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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第九十幕 探索終了と圧力

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 荒くなった呼吸を整えながら千夜は死んだタイチを見下ろしていた。
(これで終わりだ)
 戦いと海賊の密偵を全員始末した事への達成感を味わいながら納刀した。

「セン!」
「旦那様!」
「主!」
 達成感からなのか気が抜けたのかその場に座り込む。それを目にしたエリーゼたちが駆け寄ってくる。

「もう、どうしてそんなに無茶するの!」
「そうじゃ!お主が戦うのが好きなことは知っておるが、少しは自分の体のことも考えよ!この戯けが!」
「返す言葉もないな」
「今、喋っては駄目です!」
 手当てを行うエルザたちの姿に千夜はただ体を預けるのだった。
 アイーシャの手当てをした時と同じアイテムを使って傷を治した千夜。
 アイーシャに比べて遥かに強い千夜は呪いさえ消えてしまえばその後は直ぐに傷が塞がり完治したが、戦闘で流れた大量の血を取り戻すには時間が必要だった。
 そんな千夜にベノワが近づく。

「お疲れ様です」
「終わったぞ」
「そうですか。それは良かった」
 千夜の返答が何を意味するのか理解したベノワは目を瞑りながら返答した。

「でもすまないな。魔剣はもう使い物にならない」
 完全に一刀両断された残骸とも言える剣に視線を向ける。

「いえ、あのような剣は我が商会でも取り扱うことはできませんので、正直感謝しています」
「そうか。それならよかった」
「今から財宝の回収を行いますのでその間は休んでいてください」
「すまないがそうさせて貰おう」
 一礼したベノワは即座に指示を出すのだった。
(まったく俺もまだまだだな)
 己の怪我を見下ろしながらそんな事を思う千夜。

「それで主あの女の処遇はどうされますか?」
 殺気の篭った鋭い視線をキュリアに向けながら問いかけてくる。

「そうだな……」
 視線を合わせようとしないキュリア。それが何を意味しているのかは千夜でも理解できた。
 申し訳なさ、仲間の死への悲しみと千夜への怒り。殺気による恐怖。

「今、話したところでベノワたちの邪魔をするだけだ。地上に帰ってから決めるとしよう」
「主がそれでいいのなら」
 それから数十分ほどしてすべての財宝を掻き集め回収したベノワたちと一緒に千夜は地上へと戻った。
 大量の財宝が地上へと持ち出される光景に出迎えてくれた冒険者たちの歓声は人口島を震わせかのようだった。
 探索を終えた千夜はベッドで横になりたかったが、ベノワに呼び出されてしまい嘆息しながら書斎へとやってきた。

「それで話ってなんだ?」
「今回の依頼はこれまで以上の成果を挙げることができました。これもセンさん、貴方のお陰と言っても過言ではありません」
「そこまで褒められることはしてないと思うがな。それにこれまで死人もだしていなかったんだろ。それを考えると微妙な気もするが」
「いえ、これまで魔物が出なかったことが運が良かっただけです」
「そう言って貰えるとありがたいがな。で、わざわざ呼び出したのは賞賛の言葉をくれるためか?」
 喧嘩腰と言えなくもない皮肉だが、それが千夜のいう人物ということはベノワも理解していたため腹は立たない。

「いえ、今回呼び出したのは最終確認と明日の予定についてです」
 その言葉に千夜の表情が真剣な面持ちへと変わった。

「聞かせてください。本当に海賊たちの密偵はすべていなくなったのですよね」
「ああ。居なくなったと言っていいだろう。ま、俺が持つ能力を阻害、無効化する能力やアイテムを保持していなければの話だが」
「そうですか。でも素晴らしい情報です」
「で、明日の予定ってなんだ?」
「これは今日の夜にでも伝えるつもりでしたが、今回は予想以上の成果を上げたためこれ以上の探索はまた次回にと決定しました」
「ま、確かにあれだけの量となると流石に運航にも支障が出るかもしれないしな」
「その通りです。ですので明日一日冒険者の皆さんには完全休日とさせて貰います」
「で、明後日出向か?」
「その通りです」
「分かった」
 そう返答した千夜は踵を返して部屋を出ていった。
 冒険者たちの騒ぐ音を耳にしながら千夜は小屋へと戻った。

「お帰りなさい旦那様」
「今日はお疲れ様です」
 いつも以上に優しく出迎えてくれるエリーゼたち。それは今日の負傷が原因だと千夜気づくと申し訳なさを感じながら椅子に座った。

「随分と今日は豪勢だな」
「はい。沢山食べて血を取り戻してください」
(これは早く血を取り戻さないとだめだな。笑顔の下に怒りを感じる)
 そんな事を思いながら合掌した千夜はマナーを守りながらも勢いよく食べ進めていった。
 食事を堪能した千夜はミレーネに出されたお茶で一息吐きながら口を開いた。

「どうやら海底遺跡探索を今日で終了らしい」
「それはまた唐突ね」
「理由としては予想以上に財宝が見つかったからだそうだ」
「確かにあれ以上は船が心配になるのぅ」
「それでは明日出航ですか?」
「いや、準備もいるから出航は明後日だそうだ。つまり冒険者は明日一日お休みだそうだ」
「休日ね」
「嬉しくないのか?」
「嬉しいわよ。でも何もないこの島で何をすれば良いの?」
「模擬戦や筋トレとか?」
「それは訓練でしょ!それならこの島じゃなくても出来るわよ」
「確かに。ま、それは自分たちで決めてくれ」
「分かったわ。でも旦那様は訓練は禁止よ」
 その言葉にコップを持とうとする手が止まる。

「何故?」
「怪我したんだから」
「いや、既に完治したんだが」
「駄目よ。いいわね」
「いや、しかし」
「い・い・わ・ね」
「分かった」
 エリーゼの圧力に負けた千夜は渋々了承るしかなかったのだった。
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