするようにしてうつむいたのは、クククってゲスな笑いを浮かべてしまう自分を他人に見られたくなかったから。
しかし顔を上げた瞬間、突然の変化に面食らった。けっこう人がいたはずなのに、いなくなっている。いや、向かいの席に自分より年上の若い男がひとり座っているが、そんなやついたっけ? と思う。そしてそいつ以外には誰もいないとなれば、変な不安で呼吸が狭まってしまう。
「なぁ」
突然に向かいの男が声を出す。2人しかいないので太一に声をかけたのは明らかだ。
「な……なに?」
なんだこいつ……と思いながらも、一応は冷静な素振りで答える太一。すると男はぶっそうなモノを持っているよなぁとつぶやく。感心と呆れが半々って感じの表情を太一に向ける。
「そんなもん人にぶっかけるというのは遊びでは済まされないぜ?」
「な、なんだ……おれが何を持っているというんだよ」
「バッテリーの希釈液だろう?」
「え……」
「聞こえちゃうんだよなぁ、心の声っていうのが。戸泉華夜っていうのは、名前からすれば女子だろう? それの顔面にそんなモノをぶっかけるなんて、ずいぶん外道じゃんかよ。悪いことは言わねぇ、止めとけ。おれに渡せば処分してやるからさ」
「あんた……誰?」
「おれは家満登息吹っていう。まぁ、色々あって一回死んでよみがえったとかいう物語を過ごしている」
「余計なお世話だ、見知らぬ他人に言われる筋合いじゃない」
太一、商品の入ったビニール袋を持って立ち上がろうとした。するとどうだろう、ビリビリっとシビれるのに体が思うように動かせない。
「な……なんだこれ……」
立ち上がりたいのに立ち上がれない太一、ハッと顔を前に向けるといつしか正面に立っている息吹に見下ろされていると気づく。
「家満登息吹……いったい何者……」
「おれの事はどうでもいいんだよ。問題はおまえだ。こういうモノを買って冗談では済まない行動に出ようとか、青春エネルギーの無駄遣いだ」
身動きできない太一よりブツを取り上げる息吹、やれやれと言いながら首を振る。
「人のモノを勝手に取るな! そ、それは……復讐のために使うんだ」
「復讐? 戸泉華夜にフラれたとかか?」
「ち、ちがう……そうじゃなくて……こ、戸泉はおれと友だちの間に割り込んだ。そして男の友情をつぶした。だから許せないと思う」
「男の友情?」
「そうだ、戸泉が登場するまで波多野とおれは長いこと親しい友人だった。お互いにおまえさえいれば新しい友人は必要ないってくらい、それくらいの大親友だったんだ。なのに……戸泉が登場したら、波多野は女の事しか考えない。おれとの友情をどうでもいい事みたいにして、女と過ごす事ばかり、それしか頭にないのは誰の目にも明らかで」
「なんだそんな程度の話か」
「そ、そんな程度?」
「あぁ、そうだ。そんなもんで悲劇ぶるな。むしろ友人にエールでも送ればいいんだ、幸せになれよって」
「え、えぇ……」
「おまえ……同性愛か?」
「ち、ちがう……」
「だったらおまえも彼女を見つければいいんだよ。だいたい、女ができたばっかりの男が、女より男の友情を優先するっていうのはありえねぇぞ。そっちの方が何かおかしいって話だ」
「そ、そんな……」
「女はかわいい。女はいいニオイ。女はキモチいい。それと比べたら同じ男なんてゴミみたいなもんだ」
「ご、ゴミって……だったら息吹は女ができたら友だちなんかどうでもいいって言えるのかよ」
「当たり前だ、女と過ごす時間が忙しいゆえ、おれにかまうな、電話するな、男の友情なんぞうざいと言う、実際そうしてきた。おかげでハッピーだったなぁ、女と過ごす時間に集中できてさ」
「なんだよ……それって人間のクズだろう」
「その通り。成長するってことはクズになるってことだ。だからおまえも、自分好みの彼女でもつくって楽しく過ごせよ。そういうクズになればわかる、女の存在は男の友情に勝ると」
「く、くそ……どいつもこいつも、結局は安っぽいって事じゃないか。友達がどう、親友がどうとか言っても、結局のところは崇高な意識なんか持っていないって事じゃないか」
「バッテリーの希釈液を女にぶっかけようって思うおまえに崇高な意識なんかあるのか?」
「く……」
「おまえの友だちとかいうのは、おまえにひどい事をしたのか? ちがうだろう、多分……友情を気にしつつ、彼女の方に専念したいって悩んだはず。そういうキモチを汲み取ってやれよ」
「ちくしょう!」
息吹に説教され席から立ち上がれない太一、アタマを抱えてうつむいてしまう。ミジメだと思った、しかし……心の奥底では太一の言う通りだと理解もしていた。だから穴があったら入りたいなんて言葉が浮かび上がりそうにもなる。
「せっかくだ、おまえ……バッテリーの希釈液を顔面にぶっかけたらどうなるか、自分で試してみたらどうだ?」
「は、はぁ?」
おどろいた太一が顔を上げたときだった、息吹に液体をかけられた。それはとても量が多く、かけられてすぐさま残酷な緊張感に包まれる。
「う、うあぁぁぁっぁあ」
両手で顔面を抑えたとき体が動いた。2人しかいない車両の床に転がりまわり、顔面の激痛と同時に、ひどい事をされたというショックで我を忘れて転がり回る。
「い、息吹……」
「なんだ?」
息吹、顔面を見られたくないと両手で抑えながらうずくまる太一の背中を踏む。そして言ってやった。
「痛いとか傷ついたとか、それを人にやろうとしていたわけだよ。おまえ、わが身を持って経験してもなお、戸泉華夜に同じ事をするか?」
「ぅ……」
「おれと男の約束をしろ。バッテリー希釈液をおわれに渡し、そして戸泉華夜に手を出さないと約束すれば無事に戻れる。だがもし約束を破ったりすると、顔面が今と同じ状態になるかもしれないな」
「や、約束する……約束するよぉ」
「そうか。じゃぁ、おれはこれで」
息吹が足を上げると太一の顔面に響いていた激痛が止まった。地獄みたいな痛みがウソのように消えた。
「は……」
突然我に戻る太一、気がつくと席に座っていて、車内は見知らぬ他人がほどほどに存在している。あぁ、さっきと同じだ……だったら息吹とかいうのは忌々しい夢だったのか? と思ったが、購入したモノだけが消えていた。
(チッ……)
立ち上がった太一、ドアのすぐ近くに立つと、車内の他人に背を向ける。そしてドアに右腕を当て何か考え事をしているような姿勢を見せる。でも実際には他人の見えないところでボロボロ涙を流し始めていた。その涙はお目当ての駅に到着するまで止まる事はなかった。
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