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155・コロッセオでの戦い5(フェスティバル・オブ・バトル)

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155・コロッセオでの戦い5(フェスティバル・オブ・バトル)

 
 息吹とグラディアートル、双方がVS猛獣ショーを終えて休憩の30分が経過。ついにいよいよ息吹VSグラディアートルの本番が開始となる。

―ワァァー
 
 また嵐のごとく湧き上がる大歓声。そしてその中に混じる物騒な声援。目の前にしたメインディッシュで早く快感の鼻血ブーになりたいと観客の狂いは最高潮に達している。

「家満登息吹、私怨はないが葬らせてもらう」

 グラディアートルが向き合う息吹につぶやく。

「悪いが、葬られるって趣味は持っていない」

 息吹、スタジアムの中央に立ち向き合う対戦相手につぶやき返す。そんな2人から離れた所に立っているブ太郎がマイクを持ち、観客の興奮を煽るようにに大声で叫ぶ。

―Let’s Fight!-

 始まった、観客の歓声が100度になった湯沸かし器のごとく吹き上がる。そうして両者が同時に動いた。

「うむ!」

「んぅ!」

 がっちりと両手を合わせ組み合わせ、双方が力比べに突入。うぐぐ……っと全身に力を入れ相手の手を握りつぶさんとばかり張り合う。

「おおおおおおおおお!!!」

 グラディアートルから白いオーラがボッと立ち上がり始めた。

「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 息吹からは青いオーラがシュボ! っと立ち上がり始める。すると地面が揺れ両者の足元が少し沈む。

「ふむぅ!! 家満登息吹!!

「うぅあぁ!! グラディアートル!」

 揺らめく色違いのオーラ、どちらも相手を押し込まんとありったけの力を手に込める。

「息吹家満登」

「なんだ、グラディアートル」

「この勝負、何があっても勝たせてもらう」

 ここで突然に組み合っている中でグラディアートルの頭が向かってきた。ほんの一瞬焦ったが間に合うはずもなく、ガンガンと数回固い頭を顔面に食らって息吹がよろめく。

「ダーイ!」

 グラディアートルが叫んだ。そして横蹴りが息吹の腹にまともに入る。

「ぁう……」

 組み合いが解け倒れた息吹の体が滑り流れる。

「勝機!」

 早くも勝負を決めるとばかり宙に舞い上がるグラディアートル、にぎった右手を息吹に振り下ろせば決まると確信。

―ドーンー

 着地と同時に強烈な右を打ち込んだグラディアートルであった。実際、固い地面が割れて破片が宙を舞うくらいの破壊力はあった。

「む!」

 ハッと顔を上げて前を向くと、そこには刀を振らんとする息吹の姿がある。

「もらった!」

 シュワ! っと刀が下から上に振り上げられる。それは屈んでいるグラディアートルにはもっとも避けづらいモノと思われた。

「ん……」

 刀を振り上げた息吹が目にしたのは、バック宙して逃げる相手の姿だった。

「やるな、家満登息吹」

 言ってスタっと着地するグラディアートル、相手が侮れない事を認める。それゆえ早めに勝負を終わらせたいと考える。

「閻美殿にホレた男として絶対負けるわけにはいかんのだ!」

ここでグラディアートルはかがみ込む。そうしてその体勢のまま片足だけを伸ばす。一見するとコサックダンスを始めそうな形だが、VSライオン戦で見せたようにそのままコマのようにグルグル回転し始める。

「いくぞ! グラディアートル・スピン!」

 叫んだ男の体が動きだす。それは自意識で自由に動く凶悪なコマのようであり、息吹に向かっていく。その回転の速さからすると、伸ばしている足は完全なる凶器であり、まともに食らうと激にヤバい事は確実。

