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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第八十九話 夜逃げから始まるダンジョン攻略! ⑳
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いやぁ~、まさかこんな事になっているとは影光たちには悪いが実力向上と利益のために頑張って貰うとしよう。ま、アイツらの実力を考えれば異常なほど多いと言っても死にはしないだろう。
そんな俺の横で煙草を吸っているアリサはどことなく、上の空……いや、現実逃避をしていた。きっと俺とクレイヴの会話をイヤホンで聞いていたからだろう。
アリサは自由奔放な性格をしてはいるが、仲間を見捨てるような奴じゃない。だからこそ影光たちが苦労している理由が俺たちにある事に若干ながらも罪悪感を感じているに違いない。
いつも以上に速いスピードで煙草を吸い終わらせ、新しい煙草を咥えようとするアリサと目が合う。
「………」
「………」
しかし俺とアリサが互いの目を見つめ合いながらも一言も発しようとしない。別にこのあと愛の告白をするわけでもでもなければ、そんなロマンチックな展開を互いに求めているわけじゃない。
別にアリサが魅力的じゃないと言っているんじゃない。
アリサは同じ女性が嫉妬するほどスタイルが良い。出るところは出ているし、引っ込めるところは引っ込んでいる。まぁ……アリサの性格と一緒で胸だけは異常に自己主張が強いが。じゃなくて!
その獰猛な獣に似た鋭い目と顔、そして綺麗なプロポーションから誘惑や魅惑と言った女性の色香とは違った危険な匂いを漂わせている。
そのためもしも誘われれば俺は断れない。いや、断らないだろう。それぐらい綺麗な女性だ。
しかし俺たちの頭を過っているのはそんなそんなエロい事やロマンチックな事じゃない。
もっと単純でゲスい事だ。
「「よし、探索を続けよう」」
互いの意思が重なり合い、見計らったわけでもないのに同じタイピングで同じ言葉を発した。
ある意味互いの意思が繋がったとも言えなくはないが、きっと俺とアリサの思考パターンが似ているだけだろう。
嫌な事に関しては見なかった、聞かなかった事にする。ま、現実逃避ではあるが、それが世の中を渡り歩く上で一番必要な能力でもあるからな。
************************
イヤホンから聞こえて来るクレイヴとあのバカ虫のやり取りを聞いて嘆息する私はヘレンと愛莉、そして親愛なる主様と共に南方を探索をしていた。
探索を開始して既に20分が経過していた。
時々、数体の魔物と遭遇するだけでこれと言った成果は上げられていない。討伐した魔物も支配された痕跡もなかった。
やはり南方は外れだったのかもしれない。これではあの阿保虫に自慢できない。今度こそ私の眼前で土下座をさせ、ご主人様からの信頼を全て私に向けさせるははずなのに、これではタイミングよく情報を開示した意味がありません。
あのバカ虫が言った通り私は既に壁画の情報に気付いていました。目やあの線についても。まさかあのバカ虫が線に気付くとは予想外でしたが、仕方ありません。
誰もが新たな情報を欲している時に新たな情報を提示する事で己の有能さをアピールする。これこそ最も効率良く有能さをアピールしつつ信頼を勝ち取る方法です。
にも拘わらず、どうしてご主人様はあのバカ虫にこれほどまでの信頼を向けているのか不思議でなりません。
ご主人様とあのバカ虫が腹立たしいですが、同じ場所で数年間共に暮らしていた事は知っています。そこで培った信頼関係がそう易々と揺るがない事も知っています。
しかしここ最近では殆ど行動を共にしているのはこの私。今も一緒に行動していますしね。
にも拘わらずあの蛆虫以上の信頼を勝ち得ないのはどうしてですか!
