息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

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138・愛しのスーパードールまりあ11

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138・愛しのスーパードールまりあ11

 
 午後9時、ラブホテル、月の光がほどよく入って照らされる室内のベッドで、いま和磨と由紀が心と体を求め合う。

「ハァハァ……内田、内田……」

 和磨は本日自分を縛り続けてきた壮大な憂鬱が、由紀の温もりに包まれることで溶けていくように感じている。その心地よさと安心感はあまりにも甘美でまぶしく、脳内から余計なモノすべてを消し去ってくれる。

「ハァハァ……先輩、先輩……」

 揺さぶられる由紀、もう少し体を沈めるよう促す。そして夢中になっているパートナーに抱きつくと同時に、パートナーをやさしく抱きしめる。

「う、内……」

「先輩……」

 由紀がやさしく和磨を包み込んだとき、まったくただの偶然として、雨降りの外に雷が発生。それはあまり大きな音ではなかったから、愛し合う2人の妨げになったりはしなかったが、小さな落雷が生じたとき……和磨と由紀が結ばれた。偶然にしてはあまりに出来すぎたタイミング、まるで夜の神に愛を祝福されているかのごとし。

―完全に溶け落ちたー

 和磨、かなり長く事後のキスを由紀にやっていたが、それが終わって落ち着いたとしても熱量が減らないと自ら衝撃を受けていた。シャワーを浴びながら、本来であればまりあの事を思い裏切ったことに後悔するはずなのに、まだ足りない、もっと由紀と愛し合いたいとうずく自分がいると自覚。

 結局、2人は朝帰りしてから出社という事ができなかった。無我夢中になって愛し合えば時間はいくらあっても足りない。午前6時に最後の営みが終了した以上、一度帰宅するなんて事は不可能。

「内田……」

 雨が止んできれいな晴天という朝の光が室内に差す中、和磨はシャツのボタンを閉じながら、Fカップブラにふくらみを整えている由紀に言った。

「も、ものすごく……よかった。もっと言えば……」

「もっと言えば?」

「まだ……全然足りないってくらい内田が愛しい。もっと愛し合う時間が欲しい、仕事をさぼってここにい続けたいくらいだ」

「先輩……わたしも……です」

 2人はそう言ってひとまずはラブホテルを出た。今まで違う世界が見えるとか思いながら朝マックをやり、少しばかりイチャイチャしながら歩いたりして出社。そこまではふつう的に流れた。

 だが……お互いにもっともっと愛し合いたいと愛の燃えるスイッチが入っているゆえ、本日の仕事が終わったらすぐさまラブホテルに行くこととなった。

 止まらない、止められない、やればやるほど相手が愛しくなって渇きが止まらない。2人は愛の営みに体の勢いが許す限りおぼれた。そしておぼれながら手を取り合い何度も互いを確認。

「さすがに、今日は家に帰らないとな」

 午前1時、ラブホテル前で別れるのがつらいって目を由紀に向けながら和磨が口にする。

「先輩、数時間後にはまた職場で会えますよ」

 由紀はまるで年下の少年みたいになっている和磨にチュっとキスをプレゼント。そうしてタクシーに乗り込むと、さみしそうな顔の男に手を振って去っていった。

「内田……」

 由紀の事を想うと胸が空っぽになる。帰りのタクシーに乗りながら、とてもさみしいって紫色の炎に胸を焼かれる和磨がいた。

(内田……)

 和磨はポーっとした目で思う。バカみたいな勢いであれほど愛し合った直後だというのに、それがなかったかのように恋しいと。由紀の体温が恋しい。由紀の体からあふれるあのいいニオイが恋しい。由紀の声が聞きたい。由紀の豊かでやわらかい胸のふくらみに甘えたい。そして由紀の温もりで結ばれたい。そういう感情が無限資源のごとく湧いて止まらない。