「はげしく器用な技だな……だが上はガラ空きだろう!」

 息吹がダっと空に舞い上がる。どれほどの高回転で周囲をグルグル回るコマ人間になろうと、しょせん上にはこれまいと思っての事。

「甘い、甘いぞ家満登息吹!」

 なんということだろうか、グラディアートルは激烈なスピンで回り続けたまま、突然宙に舞い上がったではないか。

「なにぃ!」

 これには空中にいる息吹もビビった。上から下に刀を振り下ろそうとしていたゆえ、突然に回転したままの敵が目の前に来ては一瞬身動きが取れなくなる。

「波!」

 ここで突然に高速回転中の相手より気合砲が放たれた。0.1秒くらいだろうか、空気が歪んだように見えたものの、避けるような動きを取る間もなく、息吹の体に直撃した。

「あんぎぎぎぎ……」

 ドーン! 空中から地上に落下した息吹、イテテ……と言いながら立ち上がる。なんて攻撃しやがるんだ……と、妙な感心を持たされたりもする。

「ハハハハ、息吹、どうやら勝負が見えてきたようだな」

 いまだに回り続けたまま空中から地上に着地するグラディアートルに対して、息吹は吐き捨てる。

「気が早いんだよ。それにしてもまぁ、よくまぁ回り続けられるもんだ。それって目が回らないのか」

「この佐藤グラディアートルは厳しい鍛錬に耐えているからだいじょうぶだ。おどろくなかれ、72時間回れますか? と言われてイエスなのだ! どうだ息吹、おまえにこういう芸当はできまい」

「フッ」

「なにがおかしい!」

「たしかにな、そんな形でひたすら回り続けるなんて事はできない。だが、回れはしなくても流れるように泳ぐことはできるんだぜ?」

 息吹、刀の先を地面に向けるとクッと両足をつま先立ちに変える。そしてよく目が回らないモノだと言いたくなる相手を見ながら、左手をクイクイっと動かして挑発。

「ならば見せてもらおう、泳ぐとはどういう事か」

 煽られたグラディアートルの成す回転体が巨大にして凶悪なコマとして息吹に向かっていく。

「なに?」

 回転しながらグラディアートルがおどろいたのは、息吹の体がスーッと流れるように後方へ下がったあげく、グッと円を描くようにも動いたからだ。それはまるで宙に浮いている幽霊が自在な舞を見せつけているようだった。しかも襲ってくるコマにも劣らぬスピードだから魔法使いのようだと言えなくもない。

「家満登息吹……いったい何をしている!」

 回転刃物みたいに回り続けるグラディアートルがイラついたような声で説明を求めた。

「なぁに大した事じゃない、ただのムーンウォークだ」

「ムーンウォークだとぉ?」

「言うなればスーパームーンウォークだな」

「おのれ、器用なやつめ」

 グラディアートルは相手が予想外の動きをする事に小さくイラついた。スーパームーンウォークではただ動くだけの精いっぱいのはずだと思い、流れるように逃げる息吹を追いかけながら攻撃を仕掛ける。

「波!」

 回転しながら放たれる気合砲というのは、たしかに威力がある。近い距離からの発射なので、まともに食らうとピンチにつながる。

 しかし……グラディアートル曰く、実に憎たらしいって話だった。あまりにも華麗な滑り逃げをやりながら、一方では刀で気合砲を斬り裂いたりもする。それはちょっとしたエンターテイナーみたいな姿。

「たしかに見事だが……防戦するだけか!」

 イラ立った声をグラディアートルが放つ。

「そんなわけないぜ」

 息吹、あざやかに滑り回りながらクイっと刀の向きを変えた。そして向かってくる気合砲を刀で斬った……ではなく、打ち返した。

「なにぃ!」

 グラディアートルが叫んだ瞬間、跳ね返ってきた自分の攻撃をまともに食らった。だから凶悪な円盤としてグルグル回り続けていた男が、背中から転がり回る。そうして息吹もスーパームーンウォークを止めて言ってやる。

「な、防戦するだけじゃない、攻撃だって出来るんだよ」
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