ま、確かに戦闘能力の一点においてではありますが、あの蛆虫は私より上を言っています。
しかし、それ以外では私の方が有能なのは間違いありません。
掃除洗濯と言った家事全般からご主人様のお世話まで全て私の方が有能です。
戦闘面においても応用性と言う意味であれば私の方が軍配が上がるでしょう。
なのにどうして未だにあの蛆虫に勝てないのか理解不能です。
やはり私の知らない何かがご主人様とあの蛆虫の間にあるのでしょう。不愉快極まりないですが。
そしてそれを無理やり壊そうものならご主人様に嫌われる。いえ、敵と判断されるのは間違いなく私でしょう。そうなれば間違いなく、殺されるのは私。
はぁ……高確率で信頼を勝ち得るには地道に行くしかないようですね。本当に不愉快極まりないですが。
気が遠くなりそうな目標。
その間、あの蛆虫が調子に乗る姿を想像するだけで沸々と怒りが湧き上がって来る。
しかしどうしようもない現実に逆に頭が冷静になり、思わず嘆息する。
「どうかしたんですか?」
そんな私の姿を見ていた猫娘が怪訝の顔で問いかけて来る。
「いえ、個人的な事ですのでお気になさらず」
「はぁ、分かりました」
怪訝の表情を崩す事はない猫娘ですが、私の声音からこれ以上追及するのは良くないと判断したのでしょう。それ以上質問してくることはありませんでした。
それにしてもこの猫娘、中々の実力者ですね。
冒険者ランクで言えば間違いなくAランク相当の実力者。
ヘレンと同等の強さぐらいでしょうか?
しかし以前見た彼女の戦いっぷりを見る限り、魔法は肉体強化魔法のみであとは身軽な身の熟しと双剣術を組み合わせた戦闘スタイル。ヘレンと酷似した戦闘スタイルですが、ヘレンはあの忌々しい蛆虫に教わった魔眼を使っての戦闘スタイル。
しかし猫娘は見たところ魔眼持ちではない。何らかのユニークスキルを保有している可能性はありますが、あの危機的状況で使用しなかった事を考えると、回数制限のあるユニークスキルで私たちが観察を始めた際には既に使用切れを起こしていたか、ただ単に使わなかったか、使えなかったか、あるいはユニークスキル自体を持っていないという事でしょう。
もしもユニークスキルを持っていないとなると猫娘は魔眼持ちのヘレン相手に武術とステータスだけで互角。つまり実質ヘレンよりも上の可能性がありますね。
ヘレンもある程度魔眼を使った戦闘に慣れて来たとは言え、まだまだ隙もあり発動も遅い。ま、魔眼だよりの戦闘に慣れてしまっては魔眼が使用できない状況に陥った際に困るので、魔眼を使った際とそうで無い状況に対応できるようになって貰うのが私を含めた3人の見解ではありますが。
それでもヘレンの魔眼は初見殺しにはとても有効でしょう。しかしその後が続かなければ意味はありません。となるとやはりこの猫娘の実力はヘレン以上という事になりますね。
ま、私とカゲミツさんとあの蛆虫が居れば大抵の事には対処可能ですから、もしもの時は大丈夫でしょう。人数的にもこちらが有利ですからね。
「アイン、魔物いる~?」
今まで猫娘と比較していたヘレンが退屈そうに聞いて来ました。
先ほどから数回魔物と戦闘を繰り返してきましたが、固体の強さも数も大した事はなく、危機的状況どころか、運動にすらならないレベルのものばかり。はっきり言って戦闘と呼称するのも憚れるほど。
だからなのでしょう。
見た目に反してヘレンはフリーダム内でも上位に入るほどの戦闘狂。
戦闘狂と言っても本当に戦闘狂なわけではありません。戦闘狂に近いのは誰なのか?と言う順位をフリーダム内で行った場合の話です。
だからなのでしょう。退屈な戦闘の繰り返しに未だ魔物の姿が見えない事にフラストレーションが溜まっていってるのでしょう。
冒険者に限った話ではありませんが、公私混同しないために誰もがスイッチのオンオフを持っており、スイッチを切り替える事で人を一日を過ごすわけですが、フリーダムメンバーにも当然各々のスイッチがあります。
しかし私が見る限りフリーダムメンバーのスイッチの切り分かりはとても軽いです。
冒険者として依頼を熟すたびに慣れてくるためどうしてもスイッチのオンオフが軽くなのは致し方ないのかもしれませんが、この状況で欠伸をしているヘレンは間違いなくギルドに居る時となんら変わらない姿をしているためオフの可能性が非常に高い。
しかし魔物の魔力を感じ取れば直ぐに警戒態勢を取る事が出来ると私は確信しています。それはスイッチが軽い分オフにもなりやすいですが、オンにもなりやすいという事なのでしょう。
だからこそ私は注意をする事なく、ヘレンの質問に答えます。
「いえ、魔力感知にも反応はありませんね」
「そっか~、暇だな~」
薄々魔物が居ない事は気づいていたのでしょう。その返答の言葉と声音から察する事が出来ます。
