鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第十二幕 虫酸が走るとスカウト

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「初めまして、カズヤ・アサギリ・私は七聖剣が一人、ライラ・オネストだ。貴公の事は噂で聞いている。たった三ヶ月でSSランクまで上り詰めた『孤高の蒼槍使い』。実に興味が沸いた」
「七聖剣のお一人に興味を持たれるなど、恐悦至極にございます」
「止めろ」
「何がでしょう?」
 和也の言葉に眉を細めて不機嫌な表情になる。

「その虫唾が走るような言葉遣いをだ」
「ライラ様! 流石にそれでは民の者に示しがつきません!」
 ラケムは慌てて進言する。しかし、

「ラケム。お前の言いたい事も分かる。が、私にとっては些細な事だ」
「しかし……」
「くどい」
「分かりました」
 ラケムは威圧を含むライラの言葉に気圧されてしまう。

「分かったなら普通に話せ」
「なら、遠慮なく」
「ふふっ。許可したとはいえ、平然と素で話すとはな」
「ライラ様がそうしろって言ったんだろ」
「確かにな」
「で、興味を持って貰えるのは本当に嬉しい。だがな、たった三ヶ月と言ったが、噂ではたった二週間でSSランクになり、今ではXランクになった冒険者が居る。そこまでライラ様に興味を持たれる程では無いと思うがな」
「それは違うぞ。貴公は人間だが、奴は混合種だ。忌々しい魔族の血を引く男だ。だが貴公は純粋な人間だ。それだけで私にとっては興味を示すに値するのさ」
「そうか」
(身分差に興味が無いから、大丈夫かと思ったが、やはり種族差別どうにもならないか)
 後ろで一束にした金髪を持つ凛々しい女性を見つめながら思うのであった。

「で、ここから本題だが。カズヤ、私の部下にならないか?」
 突然のスカウトに和也は内心不敵な笑みを浮かべる。その姿は千夜そのものと言っても他ならなかった。
 だからと言って直ぐに受けるほど和也はバカではない。

「俺みたいな怪しい人間を部下にするのか?」
「あははは!」
「ライラ様……」
 和也の言葉に腹を抱えて笑い出すライラ。その姿に戸惑いを隠せないラケム。

「そうだな。確かに私は最近までお前について部下に調べさせた。しかし、三ヶ月前からここ一年間の情報が一切無い。何処で生まれ、何をしていたのか。全て不明だった」
「そんな人間をよくもここに連れてきたな」
「確かにな。だが、それは一年間だけだ。貴公は異世界人なのだろ?」
「どうしてそう思った?」
「隣国のファブリーゼ皇国が約一年前に異世界から勇者を召還した。召還した人数は全部で5人。しかし、その内の一人は初めての実戦で毒矢を食らい命を落としている。それが、お前だな」
「よく調べたな」
「それなりに優秀な部下を持っているからな。だが、どうして貴公は生きている。アンデットやスケルトンになる事もなく」
(凄い威圧だな)
 小動物を狙う肉祝動物のような鋭い視線に乗せて威圧を飛ばしてくる。
(正直に話したほうが懸命だな)

「俺が最初この世界に来た時、とあるスキルがあった。今は無いがな」
「それはなんだ?」
「魂の輪廻とあった。未だによく解っていないが、一度だけなら死んでも復活できるスキルだと俺は思っている」
「そうか」
「信じるのか?」
 簡素に呟くライラの一言に驚きを含んで問い返す。

「貴公が人間のまま私の目の前に立っているからな」
(確かに)

「で、私の部下になるのか、ならないのか?」
「………はぁ、頼むから射殺すような視線を向けないでくれ。それじゃ、脅迫だぞ」
「そうか、すまない。欲しいものはどうしても手に入れたくなる性分でな」
(だとしても、普通の平民だったら失禁するレベルだぞ)
 内心呆れて嘆息する。

「で、返事は?」
「勿論、お受けする。俺はどうしても強くなりたいからな」
「それは裏切り者たちに復讐するためか?」
 真剣になのか、それとも皮肉なのか曖昧な口調だが、和也は気にすることなく本心をかたる。
「復讐するつもりが無いと言えば、嘘だ。だが、今は復讐するつもりは毛頭ない」
「なら、何故強くなりたい」
「二度と死にたくないからな」
 死んだ過程をしらない。ライラたちが知っているのは目の前に立つ朝霧和也という男が毒矢によって一度死んだという事実のみ。だからこそ和也の言葉に納得する。

「すまない、そうだったな。死んだ事のあるお前だからこそ解るのだろう。経験者は語る。だな」
 悲しげな表情で納得するライラ。それはけして同情からの表情ではない。彼女もまた魔物討伐の際、部下を何人も失っている。その中には和也同様毒に侵されて死んでいった者達もいるからだ。

「別に気にする事はねぇよ。俺はこうして生きている。だから次は死なないために強くなる。それだけだ」
「そうか。よくわかった」
 凛々しさの象徴と言うべき女性が見せる和むような笑みは男性の理性を狂わせる。
(エリーゼたちの前に会っていたらやばかったな)
 揺らぎかける和也は横で控えるラケムに視線を向けると、頬を赤く染めていた。

「だが、これからは私の部下だ。一度仲間に裏切られたからと言って特別扱いするつもりはない」
(いや、既にしておりますよ。ライラ様)
 内心ツッコミを入れるラケム。

「部下を信じ、背中を預けろ。良いな」
「善処はするさ」
「うふふ、最初はそれで構わない。明日、宿で手続きをしたらまたここに来てくれ」
「解ったよライラ様」
「あ、それともう一つ」
「なんだ?」
 部屋から立ち去ろうとする和也を呼ぶ止める。

「私の事はライラで構わない」
「わかったよ、ライラ」
 遠慮することなく呼び捨てで呼んだ和也は今度こそ部屋を後にし、宿屋へと向かうのだった。
(これで、なんとか潜り込めたな)
 内心そんな事を思い安堵する和也であった。
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