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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第二十五幕 囮と思ってるのかな~
しおりを挟む戦場を駆け抜ける蒼槍使いは誰よりも速く確実に敵を屠る。その姿は味方であれば心強く。敵であれば恐怖の対象でしかなかった。
そんな彼の背後を護るのは七聖剣が一人、ライラ・オネスト。
人間でありながら人外の力を手にした女騎士と異世界の少年は敵陣のど真ん中で戦っていた。
「まったく何時になったら終わるんだよ」
あまりの多さに呆れる和也。
「そう嘆くな。これも作戦だ」
「分かってるけどさ……」
和也自身も理解している。だからといってやる気が上がるかと言われればそうではない。
数十分前のこと、幾度の突撃で敵勢力を半減させた三日月の剣騎。しかしそれは相手に馴れと耐性を与えた。その結果、突撃に成功しても敵を倒せる量が減っているのだ。
ライラ自身も何度成功するとは思っていなかった。逆にこれほど成功したことに内心驚いていたぐらいだ。だがそれもここまでであり、ライラは第二の作戦を提案した。それは、
「私とお前だけは敵陣中央に残り囮になり、その間にラケムたちが外から攻撃する。お前だって賛成したではないか」
「いや、確かにそうなんだがな。まさかここまで囮に釣られるとは思っていなかったんだよ」
作戦実行前に賛成した自分を殴りたいと思いながらも和也は的確に近場の敵を突き殺す。
「お前が見誤るなんて珍しいな」
出会ってからそこまで親しくないにしろライラは和也がどういった人間なのか理解しているつもりでいた。
(沢山戦えるから賛成したなんて言えないな)
本能に従った事が裏目に出たことに後悔する。
「それにしても以外だったよ」
「何がだ?」
「いや、ラケムが囮作戦に賛成した事にだ」
「奴なりに考えた結果だろう。特に今回の囮役は生存可能性の高い者が適任だったからな。そうなれば私とカズヤぐらいしかいないだろう」
「ま、確かにな」
ラケムと和也、ラケムとライラという組み合わせもあったが、生存確率が高いのと部隊を指揮する関係上この二人になったのだ。
「だが、それにしたって本当多すぎだろ!」
半分以下になったとはいえ、それでも四千弱はいまだにいる。半分にしても二千弱。それだけの敵を倒さないといけないと考えると和也は億劫になりかけていた。
(千夜なら楽勝なんだがな……)
最強の力を都合の良いときだけ欲する和也である。
「安心しろ。それももう終わりのようだ」
笑みを浮かべて和也に投げかける。
「そのようだな」
地鳴りを起こす蹄、轟く雄たけびを肌で感じた和也もようやくかと笑みを浮かべ、襲い掛かる敵の喉を突き刺す。
「ライラ様! ただいま任務を完了致しました!」
互いに目視できる距離まで接近した時、ラケムが弾んだ声で叫ぶ。
「よくやった! カズヤ行くぞ!」
「分かってるよ!」
真横を駆け抜けようとする三日月の剣騎に合流したライラたちはそのまま中央から左翼に向けて突撃を開始した。
ライラと和也の囮に釣られた敵は密集しており勢いのある三日月の剣騎によって薙ぎ払われ、吹き飛ばされ、踏みつけられていく。まるでドミノ倒しの一部だけが倒れているかのような光景だ。
敵陣を突破し反転した三日月の剣騎。
「よし! このまま行くぞ!」
「させると思ってるのかな~」
「っ!」
鼓舞するライラの上空に突如現れた青年。
藍色のセミロングに紅に輝く瞳を持つ青年は一人の少年をただ睨み付けていた。
「ようやくお出ましのようだな」
和也もまた空から見下ろす吸血鬼を不適な笑みを浮かべて見上げるのであった。
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