なのに私に質問して来たのはこの中で一番魔力感知範囲内が広いからでしょう。勿論ご主人様を除いての話ですが。
残念ながらご主人様はまだ言葉を発する事が出来ません。いずれ喋れるようになるとは思いますがそれがいつなのかは私にも分かりません。しかしご主人様は知能がとても高いのでそう遠くない事でしょう。まったくあの蛆虫にもご主人様ほどでは無いにしろもう少し知能が高ければ蛆虫から虫程度には昇格させてあげると言うのに。
ま、あの蛆虫の話はどうでも良いのです。
ヘレンが私に質問してきた理由は私の魔力感知範囲が広いのとただ単に暇なため、淡い期待を込めて質問してきたのでしょう。ま、後半の理由が9割を占めているでしょうから。なんせ5分に1回ペースで同じ質問が飛んでくるのですから。
それにしてもここもあまり魔物が居ないとなるとやはり東西のどちらかに魔物が偏っているのでしょう。
蛆虫とクレイヴの会話を聞く限り西方面に大量の魔物が出没しているようですが、それはあの単細胞が考え無しに魔物を討伐したせいですから仕方がないとしても、どうして南までこうも少ないのでしょう?
先日はそんなに討伐した覚えは無いのですが、むしろ今日よりも魔物を討伐した記録は残っていないので間違いないでしょう。
私は下等な人間と違い自分の都合で記録を改竄したりはしませんので、ま、都合が悪い時は記録を思い返しても口にしたりしませんが。
それにしても本当に魔物と遭遇しませんね。西方面で異常な量の魔物となると嫌な推測が出てきてしまいますね。ま、既にこれまでの戦闘データから考えられる魔物の移動パターやダンジョン内に居る魔物種類と魔物の特性データなどから東方面に移動した可能性は既にパーセンテージとして算出済みですので間違いないでしょうが。
しかし今その話をすれば間違いなく猫娘がこの場から即座に東方面に向かって走り出す可能性も算出済みなので情報のやり取りには気を付けないといけませんね。
ま、猫娘の様子からしてまだ気づいていないようですけど、先ほどの通信はフリーダムメンバーのみでの通信、ヤマト側の人たちとの通信はトランシーバーを渡してあるのでそちらでやり取りをする事になっているので、未だに連絡が入らないとなると既に全滅したか、まだ遭遇していないのかのどちらかでしょう。え?パーセンテージが間違っている可能性ですか?いえ、その可能性は絶対にありえません。なんせ私は世界最高の傑作機ですから。
しかし憂鬱ですね。この事をあの蛆虫に報告しないといけないのは。
そう思いながらも優秀な私は左耳に指を当てて報告します。
「阿保虫、聞こえていますか?」
とてつもなく不本意ではありますが、私はどこぞの馬鹿虫とは違い公私混同はしない主義ですねで普通に呼びます。
数秒してようやく蛆虫が返答してくる。この私が話しかけているのに数秒も掛かるとはやはり蛆虫ですね。いえ、それ以下でしょう。
『何かあったのか?』
おや?いつもの無駄口がない。と言う事はあの単細胞にも私が考えている事を察する能力があったのですね。驚きです。
『今、非常に苛立ちを覚えたんだが、どうせお前が失礼な事でも考えていたんじゃないだろうな』
「いえ、別に考えていませんよ。ただ単細胞の癖に察する能力があった事に驚いて称賛していただけです」
『………』
おや、どうかしたのでしょうか?返答がありませんが通信状況でも悪いのでしょうか?となると向こうで砂嵐でもあったのでしょう。やはり蛆虫は頭だけでなく運も悪いですね。
************************
突如アインからいつもの罵倒が飛んできたかと思ったが呼び方が違うから何かあるのかと思ったが、駄目だ、やはりアインと話していると頭がおかしくなりそうだ。
だけどここは器の大きい俺があの非道ポンコツメイドのために冷静さを取り戻さなければ。
そんな俺の横で煙草を吸っているアリサはどことなく、上の空……いや、現実逃避をしていた。きっと俺とクレイヴの会話をイヤホンで聞いていたからだろう。
アリサは自由奔放な性格をしてはいるが、仲間を見捨てるような奴じゃない。だからこそ影光たちが苦労している理由が俺たちにある事に若干ながらも罪悪感を感じているに違いない。
いつも以上に速いスピードで煙草を吸い終わらせ、新しい煙草を咥えようとするアリサと目が合う。
「………」
「………」
しかし俺とアリサが互いの目を見つめ合いながらも一言も発しようとしない。別にこのあと愛の告白をするわけでもでもなければ、そんなロマンチックな展開を互いに求めているわけじゃない。
別にアリサが魅力的じゃないと言っているんじゃない。
アリサは同じ女性が嫉妬するほどスタイルが良い。出るところは出ているし、引っ込めるところは引っ込んでいる。まぁ……アリサの性格と一緒で胸だけは異常に自己主張が強いが。じゃなくて!
