鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。

第九十一幕 討伐と魔法武装

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 戦闘が開始されてから十数分が経過した。
 エリーゼたちの攻撃によって相手は防戦一方。しかし、倒れる気配が一切感じられなかった。
(まずいな。このままだとエリーゼたちの体力が持たない)
 エリーゼたちは連携しあって弱点を補い上手く戦っている。それでも相手のHPがずば抜けているのか怯みもしないのだ。
(これまで思わなかったが、こんな時にHPゲージがあれば)
 ゲームの時では自分、見方だけでなく敵のHPも表示される。そのため後どれだけ攻撃すれば良いのか分かっていた。が、今はそれがない。相手の動き、声、表情などから読み取らなければならないのだ。
(ま、こいつに関しては表情では分からないが………いや、待てよ)
 ふと、千夜はあることを思い出す。

「俺としたことが、忘れていた」
 己の不甲斐なさに笑みを溢しながらもスキル、超解析を使う。

───────────────────

ブラッドワーム(亜種)
LV 212
HP 77904000/86560000
MP 0
STR 22000
VIT 8480000
DEX 7400
AGI 12000
INT 120
LUC 60

スキル
吸血LV86
隠密LV51
物理攻撃耐性 LV42
斬撃耐性 LV39
打撃耐性 LV28
突撃耐性 LV12
魔法攻撃耐性 LV25
火属性耐性 LV12
水属性耐性 LV26
土属性耐性 LV24
風属性耐性 LV28

属性
なし

───────────────────

「一割って所か」
 予想よりHPが削れていないことに苛立ちを覚える。
(俺が火炎八蛇ヤマタノオロチで攻撃して倒すのは容易い。がこれはエリーゼたちの戦いだ。さて、どうするか)
 思考を巡らせながらも前衛で戦うエリーゼとエルザに回復魔法をかける。
 予想以上の強敵に千夜は面倒になってきていた。
(駄目だな。強くなりすぎるとどうも直ぐに終わらせてしまう癖がつくようだ)
 内心反省する。
(しかし、ブラッドワームの現状を教えて良いのか? これだけ攻撃してまだ1割しか削れていないとしれば流石に戦意喪失する可能性だってありえるからな)
 たった一言で現状が急変することだってある。それが戦場であり、戦いなのだ。
 そんな時。

「ん? まずい! エリーゼ、エルザ後方に下がれ今すぐだ」
「え?」
「分かりました!」
 エリーゼは疑問に思いながらも、エルザは即座に後方にジャンプする。

 プシャー!!

 突然の攻撃。口から吐き出された白い液体はエリーゼたちが立っていた場所に直撃し地面を溶かす。

「なによあれ」
「高濃度の塩酸だ」
「塩酸……」
「奴は体内の塩酸を吐き出して攻撃してくる。すまない。すっかり失念していた」
「平気よ。攻撃される前に教えてくれたもの」
「奴の喉辺りが膨れ始めたら攻撃されると思え」
「分かったわ」
(やはり、旦那様が居て正解ね。相手の事を知らない私たちだけでは殺られていたわ。それにしても何時になったら倒れるのかしら)
 その後も戦いは続く。先程とは違い、相手の攻撃を回避しながら攻撃しないといけないためどうしても回数が減るが、それでも立ち向かうエリーゼたち。
 そして戦闘開始から約一以上が経過した。完全に長期戦になっていた。
(まずいな。エリーゼたちの体力も限界に来ている。ようやく残りのHPが4割を切ったにもだ)
 流石の千夜でも額に汗が垂れる。
(エリーゼたちの戦いとはいえ、何も出来ないのは戦うより辛いな)
 この時ようやくエリーゼたちの気持ちを理解した。

