鬼神転生記～勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。～

第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。

第百三十幕 闘争本能と約一年ぶり

　馬車に揺られる事数十日。ガレット獣大国を去り、レイーゼ帝国まで戻ってきた千夜たち。
　魔物や盗賊に襲われることも無く平穏に帰路を進む。勿論その間の訓練も怠らないエリーゼたちは既にレベル20近くまでになっていた。
　それでも千夜は満足していない。勿論エリーゼ本人達もだ。エルフの里で出くわしたフィリス聖王国の七聖剣の二人。あの二人と真正面から戦えるようになるまでは。
(いや、最低でも残り５人だな。七聖剣たちには勝てるようになるまではフィリス聖王国に連れて行くわけにはいかない)
　千夜はあの二人が七聖剣の中でトップとは考えていなかった。最悪あの二人が最下位とその次の可能性も考慮すべきだと思うのであった。
(それよりも、俺が全員相手にすれば良いだけなのかもしれない)
　妻たちが心配だからと言うのもあるだろうが、千夜の本音は違う。この世界に来て。バーチャルからリアルに変わったこの場所において百鬼千夜という人物が全力全開を出して戦った事など一度しかない。
　その時も愛する妻が傷つけられた反動で暴走したにすぎない。
　そのため、全力全開で死闘を繰り広げられる相手がこれまで居なかったのだ。
　それは千夜という人物が持つ闘争本能にとって退屈でしかなかった。
　愛する妻たちに囲まれた生活、大切な友人、家臣、従業員たちは確かに凍りついた和也の心を溶かしてくれた。しかし、千夜という人物の闘争本能が叫んでいるのだ。訴えているのだ。
　強者と戦いたい。
　強者に飢えている。と。
　それが叶う相手なのかもしれないのだ。
(そうなるとまたエリーゼたちが拗ねるだろうな)
　エリーゼたちが強さを求める理由は愛する夫を守るためである。それなのに一人で戦ったりすればエリーゼたちは悲しみ、また己自身を攻める可能性もあるのだ。
(七聖剣の部下たちがそれなりに強い事を祈ろう)
　そんな自分勝手な事を願いながら千夜はエルザが淹れてくれた紅茶を口にするのだった。


　あれから数十日。明日には帝都ニューザに到着するというところまで来ていた。
　本当なら後数日はかかる予定だったが、思いのほか馬たちが優秀だったため早く到着しそうなのだ。
(帰ったら新しい馬小屋でも建てるとするか)
　心にメモをする千夜。
　そんな安らかな気分を一変させる集団が現れた。
(最悪だ。これなら盗賊の方がマシだ)
　内心そんな事を思う程の一団。
　その集団の名前をミレーネが口にする。

「あれはファブリーゼ皇国が召還した勇者たちですね」
　そう、千夜が、いや、和也が嫌がる相手。それは約一年ぶりの会う勇治たちだった。