その獰猛な獣に似た鋭い目と顔、そして綺麗なプロポーションから誘惑や魅惑と言った女性の色香とは違った危険な匂いを漂わせている。
そのためもしも誘われれば俺は断れない。いや、断らないだろう。それぐらい綺麗な女性だ。
しかし俺たちの頭を過っているのはそんなそんなエロい事やロマンチックな事じゃない。
もっと単純でゲスい事だ。
「「よし、探索を続けよう」」
互いの意思が重なり合い、見計らったわけでもないのに同じタイピングで同じ言葉を発した。
ある意味互いの意思が繋がったとも言えなくはないが、きっと俺とアリサの思考パターンが似ているだけだろう。
嫌な事に関しては見なかった、聞かなかった事にする。ま、現実逃避ではあるが、それが世の中を渡り歩く上で一番必要な能力でもあるからな。
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イヤホンから聞こえて来るクレイヴとあのバカ虫のやり取りを聞いて嘆息する私はヘレンと愛莉、そして親愛なる主様と共に南方を探索をしていた。
探索を開始して既に20分が経過していた。
時々、数体の魔物と遭遇するだけでこれと言った成果は上げられていない。討伐した魔物も支配された痕跡もなかった。
やはり南方は外れだったのかもしれない。これではあの阿保虫に自慢できない。今度こそ私の眼前で土下座をさせ、ご主人様からの信頼を全て私に向けさせるははずなのに、これではタイミングよく情報を開示した意味がありません。
あのバカ虫が言った通り私は既に壁画の情報に気付いていました。目やあの線についても。まさかあのバカ虫が線に気付くとは予想外でしたが、仕方ありません。
誰もが新たな情報を欲している時に新たな情報を提示する事で己の有能さをアピールする。これこそ最も効率良く有能さをアピールしつつ信頼を勝ち取る方法です。
にも拘わらず、どうしてご主人様はあのバカ虫にこれほどまでの信頼を向けているのか不思議でなりません。
ご主人様とあのバカ虫が腹立たしいですが、同じ場所で数年間共に暮らしていた事は知っています。そこで培った信頼関係がそう易々と揺るがない事も知っています。
しかしここ最近では殆ど行動を共にしているのはこの私。今も一緒に行動していますしね。
にも拘わらずあの蛆虫以上の信頼を勝ち得ないのはどうしてですか!