「ミレーネ」
「はい。なんでしょうか!」
「相手の残りHPは4割を切った。がここからは相手も本気で反撃してくる。皆にこれまで以上に気を引き締めろと伝えてくれ」
「え? それならセンヤさんが伝えた方が……」
「何を言っている。今回のリーダーはミレーネ、お前だ。お前が言わないと駄目だ」
「分かりました!」
 強い意思を瞳に宿して頷きエリーゼたちに現在の状況を大声で伝える。あまり大声で喋るミレーネではないが、今回は強くなるため、そして皆で生きて帰るため声を張り上げる。その事に言葉だけでなく心でも理解するエリーゼたちである。
(ミレーネが頑張ってるのに私たちが負けるわけにはいかないわね!)
(私も負けないからな!)
(強くなりましたね。なら、私も頑張らないと!)
 終盤に差し掛かり、勢いがつくエリーゼたち。だが現実は甘くない。

「なんだ、あれは!」
「下がります!」
「え、なに? キャアァァ!」
 突然、地面から何本もの触手が姿を表す。後方で攻撃していたクロエとミレーネには影響はなく、エルザも危機察知で即座にその場を離れたが、エリーゼは突然の事に反応が遅れる。

「エリーゼ姉さま!」
 動揺を隠しきれないミレーネは攻撃するのを止めてしまう。

「チッ!」
 足に巻き付いた触手がエリーゼを吊し上げる。
 皆が動揺するなか千夜は即座に行動を開始していた。

「俺の妻に汚い触手で触るな」
 冷淡に呟かれた一言。しかし、その声音にはハッキリと怒気が含まれていた。
 視覚ではけして捉えきれない速さ。音速をも超えるスピードでエリーゼの足に巻き付いた触手が一刀両断される。

「え?」
 突然、浮遊感に襲われるエリーゼだったが直ぐ様誰かに抱えられるのが分かる。

「旦那様」
 気がつけばミレーネの近くへ戻っていた。

「大丈夫か?」
「ご免なさい。私……」
「何を言っている。俺たちは同じクラン。つまりは仲間だ。助け合うのは当たり前だ。ましてや、俺たちは家族なんだからな」
「でも………」
「エリーゼは悪くない。守れなかった俺に責任がある。俺の背中を預けたと同時に俺がお前たちの背中を守らなければならないのにな」
「それは違が痛っ!」
「どうした?」
「どうやら強く捕まれた時に足を痛めたみたい」
「見せてみろ」
 そう言って千夜はエリーゼの左足の靴を脱がす。

「駄目よ! 汗かいてるから臭いわ!」
「今はそんな事を言っている場合ではない。それに俺は気にならないから安心しろ」
「私が気にするのよ!」
「なら、これで気にならないか?」
「え?」
 そう言って千夜はエリーゼの爪先にキスをする。
 まるで女王様の足に口づけをし忠誠を誓うように。

「どうだ?」
「……………馬鹿」
 戦闘中にも拘わらず何をやっているんたまと言いたくなるミレーネたちであった。

「腫れているな。骨にヒビが入っている」
「え! そんな!」
「大丈夫だ」
 そう言って千夜はアイテムボックスから1つの瓶を取り出す。

「これは?」
「回復ポーションだ」
「え、でも普通のポーションじゃ」
「安心しろ。これは最上級ポーションだ」
「え、最上級ポーション! 製造法方が失われた伝説の!」
「そうなのか?」
「ええ!」
「俺は作れるぞ?」
「「「「………………」」」」
 沈黙の一時である。

「そうよね、旦那様は過去から来た伝説の種族だものね。作れておかしくないわね」
「まあそうなんだが、何故か腑に落ちないな。それより早く飲むと良い」
「ええ!」
 千夜から受け取った最上級ポーションを一気に飲み干す。

「凄い。治っただけでなくて体力も回復きてる」
「それが最上級ポーションの力だ。覚えておくと良い」
「そうするわ」
 エリーゼは殺る気充分に立ち上がる。

「エリーゼ」
「なに?」
「これを使え」
「これは?」
「俺が作った剣だ」
 そう言って手渡したロングソード。装飾も何も施されていない。ただの剣。それでも刀身は日光を浴びて輝いていた。

