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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第二十四幕 もう一つの戦場と流血
しおりを挟む魔族軍との戦闘が始まって約一時間が経過しようとしていた。
既に魔族軍は5割以下となっていた。それに対し三日月の剣騎の損害は微々たるものだった。これだけでも素晴らしい功績といえる。だが、時間稼ぎにはまだ足りない。王都までは馬を走らせたとして3時間はかかる。しかし今回は村人たちがいるそれも半分は重軽傷をおった者たちだ。そうなれば最低でもあと一時間は時間を稼がなければならないのだ。
(ま、この調子だとその前に本当に殲滅しそうだけどな)
内心そんな事を思う和也は背後から襲い掛かってきた魔族を鈍頭型の石突きで殴り飛ばす。
そんな時、和也に念話による通信が入る。
(スケアクロウか。どうした?)
(はっ。想像主様の推測道理になりましたので一応報告にと)
(そうか。で、敵はどれ位だ)
(およそ二千かと。しかしその全てがアンデットや洗脳された村人たちでございます。案ドットならば問題ありませんが洗脳された村人たち戸惑い思いのほか苦戦しております)
(だろうな)
魔族や亜人、盗賊とは違い。強制的に戦わされているためなかなか攻撃できないのだ。ましてその相手が村人となるとどうしても剣が鈍ってしまうのだ。
(やはり、こういうところは帝国の方が上かもな)
(間違いなく)
帝国は確かに人間や亜人種を差別しない。それは他国から見れば優しいや甘いと感じるだろう。しかしそれは武力、兵力、戦力向上のためどうしても人間だけでは限界があると悟ったからこその答えでもあるのだ。だからこそ帝国は他国に比べても圧倒的力を持っている。それは精神面でも同じことだ。いかなる状況であろうと帝国に刃を向けるものは容赦はしない。そのための訓練もしているのだと。和也は半年前にベルグから教えて貰ったばかりなのだ。
(もう少し戦況が悪くなったら加勢してやれ)
(畏まりました)
念話を終えた和也は再び戦場に集中するのだった。
***************
魔族軍と三日月の剣騎の戦いを蝙蝠の目を通して観戦していた一人の青年は苛立ちのあまり爪を噛んでいた。
「何故だ。下等生物の分際でどうしてここまで出来る! こでは僕の計画が台無しじゃないか!」
見た目は20代後半の青年。しかしその口調はどう見ても悔しくてたまらない子供そのものだった。
「僕の見立てではあの女とその補佐以外は足したこと無い筈だったのに。どうしてこうなるんだ!」
青年は苛立ちのあまりせっかくの美男が崩れかけていた。それだけでなく爪を噛んでいる右親指からは流血し始めていた。
「これも全てあの男のせいだ」
青年の脳内で蘇る男は蒼槍を持ち平然とこちらを見上げていた。
「いったい何者なんだ。あんな奴がいるなんて聞いてないぞ!」
ついには親指の爪を剥ぎ取ってしまう。大量の血が流れるにも拘わらず青年は怒りのあまり痛覚が麻痺していた。
「あの男だけは僕の手で殺してやる! 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!」
殺意を剥き出しにし、殺害予告を何度も連呼する。
「仕方が無い。こうなったら気分転換にもう一個の方でも観戦するかな」
青年の目に映る光景が変わる。そこでは騎士たちとアンデットや洗脳された村人たちが戦っていた。
「そうだよ~、これだよ~。苦痛と悲劇で歪んだ顔。これが見たかったんだよ。ほら、早く殺さないと死んじゃうよ~。でも殺せるかな~。そいつらは君達が守るべき者たちだからね~。あ、殺されちゃった。あはははっ! 情けない~! 騎士が村人に殺されるなんてダサすぎでしょ!」
観戦する青年の口調は和也と会話したときのように弾み、先ほどの怒りもどこかに言ってしまっていた。
それでも青年の瞳は紅に輝きながらも淀み、濁っていた。
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