ま、確かに戦闘能力の一点においてではありますが、あの蛆虫は私より上を言っています。
しかし、それ以外では私の方が有能なのは間違いありません。
掃除洗濯と言った家事全般からご主人様のお世話まで全て私の方が有能です。
戦闘面においても応用性と言う意味であれば私の方が軍配が上がるでしょう。
なのにどうして未だにあの蛆虫に勝てないのか理解不能です。
やはり私の知らない何かがご主人様とあの蛆虫の間にあるのでしょう。不愉快極まりないですが。
そしてそれを無理やり壊そうものならご主人様に嫌われる。いえ、敵と判断されるのは間違いなく私でしょう。そうなれば間違いなく、殺されるのは私。
はぁ……高確率で信頼を勝ち得るには地道に行くしかないようですね。本当に不愉快極まりないですが。
気が遠くなりそうな目標。
その間、あの蛆虫が調子に乗る姿を想像するだけで沸々と怒りが湧き上がって来る。
しかしどうしようもない現実に逆に頭が冷静になり、思わず嘆息する。
「どうかしたんですか?」
そんな私の姿を見ていた猫娘が怪訝の顔で問いかけて来る。
「いえ、個人的な事ですのでお気になさらず」
「はぁ、分かりました」
怪訝の表情を崩す事はない猫娘ですが、私の声音からこれ以上追及するのは良くないと判断したのでしょう。それ以上質問してくることはありませんでした。
それにしてもこの猫娘、中々の実力者ですね。
冒険者ランクで言えば間違いなくAランク相当の実力者。
ヘレンと同等の強さぐらいでしょうか?
しかし以前見た彼女の戦いっぷりを見る限り、魔法は肉体強化魔法のみであとは身軽な身の熟しと双剣術を組み合わせた戦闘スタイル。ヘレンと酷似した戦闘スタイルですが、ヘレンはあの忌々しい蛆虫に教わった魔眼を使っての戦闘スタイル。
しかし猫娘は見たところ魔眼持ちではない。何らかのユニークスキルを保有している可能性はありますが、あの危機的状況で使用しなかった事を考えると、回数制限のあるユニークスキルで私たちが観察を始めた際には既に使用切れを起こしていたか、ただ単に使わなかったか、使えなかったか、あるいはユニークスキル自体を持っていないという事でしょう。
もしもユニークスキルを持っていないとなると猫娘は魔眼持ちのヘレン相手に武術とステータスだけで互角。つまり実質ヘレンよりも上の可能性がありますね。
ヘレンもある程度魔眼を使った戦闘に慣れて来たとは言え、まだまだ隙もあり発動も遅い。ま、魔眼だよりの戦闘に慣れてしまっては魔眼が使用できない状況に陥った際に困るので、魔眼を使った際とそうで無い状況に対応できるようになって貰うのが私を含めた3人の見解ではありますが。
それでもヘレンの魔眼は初見殺しにはとても有効でしょう。しかしその後が続かなければ意味はありません。となるとやはりこの猫娘の実力はヘレン以上という事になりますね。
ま、私とカゲミツさんとあの蛆虫が居れば大抵の事には対処可能ですから、もしもの時は大丈夫でしょう。人数的にもこちらが有利ですからね。
「アイン、魔物いる~?」
今まで猫娘と比較していたヘレンが退屈そうに聞いて来ました。
先ほどから数回魔物と戦闘を繰り返してきましたが、固体の強さも数も大した事はなく、危機的状況どころか、運動にすらならないレベルのものばかり。はっきり言って戦闘と呼称するのも憚れるほど。
だからなのでしょう。
見た目に反してヘレンはフリーダム内でも上位に入るほどの戦闘狂。
戦闘狂と言っても本当に戦闘狂なわけではありません。戦闘狂に近いのは誰なのか?と言う順位をフリーダム内で行った場合の話です。
だからなのでしょう。退屈な戦闘の繰り返しに未だ魔物の姿が見えない事にフラストレーションが溜まっていってるのでしょう。
冒険者に限った話ではありませんが、公私混同しないために誰もがスイッチのオンオフを持っており、スイッチを切り替える事で人を一日を過ごすわけですが、フリーダムメンバーにも当然各々のスイッチがあります。
しかし私が見る限りフリーダムメンバーのスイッチの切り分かりはとても軽いです。
冒険者として依頼を熟すたびに慣れてくるためどうしてもスイッチのオンオフが軽くなのは致し方ないのかもしれませんが、この状況で欠伸をしているヘレンは間違いなくギルドに居る時となんら変わらない姿をしているためオフの可能性が非常に高い。
