魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒

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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第九十話 夜逃げから始まるダンジョン攻略! ㉑

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 軽く深呼吸をして平静を取り戻した俺は改めてアインに問いかけた。

「それで何があった?」
 これでまた小馬鹿にしてくるようなら通信を切ってやる!

『前置きは抜きにして本題を伝えます』
 そんな事を思っていたが、流石のアインもそこまで馬鹿じゃなかったらしく杞憂に終わり上司としてホッとする。
 それにしてもアインの声量と声音からしてちょっとヤバいようだな。

『カゲミツのBチームに魔物が大量発生したとなるとDチームにも大量の魔物が出現している可能性があります』
 その言葉に俺は眉を潜める。
 確かに俺もその可能性は考えていた。
 影光のところに大量に発生した魔物その数の異常さはクレイヴが苛立ちを露にするほどだ。
 しかし俺の気配感知領域からは綾香ちゃんたちの気配は感じ取れない。それだけお互いの距離が離れているという事。
 気配感知領域を広げて気配を感じ取る事は出来るが、そうすると識別が難しくなる。
 アリサの魔力感知もそこまで高性能ではない。となると今の俺たちの居場所から綾香ちゃんたちの場所を把握するのは困難と言うしかない。
 だからこそトランシーバーを持たせたわけだが、相手から連絡が無いのなら緊急事態に陥っている可能性は低い。一応定時連絡するように時間帯は決めているが、まだその時間帯ではない。ま、探索開始して30分しか経過していないからな。
 突如魔物が大量発生したとしても萩之介たちの実力ならもっと目視出来るより前の段階で魔物の気配に気づいているはずだ。
 もしも目視距離まで接近されていたとしてもその間に無線で俺たちに連絡する時間はある筈だ。
 しかしサイボーグではあるアインのが出した可能性は大量の魔物が出現した可能性があると示唆している。アインの性格は嫌いだが、癪な事にアイツは優秀だ。その面は認めているからこそ疑いずらい。
 しかしそれだけで判断するにはまだ材料が少ない……か。

「一応、根拠を聞いて良いか?」
 俺が信用していないと判断して文句の1つや2つ……いや、アイツの場合100個は言って来そうだが、それは無く最終判断の材料が欲しいと判断したのか、アインは端的に現状の状況と推察を喋り始めた。

『私たちCチームも既に数度魔物との戦闘を繰り返していますが、先日に比べて一度の戦闘での魔物の数も少なく魔力感知にも反応はありません。それに対してBチームには大量の魔物が出現しているとなるとDチームが居る東方面にも魔物が大量発生している可能性は十分に高いかと』
「なるほどな」
 アインの推察は理解した。まさかCチームが居る南方面も先日より魔物の数が少ないと言うのは予想外だ。いや、改めて考えてみれば当然か。
 東西南北の方面と言う判断は俺たちが野営していた遺跡を中心にしての判断だ。となると北方面に生息していた魔物が俺たちが居座っていた遺跡を周辺を通て南方面に移動する可能性は極めて低い。
 そうすると自然と魔物たちの移動する方角は東西の2つに分けられる。移動した魔物全てが仲良く西方面に移動するなんてありえない。となると綾香ちゃんたちが居る東方面にも移動している可能性は十分にあるか。

「今から連絡を取るから少し待て」
『……了解』
 アインの返答が若干不服そうだったが、信用されていないと思ったのかそれとも俺から待てと言われるのが癪に障ったか、はたまたその両方化は分からないがそれを追求しても無駄な時間の浪費でしかないので気にしないでおこう。
 そう言って俺は胸に装着していたトランシーバーを手に持つと通話PTTスイッチを押したままマイクロホン目掛けて口を開いた。

「こちら仁、Dチーム応答せよ」
『…………』
 しかし何らかの反応は一切なかった。それと同時に俺の脳内に最悪のビジョンが一瞬にして浮かび上がり、切迫感が一気に押し寄せて来た。
 だからだろう間違いなく今の俺に冷静さが欠けていたのは本当だ。

「こちら仁、Dチーム応答せよ!」
 もう一度同じ言葉をトランシーバーに向かって口にする。
 しかし一向に返答はない。
 それと並行して切迫感募るばかりだが、数瞬ではあるが時間が経つにつれて自分自身に冷静さが無くなっていた事に気づいた俺は焦る気持ちはそのままで頭だけを冷静にしようと自分の肉体を強制的に深呼吸させる。
 乾いた熱風を吸い込んだ事で喉が渇きを訴えるのでアイテムボックスから取り出した水を飲んで喉を潤す。
 予想外の事もしなければならなかったが、おかげで頭は冷静になったので改めて通話PTTスイッチを押してマイクロホンに向かって呼びかける。

