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メイド喫茶でアルバイト1

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メイド喫茶でアルバイト1

「いっしょにアルバイトやろう、メイド喫茶で」

 奏楽がそんな提案をした。それは晴天が脳みそを活気づける水曜日の午後だったが、学校帰り中の由良は目をパチクリさせつぶやく。

「アルバイト? なに言ってんの?」

 中1でアルバイトなんかできるわけないじゃん! と、由良がサラっとつめたい感じで続けると、奏楽は少し得意気な顔でそうでもないと言った。

「今どきは中学生でもアルバイトで雇ってくれる店はけっこう普通にあるんだよ……」

「うっそぉ!」

 由良、奏楽の腕をつかんで立ち止まると、変な話に首を突っ込んでいない? とマジに心配する。でもそれはムリもないことだった。

 昨今、悪の手引きがネットにたくさん転がっている。申し込むと最後、悪の片棒を担ぐ事となり、拒否すれば身内が巻き込まれるという不安に襲われる。だから逃げられず犯罪者となったりする。

「あ、だいじょうぶ、もう面接は済ませているから」

「ちょっと、面接ってどこの店でやったの?」

「〇〇駅の裏側にできて間もないメイド喫茶、そこで水曜日の夕方に話をしたんだ」

「うっそぉ、それで雇ってくれるわけ?」

「土曜の午後と日曜日の数時間という話で」

「親は? まさか内緒でやるとか言わないよね? そういうのは危険なんだよ?」

「親も認めてくれたんだ」

「えぇ!」

「社会勉強に年齢は関係ない、がんばれ! と言ってくれた」

「そんな事ってあるんだ……」

「で、由良もいっしょにやろう」

「なんでわたしが……」

「ん、だってほら、由良ってかわいい上にすごい巨乳じゃん、絶対アイドルになれると思って」

「そんなアイドルになる気はないんだけど」

「でも、相棒のわたしがやりやすくなる」

「人を利用するのかよ!」

「まぁまぁ、おちついて考えてみてよ」

 歩き出した奏楽は人の心を刺激するような、自分の思い描きに人を巻き込む魔力みたいな声で語り出すのだった。

 ド短期でちょこっと稼ぐだけでもいい。なぜならそれでも夏休みを有意義に過ごす事は可能になるからである。

「欲しいときに冷たいアイスにドリンクを買って、避暑しに行った場所で遊んだり買い物もできる。それに由良、今年の夏は……やりたいと思わない?」

「なにを?」

「鈍い! 夏といえば泳ぎ、泳ぎといえば水着、由良に水着といえばビキニじゃんか」

「あぁ、まぁ……そろそろやってみたいって気はしている」

「でしょう! そういう時にさぁ、親に頼んで色々言われてどうのじゃなく、自分のお金でサッと買えるってステキと思わない?」

「言われてみれば……」

 由良の中1ながら94cmというふっくらなふくらみの中に、お金は自由、自由は何より尊い! なんて感じが湧き上がる。

「夏休みが始まるまでのド短期だからさ、社会勉強としてはすごくいいと思うんだ」

 奏楽が攻め込む。社会勉強という立派な響きは、金が欲しいんじゃ! という意識を正義に変換する威力となる。

「ちょっとだけなら……やってみようかな」

「そうだよ、由良はいずれ巨乳アイドルとして輝くべく存在なんだから、その練習だと思えばバッチグーじゃん」

「わかった、ただ……親に内緒でコソコソやるのはイヤだから、帰ったら親に相談する。それで認めてもらえなかったら素直にあきらめる」

「わかった、待っているから報告してよね」

 由良、相棒の奏楽とバイバイしてから……急に少し怖くなっていく。

「え……アルバイト……メイド喫茶で?」

 これって夢じゃなく現実? なんて自分のむっちりほっぺをつねったりもする。

「ぅ……」

 得体の知れない緊張で軽い腹痛まで生じてきた。止めようかな……親が認めてくれなかったというウソで話を終わらせようかなとか思い始める。

 すると、由良の性格をよーく知っている! と言わんばかりのタイミングで奏楽からメールが来る。がんばれ! と応援しているようでありながら、実は由良に対して逃げたら許さないから! と圧力をかけているようなメッセージ。

「わかったよもう……」

 やはりウソはよくない。約束を破ってはいけない! ということで、由良はとりあえず母に相談はしようと決意。

(まぁ、お母さんが認めてくれるわけないしね。相談した上で拒否されたら、それは仕方のない事だから、わたしが胸をモワモワさせる必要はないんだ)

 ただいま! と、自分を奮い立たせるような声を出した由良、おかえり! と居間から返した母親のところへ向かっていく。
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