息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

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96・いけない先生と悪夢8

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96・いけない先生と悪夢8


「太一、早く下りて来なさい、太一!」

 母が階段の下から呼びかけるも応答はない。シーンと静まった感じだけが上から下に流れてくる。

「まったくもう……」

 仕方ないわねぇと母は階段を上がってすぐさま部屋のドアを開けた。そして太一! と言ってすぐ空っぽの空間に目を丸くする。いない? と思いながらベランダ側のドアを見て、まさかそこから外に出た? とまた両目を丸くするのだった。

「どうかしましたか?」

 居ても立ってもいられない澱夢は下から母に声をかける。するとどうだ、申し訳なさそうな顔の母が降りてきて言うには、勝手に外へ出て行ったとか言うではないか。

(あのガキ……)

 一杯食わせやがったな! と怒りが湧くものの、とりあえずよい教師という外面を保ったまま、今日はこれで失礼させていただきますと母に言う。太一が帰ってくるのを待つというのは残念ながら選択肢に入れられないからだった。太一が警察に行ったりする前に捕まえて殺すしかないせいだ。

「しおらしい態度って演技力、見事だったぞ中野太一。だが絶対に逃がさん!」

 中野家を出て車に乗った澱夢、太一が交番に行くとすればあそこだろうと猛スピードの運転を開始。ここからもっとも近い交番は歩いて20分くらいの所。それ以外の場所に行く可能性もあるだろうが、少年が置かれている状況からすれば一番近いところへ行くだろうと踏む。

「おらおら、どきやがれくそったれのアホ共がぁ!」

 車内で怒鳴り散らし猛スピードの爆走。いつ人をひき殺してもおかしくないが、神がかり的なドライビングで人間潰しを回避。

「いた! 見つけたぞ、中野太一!」

 暴力的な運転をしている者は必死に走る少年の姿を歩道に見つけた。ハァハァ息を切らしている事が背中に浮かんでいる。

「ハァハァ……は、早く、早く交番に……」

 酸欠になりながらも、両目を回しながらも太一は走っていた。もうすぐ、もうすぐと自分を励ましながら走れメロスみたいに汗を流す。

 だがそのとき、突然後ろから激熱な殺意を感じた。ハッと振り返ってみると、一台の車が歩道に乗り上げ猛烈な速度で迫ってくる。

「死ね、中野太一!」

 車が太一めがけて突っ込む。しかしそこはさすが小学6年生。大人にはない反射神経と動きにより華麗に回避! 冷たく固い地面をゴロゴロっと回る。

「あぅぅ……」

 痛い……とか思っていたら、ドーン! とすごい音が発生。すぐそこにあったバス停に衝突したせいだ。しかしそれは太一が進むべき方向を車がふさいだ事になってしまった。

「く……」

 太一、一瞬横を見たが車の流れが多く途切れないので向こうへ渡らんと飛び込む事ができない。だからせっかく走ってきた道を出戻りのごとく走り出すしかない。

「絶対に逃がさん!」

 運転席から外に出た澱夢、ハァハァ息を切らしながら走り去る少年の後姿を見て、こうなったら意地だとブチ切れた。周囲に他人の目があるとかいう事実なんぞどうでもいいとなってしまう。だから両手をグッと握り左の脇を閉め、青天の空を見上げながら右腕を突き上げ大声で叫ぶ。

「ヘッビーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 するとどうだ、青天の中にバリバリっと空気を破くような音が鳴り光が走る。そして澱夢はヘビ男に変身した!

「逃がすかぁ!」

 ヘビ男のダッシュが始まる。周りの人間はキャーッとか言って驚いているが、そんな事はもうどうでもよかった。

「え、えぇ……」

 ヨレヨレで立ち止まり寸前だった太一、振り返ってヘビ男の姿を見ると仰天。ぶっ倒れそうな自分に最後の力がイヤでも湧いてくる。

「ハァハァ……つ、つかまってたまるもんか……あ、あんなのにつかまって殺されるとかそんなのって」

 太一は逃げる。若いスピードがグッと増す。だが追いかける方の顔には余裕って文字がたっぷり濃厚に浮かんでいる。

「逃げろ逃げろ、でもムダムダぁ! ヘビは狙ったネズミは絶対に逃がさないんだ。中野太一ぃ、おまえが汗を流すとそのニオイが伝わるぞ、それまるでネズミのションベンみたいになぁ。ほーらほら、そうして必死に焦って走るから、不思議なモノでどんどん人気の少ないところへ進んでいく。いいよいいよぉ、もっと逃げろ、もっと逃げろぉ」

 少しずつ確実に両者の距離が縮まり始める。猛烈なスピードで逃げるしかない太一にしてみれば、基本的に直進しかできない。真正面にコンビニでも出現すれば飛び込んで店員に助けてもらうとかできるかもしれない。だが必死になって走っているいま、側面にある建物へスーッと飛び込むのができない。できる事はせいぜい、前方に見える曲がり角に入ろうってモノだから、そうする事によりますます人気の少ないところへ逃げ込んでいく。

「ハァハァ……い、息が……」

 太一の前に広がるおよそ一直線の道路。一応、左側はコンビニやら飲食店の裏側が並んでおり、右側にはいくつか家が並ぶ。クタクタになっている今立ち止まると体が動かせなくなるから、助けてくれと家に飛び込むより先にヘビ男の餌食になるだろう。

「に、逃げられない……」

 ガス欠は突然にやってくる。持っていたエネルギーが底をつき、体が急に冷たくなり、プールの底へ沈むことを拒めない感覚に襲われる。

「ぁ……」

 止まったらダメだ……そう思っても体はいう事を聞かない。ガス欠にたどり着いた肉体は死人のようにひんやり鈍くなるのが世の常。

「キェェェェ! ヘッビーキーック!!」

 叫ぶヘビ男が宙を舞ったら、そのまま太一の背中にすさまじいケリをお見舞いする。

「あんぅぅ!!!」

 ズサーっと音を立て無慈悲に固いコンクリートへ倒れる太一。そうなるともうガス欠の体は立ち上がれない。しかし殺されたくないという思いが動かせないはずの体を動かす。

「し、死にたくない……」

 うつ伏せに倒れながら、ズルズルっと必死に這いずりだした太一がいる。

「ほぉ、あきらめの悪い。こういうのを見ると弄びながら殺したくなるなぁ。中野太一、いいぞぉ、そのあきらめの悪さ、見ていて興奮しそうになるぞぉ」

 ヘビ男のイヤらしい声が聞こえても、太一はつかまりたくないと必死で這いずる。するとあっちこっちから人がやってくるであろう声やら気配が発生。太一は限界寸前のか細い体力で這いずりながら、どうせならたくさんの人が来て欲しいと思ったりする。

「チッ……ウジ虫が湧いてきたか」

 そうつぶやいたヘビ男、ファイティングポーズを取ると左右! とストレートを放ってから叫んだ。

「邪空間!」

 するとどうだ……世界の色が変わってしまった。道路を必死に這いずる太一もそれがわかる

「灰色の世界……」

 そう、景色は同じだが人の声も気配もない、そして色も生気もない芸術性に満ちた灰色が世界を包み込んでいた。
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