「こちら仁、Dチーム応答せよ」
『………こちらDチーム』
 少ししてからようやく綾香ちゃんの声がトランシーバーから聞こえて来た事に俺は安堵した。視線をアリサに向けるとアリサもどことなくホッとした顔で煙草を吸っていた。探索を開始してからすでに10本近く吸ってないか?
 いや、今はDチームの連中だ。


「そっちの状況を教えてくれ」
『先ほどまで魔物の群れと戦闘をしていた』
 やはりアインの推測は的中していたか。
 そう思うと悔しさが込み上げてはこない。綾香ちゃんの口調から考えて既に戦闘も終わっているようだしな。

『魔物の強さは然程強くはなかったのだが、数が多くてな。返答するのに時間が掛かってしまったのだ、すまぬな』
 時折息切れの声がトランシーバー越しに洩れて来るのが聞こえて来る。きっとそれだけ苦戦した事が伝わって来る。

「いや、大丈夫だ。それより負傷者は出てないか?」
 もしも負傷者が出たのなら探索は一旦中止する必要がある。中止にしないにしても再編成をする必要もあるしな。

『一朗太が敵の攻撃を受けたが大した傷ではないし、余の治癒魔法で傷を治したので大丈夫だ』
 そう言えば綾香ちゃんはアリサと同じで治癒魔法が使えるんだったな。すっかり忘れていた。
 綾香ちゃんは萩之介たちに比べて戦闘のプロではないが、治癒魔法を使うにあたって医療に関しての知識は豊富のようだし大丈夫だろう。
 ただ傷を塞いでも次の戦闘に参加出来るかは別の話だ。傷が開く可能性だってあるからな。

「一朗太は探索は出来そうなのか?」
『……問題ない。直ぐに移動は難しかろうが、小休止すればなんの問題もない』
 そんな俺の考えを読み取って理解したようだが、それでも信用されていないと思ったのかどことなく綾香ちゃんの声音に怒気が含まれていた。不機嫌になったかな。ま、大丈夫だろう。

「そうか、分かった。今度何かあったら連絡してくれ。通信終わり」
 そう言って俺は通信を切った。
 直後、俺は耳に装着しているイヤホン型の通信機でアインに連絡を入れる。

「話は聞いていた通りだ」
『そのようですね』
 俺のそんな言葉に興味なさげにアインは呟いて来る。まったくコイツは。
 しかしそれでもアインの推測がやはりずば抜けて優秀である事を再認識させられたのは間違いない。

「今回は杞憂に終わったが、助かった。また何かあったら連絡してくれ」
『コバエに連絡するのは釈ですが、素直に礼を言われるのは気分が良いので、気が向いたらまた連絡します』
「そうかよ!」
 そう言って俺は通信を切った。まったくどうしてアイツは一々一言余計なんだ。素直に了解しました。って言えないのか!
 そんな俺の苛立ちを見てアリサが呆れた表情をしているのに気が付いた俺は手に持っていたペットボトルの水を勢い良く飲み干す。

「それじゃ、俺たちも探索を再開するぞ」
「了解だ。ジンの大旦那」
 俺たちは改めて北方面の探索を開始した。
 しかし半日かけて北方面を探索し続けたが、支配者に関係しそうな魔物を発見する事は出来なかった。運良くランクBの魔物の群れを3回ほど発見して討伐した程度でそれ以外はなんの面白味も無い砂漠探索で一日を終了する事になった。
 結局成果なしか。ま、最初から上手く行くとは思っていなかったが、まさか魔物との戦闘もあんなに少なくなるとは思わなかったぜ。明日も少ない可能性があるし、明日は別の方角に行ってみるか?いや、今はそれよりもこの事を報告したら間違いなくアインの奴に嫌味を言われるのは間違いない。
 アインが優越感に浸りながら見下して来る姿が容易に想像出来てしまうことに俺は嘆息する。
 野営地に戻って見ると戻って来ていたのは影光、グリード、クレイヴのBチームだけだった。他のチームはまだ戻ってきていないようだな。
 野営地の天幕の下に入るとグリードはキャンプチェアに座って休んでおり、影光は愛刀の手入れをしていた。クレイヴの奴の姿は見えないがテントの中から安定した気配を感じるからきっと寝てるんだろう。帰って早々寝るとかあの野郎、夕食になったらまた殺気を放って起こしてやる。
 俺とアリサの姿に気が付いた影光が話しかけて来る。

