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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第五幕 勇者パーティーVS月夜の酒鬼 序盤

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 紅葉の頼みで勇者パーティーと戦う事となったエリーゼたちは、騎士団たちの第一訓練所に来ていた。
 訓練所の中央で対峙する勇者たちと月夜の酒鬼。
 その二組を囲むようにして観戦する騎士たちと千夜。
 そんな千夜の両隣には、

「おい、どうしてベルグとバルディがいるんだ。こんな所に居て良いのか?」
「安心しろ。今日の政務は既に終わっている」
「俺もだ」
「ベルグはどうかしらないが、バルディ、嘘を吐くな」
「な、何故そんな事を言うんだ!」
「なら、マキに聞いても良いんだな」
 千夜は懐から取り出す振りをしてアイテムボックスから封筒を取り出す。

「悪かった……」
 素直に謝るバルディ。

「それでいい。ま、模擬戦を観戦する時間はあるか」
「ま、まあな!」
(後でマキに報告しておこう)
 自信気に言い放つバルディだが、その声が震えていた事を千夜が見逃す筈も無かった。

「さて、そろそろ良いか」
 千夜は今回審判として両チームの中間まで進む。

「これより勇者パーティー対月夜の酒鬼の模擬戦を行う。ルールはいたってシンプルだ。相手を殺さない限り、どのような攻撃も認める。勝利条件は相手チームを全員戦闘不能にするか、敗北宣言させた方の勝利とする。質問はあるか?」
 両チームに視線を配るが、千夜に視線を向けるものは居なかった。

「それでは………始め!」
 千夜の合図と共に模擬戦が開始された。
 最初に動いたのはエリーゼとエルザの二人だった。
 開始の合図と同時に接近戦である勇治と正利を狙ったのだ。
 定石でいけばここは後衛の真由美か紅葉を狙うところだが、この二人は後衛のミレーネとクロエが相手をする。
(ミレーネの作戦だろう。先制攻撃で狙われやすいのは後衛の魔法使いか僧侶だからな)
 勿論勇治たちもその事をバルディたちに人間同士の集団戦のレクチャーは受けている。そこは逆手にとり、庇おうとする勇治と正利はまさか自分たちが狙いだとは予想もしていなかった。
 一瞬にして懐まで入り込まれた勇治はエリーゼの攻撃を何とか防いだがまともに受けたため左へと吹き飛んでいく。

「勇治!」
 一瞬の出来事に真由美は声をあげる。
(人の心配をしている場合か)
 ほんの数秒勇治に意識を向けていた真由美は正面から迫ってくる矢に反応が遅れる。

「しまっ!」
 避けられないと悟った真由美は早くも脱落する事に悔しさで顔をしかめていく。

「諦めては駄目です!」
 だが、矢は紅葉が発動した土壁によって阻まれる。

「「なっ!」」
 しかし、矢は土壁を難なくと貫通した。その事に驚きを隠せない真由美と紅葉。しかし、ほんの僅かだが、土壁が阻んだ事で真由美は回避する事に成功した。
(なんですかあの矢は、強化された土壁を貫通するなんて!)
 紅葉は矢を放ったミレーネを睨みつけるように見つめる。それに気付いたミレーネは爽やかな笑顔で答える。
(余裕という事ですか!)
 堪忍袋の緒が切れかける紅葉。それがミレーネの作戦だとは気付いていない。

「紅葉後ろ!」
「え?」
 真由美の言葉で振り向くと目の前に短剣が飛来してきた。

「くっ!」
 躱そうと身体を捻るが交わしきれず、左肩に短剣が刺り、それと同時に熱さと激痛が紅葉を襲う。
(最初っから狙いは私だったのですね)
 この時ようやく理解する。
 集団戦闘において回復系魔法使いは重要となる。
 戦争で言えば、補給物資を狙った攻撃といえば分かるだろうか。
 それだけ回復担当の魔法使いは集団戦において重要な存在なのだ。
 そのため誰もが最初は後衛の僧侶、回復系魔法使いを狙う、しかしミレーネはあえてそれをしないように見せかけるため、エリーゼとエルザに勇治と正利を最初に攻撃させたのだ。
(っ! 視界が歪む)
 ただ短剣の攻撃を受けただけにも拘わらず紅葉はその場で膝をつく。

「紅葉!」
 慌てて近寄ってくる真由美。

「今は戦闘中です! 私は大丈夫ですから敵に集中してください! 」
「っ! 分かったわ!」
 紅葉の喝が利いたのか真由美の顔から不安が消え、後方で弓と短剣を持つエルフとダークエルフを睨みつける。

「よくもやってくれたわね!」
 無詠唱で発動したのはファイヤーランス。それが全部で30個。
 その光景を観戦する騎士やベイベルグ、バルディは驚きの表情を浮かべる。
 それもそのはずで、無詠唱で30ものファイヤーランスを発動するなど、宮廷魔法士でも一人居るか居ないかである。それだけ真由美の魔力量とこれまでの鍛錬の証拠なのだ。
(この一年間でよくここまで強くなったな)
 内心感心する千夜。

「食らえ!」
 一斉に放たれたファイヤーランスはミレーネたちに目掛けて飛んでいく。
(だが、その程度でミレーネたちを倒すのは不可能だ)
 迫り来る三十ものファイヤーランスをミレーネは表情を変える事無く対処を始めた。

「アクアウォール」
 淡々と呟かれた短縮詠唱。
 そこから発生する水魔法はミレーネとファイヤーランスの間に高さ4メートル幅5メートル、厚さ1メートルの水壁を創り出した。
 次々と水壁に突き刺さるファイヤーランスは、刺さると同時に蒸気を発生させながら消滅していく。
 魔法勝負において互いの魔法が正面からぶつかりあった時、一番重要なのは魔法に込められた魔力量である。
 そのため存在進化を果たしたミレーネの魔法に真由美の魔法は吸い込まれるようにして蒸発していったのだ。
(真由美は複数のファイヤーランスを具現化した分。コントロールに必要な精神力と魔力を残す必要がある。しかし、ミレーネはたった一つの魔法を発動しただけだ。どう考えても込められる魔力量はミレーネの方が圧倒的に多い)
 水蒸気で相手を確認できない真由美だが、それも数秒の事だ。

「そんな……」
 絶望を含んだ言葉が零れる。
 目の前で対峙するミレーネとクロエは平然と立っているからだ。

「クロエ、お願い」
「分かったのじゃ」
 真由美の状態など無視してクロエはダークゲートを複数出現させ、そこに短剣を次々投擲する。

「真由……美………逃げ…て……」
 意識が薄れていくなか紅葉は願いを込める。
 しかし、無常にもその願いは叶えらることは無かった。
 目の前で数本の短剣が真由美のあらゆる場所に突き刺さる。
 その光景を目にした紅葉はその瞬間意識を失った。
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