しかし魔物の魔力を感じ取れば直ぐに警戒態勢を取る事が出来ると私は確信しています。それはスイッチが軽い分オフにもなりやすいですが、オンにもなりやすいという事なのでしょう。
だからこそ私は注意をする事なく、ヘレンの質問に答えます。
「いえ、魔力感知にも反応はありませんね」
「そっか~、暇だな~」
薄々魔物が居ない事は気づいていたのでしょう。その返答の言葉と声音から察する事が出来ます。
なのに私に質問して来たのはこの中で一番魔力感知範囲内が広いからでしょう。勿論ご主人様を除いての話ですが。
残念ながらご主人様はまだ言葉を発する事が出来ません。いずれ喋れるようになるとは思いますがそれがいつなのかは私にも分かりません。しかしご主人様は知能がとても高いのでそう遠くない事でしょう。まったくあの蛆虫にもご主人様ほどでは無いにしろもう少し知能が高ければ蛆虫から虫程度には昇格させてあげると言うのに。
ま、あの蛆虫の話はどうでも良いのです。
ヘレンが私に質問してきた理由は私の魔力感知範囲が広いのとただ単に暇なため、淡い期待を込めて質問してきたのでしょう。ま、後半の理由が9割を占めているでしょうから。なんせ5分に1回ペースで同じ質問が飛んでくるのですから。
それにしてもここもあまり魔物が居ないとなるとやはり東西のどちらかに魔物が偏っているのでしょう。
蛆虫とクレイヴの会話を聞く限り西方面に大量の魔物が出没しているようですが、それはあの単細胞が考え無しに魔物を討伐したせいですから仕方がないとしても、どうして南までこうも少ないのでしょう?
先日はそんなに討伐した覚えは無いのですが、むしろ今日よりも魔物を討伐した記録は残っていないので間違いないでしょう。
私は下等な人間と違い自分の都合で記録を改竄したりはしませんので、ま、都合が悪い時は記録を思い返しても口にしたりしませんが。
それにしても本当に魔物と遭遇しませんね。西方面で異常な量の魔物となると嫌な推測が出てきてしまいますね。ま、既にこれまでの戦闘データから考えられる魔物の移動パターやダンジョン内に居る魔物種類と魔物の特性データなどから東方面に移動した可能性は既にパーセンテージとして算出済みですので間違いないでしょうが。
しかし今その話をすれば間違いなく猫娘がこの場から即座に東方面に向かって走り出す可能性も算出済みなので情報のやり取りには気を付けないといけませんね。
ま、猫娘の様子からしてまだ気づいていないようですけど、先ほどの通信はフリーダムメンバーのみでの通信、ヤマト側の人たちとの通信はトランシーバーを渡してあるのでそちらでやり取りをする事になっているので、未だに連絡が入らないとなると既に全滅したか、まだ遭遇していないのかのどちらかでしょう。え?パーセンテージが間違っている可能性ですか?いえ、その可能性は絶対にありえません。なんせ私は世界最高の傑作機ですから。
しかし憂鬱ですね。この事をあの蛆虫に報告しないといけないのは。
そう思いながらも優秀な私は左耳に指を当てて報告します。
「阿保虫、聞こえていますか?」
とてつもなく不本意ではありますが、私はどこぞの馬鹿虫とは違い公私混同はしない主義ですねで普通に呼びます。
数秒してようやく蛆虫が返答してくる。この私が話しかけているのに数秒も掛かるとはやはり蛆虫ですね。いえ、それ以下でしょう。
『何かあったのか?』
おや?いつもの無駄口がない。と言う事はあの単細胞にも私が考えている事を察する能力があったのですね。驚きです。
『今、非常に苛立ちを覚えたんだが、どうせお前が失礼な事でも考えていたんじゃないだろうな』
「いえ、別に考えていませんよ。ただ単細胞の癖に察する能力があった事に驚いて称賛していただけです」
『………』
おや、どうかしたのでしょうか?返答がありませんが通信状況でも悪いのでしょうか?となると向こうで砂嵐でもあったのでしょう。やはり蛆虫は頭だけでなく運も悪いですね。
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突如アインからいつもの罵倒が飛んできたかと思ったが呼び方が違うから何かあるのかと思ったが、駄目だ、やはりアインと話していると頭がおかしくなりそうだ。
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