息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

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78・閻美、色気リターンズ8

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78・閻美、色気リターンズ8


「ふふふ、追いつめた」

 伊吹こと閻美の顔にうれしさがあふれる。子どもみたいな純粋さとお安い高揚感がB級テイストらしく交じり合っている。

「さーて、どうしようかなぁ」

 もはやウサギは確保したとばかり閻美は左手を木に当て、空いている右手を自分という女の頬に当てる。

「閻美、ひとつ聞いてもいいか?」

 伊吹は迫っている者へ質問せずにいられない。おまえは正気かよってあきれた顔そのままに言う。

「いまは互いに入れ替わっているんだぞ? つまりおれはおまえで、おまえはおれという状況なんだぞ。おまえ……自分という女に迫ってほんとうにたのしいのか?」

 伊吹の質問はまともな感性ならもっともだ! であるが、閻美はニッと笑ってエロ星人みたいな声色で返すのだった。

「最初に言ったろう? セックスに持ち込み合体したところで元に戻るのだと、そうすれば伊吹とわたしは結ばれる以外はないと。それにだ、こうやって客観的に見てみると、わたしはいい女だなぁって思う。こんなステキな女にさみしい思いをさせたらダメだろう、ちがうか? 伊吹」

「ナルシスト……」

「ナルシストだからこそ愛が欲しくなるのだよ」

 伊吹になっている閻美、追いつめた相手の頬をいやらしく撫でている手を移動させる。それは着物の胸に向かっていき、サワサワっと思いやりっぽい手つきで撫で始める。

「く、やめろ!」

 弄ばれるような感じを嫌った伊吹、相手の手を払いのける。そしてなんとかこの状況から逃げられないかと、何かしらのアクションを取ろうとする。

「あきらめが悪い!」

 男が叫んで女の頬をはげしくビンタ。この部分だけ他人が見たら、伊吹は最低最悪の男でしかない。

「く……」

 ビンタされグラついたとき、着物姿の女は倒れるフリをして空中へ逃げようとする。それは一瞬だが成功するように思われた。しかし男は女の足をつかむと、そのまま思いっきり地面にたたきつける。

「こざかしい、こざかしいぞ伊吹」

 バッとかがんだ男、仰向けに倒れた女の上にかぶさると……両手で相手の頬をグッとつかみ顔を近づける。

「さぁ、そろそろショータイム!」

 勝ち誇る男が言うと、ダークな劇場を拝みたいと言っているのか、灰色の空がうなり始める。もしかすると早くやっちまえ! とかはやし立てているのかもしれない。だから雷が落ちそうな予感が太く生々しくなる。

「おぉ……自分、つまりわたしという女は魅力的だとわかっていたが、伊吹という男になって客観的に見るとこんなにすばらしいのか。伊吹、よくこんなの誘いを断れるなぁ、信じられん」

 もはやエロモードな男子高校生みたいなノリが止まらない。押し倒した女こと、他でもない自分を見つめながらステキだとデレデレするだけではまったく足りない。だからハァハァやりながら、胸元を開いて内側を確認しようとする。そして谷間を目にしたら歓喜。

「うぉ! わたしって、わたしってこんなに芸術的にナイスな美爆乳だったのか! おぉ……客観的に見ると……これはもう神の作品としか言い様がない。こうなるとわたしは思ってしまうな。男に生まれてこんな女と愛し合う方が、その方がもしかすると幸せなのだろうか? などと」

 もはや暴走をどんどん加速させるであろう閻美を止めることはできない。だから世界は悪しきお祭りみたいになっていく。

―ドーン!-

 ちょっと離れたところに落雷が落ちた。屋外で耳にすると心臓が止まるほど驚く爆音。しかし閻美はそれを空からの祝福だとか叫ぶ。

「いまこそ、我ら愛し合わん!」

 ドエロの大興奮って勢いで男が女の着物をグワっと淫らな開けに導いた。するとその瞬間、神のジャストミートとも言うべきタイミングですさまじい落雷が至近距離に発生。うっかり触れたら黒焦げ必死のすさまじいモノ。それは鼓膜が破れそうなほどの爆音と、太陽が3つ! とか思うほどのまぶしさが発生。そのとき伊吹は反射的に、だがここしかない! というところでバツグンに叫んだのである。

「スワップアウト!」

 それを閻美は両手で視界を覆っている最中に聞いた。しまった! っと思ったが間に合わない。自分がもう一度同じ事を叫ぼうと思った時には、もう落雷のパワーは消滅。

「は……」

 突然に閻美は自分の視界が変化したことにショックを受ける。見下ろしていたはずの自分が、つめたく固い地面に横たわっている。そして見上げる先には伊吹の顔あり。

「まさか……あんなタイミングで落雷が発生するなんて……」

 閻美は悔しくてたまらないという表情でつぶやきながら、着物の外にちらっと顔を出しているふっくら谷間に手を当てる。

「雷は正義……って事だな」

 伊吹はそう言うと立ち上がるように思われた。ところが体を沈めたまま、真っ赤な顔の閻美を見つめ下す。

「ぅ……い、伊吹……」

 なんだかんだいっても生まれ持った性別と体が一番。あれだけ興奮して暴れまわっても、結局いまの閻美は女としてトロっとした目で顔を赤くしまくっている。

「閻美……」

「なに……抱いてくれるの?」

「いや、でも……」

「でも、なに?」

「ま、閻美はいい女だと言っておきたいと思った、それだけだ」

 そう言った伊吹の手が頬に当てられると、閻美はうっとり顔で目を細める。しかしその時間は瞬きほど短く、すぐに伊吹の手は頬から離れる。あげく立ち上がると、倒れている閻美そっちのけに歩きだそうとする。

「ウソだろう、伊吹……」

「なんだ?」

「こんないい女が着物姿で地面に倒れているのに、知らん顔して立ち去ろうとするなんて。しかも着物はちょっと肌蹴ているんだぞ? 少しくらいは思いやりとかあってもいいはず」

「思いやり……」

「そう、こういう時はやさしい言葉のひとつでもかけて女を気遣う、それが男ってものだろう」

 そう言われた伊吹、いささか大げさに、それこそイタリアのオペラ歌手みたいに両腕を上げうなる灰色の空を見上げて言った。

「空よ、おまえにやさしい愛という名の心があるなら、この女に雷を落とさないでおくれ。空よ、おまえに気遣いという名の心があるなら、この女を不安にさせないためうなり声を止めておくれ」

 そうして両腕を下した伊吹、ポリポリっと右手で頭を掻きながら寝転がったままの閻美にさっくり言う。

「さっさと起きないと雷に撃たれてバーベキューになるぞ。じゃぁな」

 こうして伊吹はこれ以上つき合っていられないぜとばかり、ひとり歩いて立ち去っていく。

「くぅ……伊吹め……こんないい女を見捨てるとは、こんないい女を抱かないとは……」

 爆乳の谷間を隠し着物を整えながら、寝転がったまま閻美は不機嫌な空に向かって文句を言い放つ。

「おまえのせいだ、おまえが気を利かさないからいけない。この、役立たずのクソ野郎!」

 そんなことを口にしたからかどうなのかは分からないが、これまた天罰的なタイミングで大雨が降り始めた。最低……とうつろな目でぼやく閻美はしばらく仰向けのまま雨に濡れることとする。
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