「その姿を見るにそっちは暇だったようだの」
 皮肉たっぷりに言ってくる影光だが、視線は愛刀に向けたままだった。

「まぁな」
 肯定の言葉を口にしながら俺はアイテムボックスから取り出したキャンプチェアに腰を下ろす。ついでに夕食で使う食料や飲み物一式も取り出しておく。
 まさか魔物どもあれほどの移動を一日で終えていたなんて思わなかったんだから仕方が無いだろ。うん、俺たちは悪くないな。魔物どもの気まぐれのせいだ。だから断じて俺たちのせいでは無い。

「どうぞ」
 そんな影光とは違いグリードは休憩中にも拘わらず俺たちの為に冷えたジュースが入ったコップを渡してくれる。ほんとお前は良い奴だよ。今回のダンジョン攻略が終わったらグリードにはボーナスを出すとしよう。

「それにしても随分と早い帰還だな。俺たちが最初だと思っていたぞ」
「最初から予想以上の魔物と戦闘で物資や体力を消耗したからの。早めに切り上げて戻って来たのだ」
 なるほどな。だから野営地の横に魔物の死体が山盛りで積み上げられているのか。
 グリード、影光、クレイヴの3人は俺みたいにアイテムボックスやアインのような亜空間収納を持っていない。ダンジョンの外なら大型トラックの荷台にでも詰め込めばいい話だがダンジョン内では無理なので何回も往復したに違いない。そう思うとアイテムボックスの偉大さを感じさせられるな。ありがとう、アイテムボックス様!
 影光たちの報告はアインや綾香ちゃんたちが戻ってから聞くとしよう。
 なら俺は一服でもしたらあの死体の山をアイテムボックスにしまうとするか。

「一応聞くが、魔物の素材は後で売るが代金は山分けで良いんだよな?」
「ああ、それで構わぬ」
「分かった」
 愛刀の手入れをする影光に確認を取った俺はアイテムボックスに魔物の死体を収納する。
 生憎と俺のアイテムボックスはゲームのような分類訳されて整理整頓してもらえるようなイベントリではない。いうなれば容量の分からない袋だ。だから誰が討伐した魔物なんてアイテムボックスに入れてしまえば分からなくなる。
 ま、取り出したい物がある時は頭の中で思い浮かべれば良いだけなんだが、誰が討伐した魔物なんて細かい事までは無理だ。
 魔物の死体をアイテムボックスに収納し終わり、キャンプチェアに座って寛いでいると綾香ちゃんたちDチームが返って来た。
 それなりに苦戦を強いらたのか出発する前に比べて随分と汚れていた。と言っても砂埃や返り血が殆どだが。
 グリードから冷やされた濡れタオルを受け取った綾香ちゃんたちは幸せそうな顔で手や顔、首、腕を拭いていた。

「昼前は心配を掛けた」
 キャンプチェアに座って寛ぐ俺を見下ろす形で言ってくる。

「いや、気にしていないから問題ない。こっちももっと早く気づいてやれば良かったんだが悪かったな」
「気配感知や魔力感知の範囲外で起きた戦闘だ。仁たちのせいではない。余がもっと早く仁から連絡に出れていればこのような会話をする必要も無かったのだからな」
 ま、それはそうなんだが。ほんと綾香ちゃんてクレバーと言うか俺が知り合った王族とは違うタイプだよな。

「姫様、一度テントで体を拭きましょう」
 と、蝶麗あげはさんが会話に割って入る形で綾香ちゃんに伝える。

「そうだな。では後でな」
 そう言って綾香ちゃんは蝶麗と一緒にテントの中へと入って行った。気温も下がって来た事だし俺も体を拭いておくか。
 グリードに頼んでお湯を沸かして貰う。
 ダンジョン内で風呂に入れるわけも無いのでお湯で濡らしたタオルで体の汚れと汗を拭きとっていく。俺もテントの中で拭けば良いのかもしれないが、この場には男だけ……いや、アリサもいたっけな。ま、男の上半身を見ただけで戸惑うような初心でもないし、ましてや気にするようなタイプでもないので気にせず俺は体を拭いて行く。
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