鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

文字の大きさ
323 / 351
第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第八十七幕 魔剣と豹変

しおりを挟む
「どうなってるんだ!?」
「え?何が起きてるのですか?」
「タイチッ!」
 タイチの仲間の女性たちが困惑と心配の表情を浮かべる。
 しかし、握った剣から伸びる触手が腕を喰らうかのように侵食していく。
 タイチはただ激痛で悶え苦しむことしか出来ないでいた。
(まったく面倒ばかり引き起こす!)
 内心そんな事を思いながら千夜は鬼椿を抜刀した。

「旦那様どうなってるの!」
「侵食されているんだ」
「侵食……それって」
「ああ、【魔剣】だ」
 その言葉に目の色を変えた人間は極僅か。月夜の酒鬼メンバーでも理解しているのはエルザと勉強熱心なミレーネだけだった。

「タイチ待ってて今助けるから!」
「馬鹿!、ミーナあの女は近づかせるな!」
 取り押さえていた筈が抜け出したアイーシャは悶え苦しむタイチの許へと駆け寄ろうとする。しかし千夜の指示で動いたミレーネによって再びエリーゼたちの場所まで戻されてしまう。

「離して!私はタイチを助けるの!」
「暴れないでください」
 腕を振り回して暴れるアイーシャに苦戦するミレーネ。

「センさん、魔剣とはいったいなんなのですか?」
「一言で言えば剣の一種だ。だが、その効果は同じ等級の剣でも絶大的な力を誇る。等級が英雄級でも効果によっては古代級や最悪伝説級にまで匹敵する物だって存在する」
「そんな凄い剣が」
「だが、それは諸刃の剣だ。魔剣は使い手が選ぶのではなく、魔剣が使い手を選ぶ。もしも魔剣が使い手として相応しく無いと判断した場合は」
「どうなるのですか?」
「死ぬ」
 その言葉に全員が驚きの表情を浮かべる。

「ちょっ、暴れないで下さい!」
「離してこのままだとタイチが死んじゃうんでしょ!」
「それだけで済めばな」
 なんとも冷徹な口調に聞こえるかもしれない。だが、誰よりも危険と感じているのは千夜本人なのだ。
 千夜の呟きにエリーゼは疑問に感じて訊いた。

「どういうことなの?」
「魔剣にも種類がある。ただの剣が戦場で戦い続け血を浴びすぎたせいで、怨念などによって魔剣と化した場合と製作者によって意図的に作られた場合だ」
「それだとどう違うの?」
「製作者によって意図的に作られた場合の殆どが使い手を試す仕掛けをしている事が多い。勿論それに打ち勝てばあの剣はあの男を主だと認めるだろう。勿論認めなければ呪いが流れ込み死ぬ」
「なら、怨念によって魔剣になった場合はどうなるの?」
「これに使い手を試すなどの猶予はない。最初から使い手を殺すか、使い手の精神を乗っ取り殺戮の限りを尽くすだけだ。そうなれば俺たちにも危害が及ぶ」
「そんな……」
「主、あの剣はどちらなのでしょうか?」
「流石の俺も分からない」
(超解析でも表示されてなかったしな)

「ただあの痛みが治まり叫び声が止まった時に分かる。もしも死ねば、怨念によって死んだか、試験に負けたかだからな。だがもしも、立ち上がった場合俺たちに危害を加えようとすればそれは完全に魔剣に支配された状態だ」
「なら、今すぐ助けてよ!アナタはAランクの冒険者なんでしょ!だったら助けてよ!」
「無理だな」
「どうしてよ!どうして無理なのよ!私たちが色々と言った事を根に持っているのなら謝るからお願い!タイチを助けて!」
 号泣しながら懇願するアイーシャ。それだけ彼の事を愛しているのだと誰もが悟る。

「旦那様、どうして助けないの?」
「今、奴の精神と魔剣の精神を繋がり複雑に絡み合っているはずだ。そんな常態であの魔剣を奴の手から外せば精神が切断されてしまい、奴という人格が崩壊してしまう可能性もあるからだ」
「そんな……」
 千夜の言葉にアイーシャたちはその場に項垂れてしまう。

「ま、可能性にかけるならあの魔剣が製作者によって造られた物で、あの男がその試練に勝ち抜くことだけだ」
 その言葉に誰もが願った。そうであって欲しいと。それは彼の正体を知っているベノワやエリーゼたちでさ。ただ千夜だけは違った。
 千夜だけはなにも考えず最悪の事態に備えて思考を巡らせていた。
 激痛が治まったのか叫び声が止み、動かなくなった。

「タイチ!」
「まだ、動くな!」
 押さえる力を緩めていたミレーネの腕から抜け出したアイーシャはタイチの許へ行こうとしたが、千夜の言葉によって止められる。

「なんでよ!死ななかったのよ!だったらタイチは打ち勝ったに違いないわ」
 しかしアイーシャはそんな千夜の忠告を無視してタイチに抱きつこうとした――時、真っ赤な鮮血が舞った。

「え?どうして……」
 何がなんだか理解出来ないアイーシャはただその場に倒れこむ。

「ヒャアアアァァ、ヒャッヒャッヒャッ!」
(一番最悪なパターンだったか)
 これまで見たことがないほど三日月の笑みを浮かべ狂喜に満ちた笑い声が室内に響き渡る。
 そこには完全に魔剣に精神を乗っ取られ支配されたタイチの豹変した姿があった。
しおりを挟む
感想 694

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。