息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

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79・誰からも好かれたいとか思う哀れな男1

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79・誰からも好かれたいとか思う哀れな男1


 午後6時という時間を時計が示したとき、残業の必要なしというのは快感のひとつ。グワーッと大きく背を伸ばし、くそったれな会社から離脱し、自分の時間とかいうのを満喫するよろこびの中にこそ人が生きている真の理由が含まれたりする。

「なぁ腹黒、今日一杯やらない?」

 気前良屋(きまえよしや)30歳が6つ年下の腹黒野蝋(はらぐろやろう)を職後の一杯に誘う。

「あっと、ごめんなさい、ちょっと持ち合わせが」

 野蝋が両手を合わせて片目を閉じ、一見すれば丁寧かつフレンドリーなお断りアクションが浮かぶ。だがどこかに胡散臭い感じがあった。そしてその反応を見た良屋は一瞬こう思う。

(またかよ……)

 そう、いつ誘っても気持ちよく応じないばかりか、金がないと口にするがほとんど。それは野蝋だけでなく、良屋の後輩とかいう連中はみんなそう。だからして気前良屋とかいう悪い意味で太っ腹な男は連中をうざいと思うにも関わらず、気前のよい男って姿勢を当たり前のように見せる。

「なんだよ、気にするなよ、おれがおごってやるから」

 これもまた、また出た……という部類のセリフとかアクション。

「本当っすか?」

 相手がおごってくれるとわかったら、一瞬の塗り替わりと言わんばかりに、それこそ純情みたいで泥っぽい小学生みたいな目を浮かべる野蝋。しかし話はこれで終わらない。

「あ、腹黒、おごってもらうのかよ、いいなぁ」

 いままで存在感ゼロだった外野の連中というのが突然ウジ虫のように湧く。そして彼らが期待したであろう流れを、そんなのイヤだ! と思っているはずの良屋がこしらえてしまう。

「あ、いいよ、おまえも来いよ」

 こうして結局は毎度のごとくおごる羽目になる。一人ではなく数人にだからけっこうな出費だ。一度として割り勘だの自分の分は自分でというカタチで飲み会った事はない。

「あ、ちょっと電話しなきゃ、おまえら先に居酒屋「カモネギ」に行っておいてくれ」

 良弥はそう言うとスマホを持って後輩たちのまとまりから離れる。そして通りの横道に入りタバコを咥える。これはいったい何かと言うと、電話する理由や必要など本当はない。つまり一度後輩たちから離れる必要があったのだ。なぜなら彼は居酒屋へ入るその前に、別の場所へ足を運ばねばならなかったから。

「えっと……とりあえず念のために4万くらい持っておけばいいか」

 一人つぶやき金を下ろす良屋がいる。それが銀行で自分の口座ならまだいいのだろうが、向い合うのは消費者金融のマシーンである。

 気前良屋30歳。年齢が上昇するにつれ友人がいなくなった。自分にも問題があると自覚しているが、その悪い自分というのを直せてはいない。彼はつまるところ他人によく思われなければ怖いという悪癖が幼い頃からあり、他人から好かれる自分こそ正しいとまちがった考えを崇高に抱いたので、いつだって他人からの評価はやさしいだった。そしてやさしいと言われるのにずっと孤独だった。

「今月はこれくらいで使うのをやめておこう」

 とりあえずの4万円を財布に入れるこの男は貯金に余裕がない。さみしい人生を送るとつまらない事に散財するため、イザという表現を用いて消費者金融を利用していた。

「いただきまーす」

 居酒屋で後輩たちと飲み食いする。それはとっても盛り上がる。後輩たちは一応にフレンドリーだし、財務大臣こと良哉の話も聞いてくれる。年齢差が6つほどあれば少し偉ぶった態度をとってもサマになるからして、大体の時間は良屋が大人の男を演じることに費やされる。

 しかし……良屋の心はキモチのいい満たされは生じない。むしろ逆である。豪華なメロンを食べているはずなのに水で薄められていてまずい! と思うかのごとく、盛り上がりに心の交流が感じられない。薄っぺらいのか上っ面だけだからなのか? いずれにせよ居酒屋のテーブルに起こるたのしそうな絵図というのは、中身で語ればスカスカの汁みたいだった。

「ごっちゃんでーす」

「あざーっす!」

 こういう事を後輩たちが上機嫌で言う。屈託のない笑顔を見せると、彼らは18歳くらいに見えなくもない。それらは親心を演じる側にウソっぽい満足感を与える、ほんの短い間だけ。

「ん……」

 夜、居酒屋での盛り上がりが終わり……後輩たちが去ると急に心が沈む。やっぱり予想していた通りだという感覚に突き落とされる。

「さみしいってか……」

 誰に対して言ったのかはわからないがつぶやいた。そして駅に向かって歩く最中、何度となくたのしそうな集団やらカップルを見てはうらやましいと思ったりした。

 良屋という男、父親がえらく怖かったという負の歴史を持つ。父親は自分が恐怖政治をしたとは思っていないが、何かにつけてふつうではなかった。本人のふつうは一般的ではなかった。だからして何かにつけてケンカ腰な口調であり、何かあるとすぐさま怒鳴る。ちょっとした冗談を放つのも命がけみたいな空気を家の中に充満させたのである。そうなると通常の営みにもはげしいプレッシャーから逃げられない。

 良屋が他人の目を気にするとか、他人に好かれたいと哀れに思う理由のスタート地点というのは、異常におそろしいと思った父親に怒られないようにしたいと考えた事。それは不幸の始まりだった。怒られたくないのでウソっぽくなる。そしてたしかにウソがうまくなり、悪気はないのに良屋自身が友人などを裏切ったりする。裏切っておきながら寂しいからもっと好かれたいと思う。だから彼は昔から密かにこう言われてきた。

―気前良屋は人を安心させておきながら簡単に心を裏切るクソ野郎だー

 おかげで30歳になると友人がいなくなった。当然なのか、それとも別問題として考えるべきなのかはわからないが、彼女とかいう存在もいない。さらにいえば職場において、彼は年上からは好かれなかった。そして彼自身、年上に好かれなくてもいいと思ったから、その反動は同じ年もしくは年下に向く。特に扱いやすい年下に媚を売る度合いは強かった。

(ふぅ……)

 両親と共に暮らす家にたどり着いた。子供の頃、あれだけおそろしいと思った父親は白髪が混じり少し人間が丸くなった。そして父親は息子と本音で深い話し合いをしたことがないと残念に思っているが、当の息子は都合のいい事を抜かすんじゃねぇ! と腹立たしく思ったりする。

「やっちまった……あいつらにおごっても楽しいと思わないのに消費者金融で借金して居酒屋とか、もう止めようと思っているのにまたやっちまった」

 お約束の後悔が沸く。あんな事をするならマイルームで一人酒とつまみにおぼれた方がよかったと、やるだけやってから後悔する。しかしそれは初めての事ではない。今まで何回もやっており、時間が立つとまた同じことを依存症として繰り返す。

「おれ……いい人生送れそうにないな……ってか……もうダメだろうな。人間を変えたいとか10代の頃に思ったはずだけれど、結局変われなかった。もうずっとこんな感じなんだろうな、ずっと、ずっと、ずっと……」

 ベッドに寝転がる男が哀れな声を出して天井を見上げている。ここだけ見れば気の毒な絵姿そのもの。しかし明日になればケロッと忘れてしまう。実に不思議なモノで、心につまらない傷を持った者ほどその痛みにおぼれるくせして、あっさり痛みを忘れるように出来ていた。
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