「お客さん、着きましたよ」

 運転手に言われてハッと我に返る。由紀の事ばかり考えていたら、時間は矢のように過ぎたと少しおどろく。

「どうも」

 そう言ってタクシーから離れた和磨、夜のアパートを見ながら、なんとなく夢から現実に戻ったようなイメージに脳をゆだねる。

「ん……ぅ……」

 歩き出すと大変に奇妙な気分だった。自分は今までどこにいたのか? なぜ自分はここに戻ってきたのか? ここはいったいどこでなんという名前なのだ? などなど、摩訶不思議を気取るようなフィーリングに包まれる。

「寝てるか……」

 室内の電気が消えている事は外からわかる。だから鍵を差し込み、ガチャっと回してからドアを開けた。暗いが見えるというアパートの空間を見ると、何十年ぶりに戻ってきたみたいな感覚に襲われる。
「ふぅ……」

 ひとまず電気をつけて靴を脱いだ。そうして顔を前に向けると、まりあの姿があるのでびっくりする。

「ぅ……あ、まりあ……」

「お帰りなさい」

「う、うん……ただいま」

 和磨がなんとなく気まずさを持って歩き出すと、グッと腕をつかまれた。そしてこんなに長く帰ってこられない仕事とはいったい何なのか? と問われた。

「そ、そりゃぁ、色々あって」

 言い訳の準備不足ゆえ戸惑う和磨だったが、不意にまりあに抱きつかれる。ムワーっと女体のいいニオイがして、ボワン! っとたまらないボリュームのやわらかい弾力が当たる。

「あっと……」

 和磨、ここで展開を読み違えた。まりあがさみしかった……とか言って、それをなだめてやるって物語が起こると信じて疑わなかった。だからまりあの頭に手を置き軽くなでるのだが、突然まりあが予想外の事を口にする。

「ちがう……」

「え? ちがうってなにが?」

「これ、わたしのニオイじゃない、これ……他の女のニオイ」

「え、え……」

 まりあ、ドキッと慌てる和磨のスーツをグッと両手でつかむと、顔を押し当て警察犬のようにクンクンやり始める。

「ま、まりあ……」

 急に今まで感じていた夢みたいな感じが冷えた。これはちょっとヤバいかもと、頭が現実に強制送還されていく。

「ちがう!」

 まりあ、怒り交えた大きな声を出し和磨を突き飛ばした。ガシャって乱れるような音がしたのは、突き飛ばされた和磨が居間のイスに当たってひっくり返ったからだ。

「他の女のニオイが一杯する。それふつうじゃない、ありえないほど濃厚にたっぷり。和磨くん……どこで何をしていたの?」

「ちょ、ちょっと待って、話を聞いてくれ」

 和磨、そう言って立ち上がろうとしたら上着のポケットからスマホを落とす。あ、やばい……と思ったら風速みたいなスピードで動いたまりあがそれを奪い取る。そして画面を見てつぶやいた。

「愛しの由紀? 愛しの由紀から着信?」

 それは和磨がタクシーに乗っている間、由紀がちょっと電話したというお知らせがディスプレイに表示されているゆえの流れだった。消音にしてバイブも無しにしていたから気づかなかった。そしてまりあに見られるわけがないと油断していたから、由紀という名前ではなく愛しの由紀という名前で登録していたわけである。

「あ、いや、それは違うんだ」

「なにがちがうの? 由紀って女だよね? 由紀って名前の男なんかいるわけないよね? 和磨くん、わたしがずっとさみしく心配していたとき、どこで何をしていたの?」

「そ、それは……」

 慌てれば慌てるほどうまくしゃべれなくなる。うまくしゃべれないからさらに慌てる。もはや和磨は自滅の沼にハマったも同然。

「浮気したんだね? わたしって女がいるのに浮気したんだね?」

 まりあ、オドオドしながら立ち上がれない和磨を見下ろしながらゆっくり歩き、台所から包丁を取り出す。

「ま、まりあ? 何をやっているんだよ」

「和磨くん、わたしずっと待っていた。ずっとさみしかった。でも和磨くんはわたしだけを見てくれると信じるから耐えられた。まさかそんな、浮気で裏切られるなんて考えもしなかったよ」

 いま、包丁を持つまりあの目がけわしくなり始めている。無表情っぽい感じの中に、燃え盛る怒りの炎が立ち上がっている。
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