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第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。
第百十四幕 出発と無論
しおりを挟む次の日、千夜たちは洞窟の入り口に居た。
「本当に行ってしまうのか?」
「ああ、他にも遣らないといけない事があるからな」
そう、千夜たちはまだ、遣らないといけないことがある。そして最優先事項でもあるのだ。
「そうか。心配は無用だろうが下山の時は気をつけろよ」
「ああ」
「クロエ」
「シャイネ……」
「体に気をつけろよ。離れていても私たちは親友だ」
「っ! ああ、心配は無用じゃ。シャイネも長として頑張ってくれ。何時の日かまた里帰りするからの!」
「ああ、その時はまた盛大に宴をしような」
クロエはシャイネの胸の中で涙を零す。それだけシャイネを慕っている証拠だ。
「クロエ、そろそろ行くぞ」
「うむ」
千夜たちは下山する。ダークエルフたちに見送られながら。これは千夜が望んだ結果でもあった。
(なんとかなったな)
背後から聞こえる言葉を聞きながら内心安堵する。
こうして、千夜たちは笑みを浮かべて下山したのだった。これは予断だが、ダークエルフは周りの人々からこう呼ばれるようになる。『魔法武装の一族』と。
一日掛けて下山した千夜たちはすぐさま次の場所へ向かうため馬車に乗り込み移動を開始した。スケアクロウに全てを任せて千夜たちは眠りにつく。
しかし一人だけは窓から夜空と遠くなっていくロッテン山脈を見つめていた。
「眠れないのか?」
「センヤ。ま、そうじゃの」
「後悔しているか」
「いや、してはおらぬ。じゃが……」
「まだシャイネたちと居たかったか」
「うむ」
「すまないな」
「いや、センヤが悪いわけではない。急ぐ理由も知っておるからの」
クロエは健やかに眠るミレーネを見つめる。
「それでも、辛いのじゃ」
「そうか。なあ、クロエ」
「なんじゃ?」
「お前にプレゼントだ」
「プレゼント。いったいなんじゃ?」
木箱を渡され首を傾げるクロエを蓋をあける。そこには、
「通信結晶? なぜこれを我に?」
「それは二つで一つの通信結晶だ。そしてそのうち一つはクロエ、もう一つはシャイネに渡してある」
千夜の説明を聞いた途端クロエの大きな眼から涙が頬を伝い落ちる。
「まったくセンヤは相変わらず卑怯じゃ。変な奴じゃ」
「嫌か?」
「戯け! 嫌なわけ無かろう。これほど嬉しい事があるわけがない」
「そうか」
通信結晶を大切そうに抱きしめるクロエの頭を優しく撫でる。そんな二人の姿が窓からさ仕込む月光に照らされていた。
「センヤ」
「なんだ?」
「我はセンヤと末永く共に生きることをここに誓うぞ」
「ああ、俺もだ。これからも宜しくなクロエ」
「無論じゃ」
満面の笑みを浮かべての言葉に千夜も嬉しくてたまらなかった。
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