「綺麗」
「名は焔鬼えんきと言う」
「焔鬼……」
「そいつの効果は敏捷性を1.5倍にするのと魔法武装がしやすい武器だ」
「魔法武装?」
「道具や武器などに魔法をかけ、身体能力向上や隠密しやすくする事を魔法付与と言うのは知っているな」
「ええ。勿論」
「だが、魔法属性、火、水、土、風、光、闇6つの属性魔法を武器などに纏わせる事を魔法武装と言うんだ。ま、大抵は使う属性を名前を入れて何々武装と言うんだがな」
「なるほどね。つまり」
「そうだ。奴の弱点は火。そしてエリーゼ、お前の得意な属性でもあるな」
「旦那様………」
「さあ、ここからが正念場だ」
「ええ、分かったわ!」
 気持ちを切り替え、新たな武器を手にエリーゼは討伐対象であるブラッドワームと対峙する。

「クロエはさっきと同じ事を。エルザちゃんは相手を引き付けてエリーゼお姉さまに攻撃しやすくして下さい!」
「わかった!」
「了解です」
(どうやら冷静になったようだな)

「さあ、エリーゼお姉さま。止めはお願いします」
「ええ、任せなさい!」
 返答と同時にブラッドワームに突き進むエリーゼ。
(凄い。体が軽い。これが旦那様が作った剣の力なの)
 先程までとは違う速さに驚くエリーゼ。それでも慢心すること無い。

(魔法武装だったわね。そんな方法があるなんて知らなかったわ)
 体内に流れる魔力を感じとり焔鬼に流し込む。

「行くわよ焔鬼!」
 口から吐かれた強い意思。それに答えるように焔鬼は炎を纏う。

「食らいなさい!」
 相手の懐に入り込んだエリーゼは全力で斬りつける。
 業火を纏った焔鬼はブラッドワームの体を覆う体液をも蒸発させ、そのまま体を切り裂く。

「キュワアアアアァァァァッ!!」
 流石のブラッドワームもエリーゼの攻撃に耐えられなかったのか悶絶の高音が深淵の森に轟く。

「さあ、どんどん行くわよ!」
 そこからは本当の意味で一方的だった。塩酸や触手などで反撃してくるがエリーゼの焔鬼によって斬り落とされ、逆にHPを削られる有り様だった。
 で、最後はクロエのファイヤーランスとエリーゼの火炎武装のコンボ攻撃で倒れるのであった。


 戦闘が終わり、流石に疲れたのか千夜以外全員がその場に座り込んでいた。

「疲れたわ」
「焔鬼は魔法武装を使いやすくする武器だが、そのその反面慣れていないと魔力をいつまでも吸い続けるからな」
「それってつまり」
「鍛練あるのみって事だな」
「ま、そうよね」
「それにしても、ブラッドワームの奴吸引して来なかったな」
 クロエの言葉に疑問に感じるエリーゼたち。

「そういえば確かに何ででしょう?」
「私たちが無理でも魔物たちなら居た筈だ」
「ああ、それなら大丈夫だ」
「どうしてですか?」
「戦闘開始と同時に俺がここ一帯に結界を張って居たからな。吸引することは不可能だ。ま、結界内に数体の魔物は居たが、結局は微々たる回復しか出来なかったわけだ」
「つまりは結局旦那様のお陰なのね」
「何を言っている。今回はお前たちが勝ち取った勝利だ。俺は戦闘には参加していないからな」
「でもあの時……」
「あれは俺が怒りの余り勝手に動いたに過ぎない」
「心配してくれたの?」
「当たり前だろ。俺はお前たちが居てくれないと死んでしまうからかな」
「うふふ、大袈裟ね」
「そんな事はないさ」
 そう言って千夜は疲れきっているエリーゼを抱き締める。それを見てミレーネたちもまた千夜に抱きつくのであった。
(何故ならお前たちは俺の心を救ってくれたんだからな)
 口にすることのない。理由は肌寒さを感じさせる風と共に何処かへと消えていく。

「さあ、休んだら帰るぞ」
「「「「はい」」」」
 こうしてエリーゼたちの戦いは終わった。
 しかし、エリーゼたちが求める新たな力の扉は既に目の前まで来ていた。
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