鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第七十七幕 騙すと策

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「お疲れ様です。それでどうでしたか?」
「ああ、この海底遺跡を造ったと思われる人物の部屋を見つけたが、情報になりそうな物は見つからなかった」
「そうですか?」
「それよりそっちは平気だったか?」
「はい。見ての通り魔物は出ませんでした」
「そうか」
 エルザの言葉に内心安堵した千夜はベノワに声をかけた。

「それでこれからどうする」
「そうですね。時間も時間ですし戻るとしましょう」
「分かった」
 千夜を先頭にして地上に戻ることにした千夜たちは地上へと向かう。
 結局帰還中も魔物に襲われることなく無事に地上へ戻ることが出来た。
 地上へ戻るなり、解散した千夜はミレーネとエルザに先に小屋に戻ってるよう指示してベノワがいる家に向かった。
 小屋ばかり並ぶ人工島のためか一際目立つその家に到着した千夜は秘書にベノワに会いたいと言伝を頼んで待つこと数分、千夜は前にも招かれた書斎へとやってきた。

「それで、私にお話と言うのはなんでしょうか?」
「ああ。残りの2人が誰なのか分かったから報告にきた」
 その言葉に書類から視線を外して千夜を見つめた。

「それは本当なんですか?」
「本当だ。まだ見つけただけで殺してはいないがな」
「そうですか……」
 吉報とも言える内容にベノワは一旦目を瞑る。その姿は感傷に浸っているようにも見えたが、その真意は千夜には分からない。
 ベノワが再度目を開けるのを待ってから千夜は口を開いた。

「だが、一つ問題が発生した」
「問題ですか?」
「そうだ。これは自惚れてるわけじゃないが、今回無事に全員帰還することが出来たことによって俺と一緒に海底遺跡に入れば無事に帰れると思われてしまった」
「それは良いことなのでは?」
「確かに普通の探索なら問題なかったんだが、俺には暗殺の仕事もある。そこで海底遺跡探索中に暗殺することを目論んだわけだが、もしも探索中に誰かが死ねば俺の実力は大した事はない。そう思われて最悪暴動みたいな事が起きる可能性もある」
「そうですか。まったくあの男は余計な事をしてくれましたね」
 ベノワが誰のことを言っているのか。この場にいる千夜と秘書は即座に理解した。

「そう言うな。どうせタイチも死ぬんだからな」
「まさか!?」
 千夜の言葉の意味を理解したのかベノワと秘書は目を見開けて驚愕の表情を浮かべる。

「その通りだ。タイチも海賊だ」
「まさかあの正義感の強そうな青年が海賊とは……凄い演技力ですね」
「それはどうかな」
「え?」
 呟いた言葉を否定された事にベノワは理解できなかった。

「どう言うことでしょうか?」
「タイチの仲間の女子たちは海賊ではなかった。そのことから考えられる可能性は二つ。一つはベノワが言うとおり演技をしていてあの女子たちを騙している場合。もう一つは本当に正義感が強いが海賊たちに騙されて利用されているかのどちらかだろう」
「海賊に騙されているですか?」
「そうだ。俺が知る限りあのタイプは現実を世間を知らない。そこを海賊たちに付け入られて利用されている可能性がある」
「と、いうと?」
「そうだな。例えば自分たちは海兵隊で海で暴れる海賊たちを懲らしめるから手伝ってくれ。とか言って海賊の片棒を担がせたとかだろうな」
「そうですか……」
「ま、これも本当かどうかは分からない。ただの推測に過ぎないからな」
「そうですね」
 そう、どんな事情があれ海賊、盗賊行為を行えばそれだけで死罪なのだ。
(未熟な己自身を恨むんだな)

「さてと話を本題に戻すが、問題についてだが」
「そうでしたね。でも探索中が無理となると地上に居るときになりますが」
「それは駄目だ」
「どうしてですか?」
「地上で殺せば暗殺者、それに類する存在がいるとバレてしまうからな」
「でもそうなれば海賊たちを一掃出来るのでは?」
「確かに犯罪履歴は俺が持っている水晶でしか見られない。だが他にも居るのではないかと疑心暗鬼に陥るのは目に見えている。そうなればダラへ帰還中に海賊に襲われた場合の連携や指揮に支障をきたす恐れだったある」
「確かにそうですね」
 一つの行動で起きる最悪の事態を口にする千夜の姿に内心感嘆する。
(ここまで物事を考えて動くなんて流石は指名依頼を受けるだけはあります)

「ではどうするのですか?」
「一つだけ考えがある」
 不敵な笑みを浮かべて口にした言葉に身震いしそうになる。

「その方法は?」
「それは――」
 千夜は海賊殺しの算段を話す。その時の顔は悪党にも負けないほど悪い顔をしていた。
 ベノワと秘書は話を聞き終わると千夜を見つめて思った。
(恐ろしい。こんな方法を思いつくなんて。もしも彼が裏社会で生きる人間であれば一国なんて直ぐに滅ぶでしょう)
 千夜が冒険者として真っ当に生きていることに安堵し、心底嬉しく思うベノワと秘書であった。

「どうだ?」
「その手しか無いでしょう」
「そうか。なら俺は小屋に戻る。仲間にも説明しないといけないからな」
「分かりました」
 軽く手を振って部屋から出て行くのだった。
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